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イタリア猫ショートショート<あと44話>

猫のかかわった小さなお話です。

erena

猫の命名

エレナは、横に寝ている夫のヴィっトリオが、うわごとを言っている気配で目がさめた。

だが、ぼそぼそとはっきりと聞き取ることはできなかった。
次の夜、エレナはまた夫の寝言を聞いた。
「りりー、君を・・・」
りりー、君を愛している・・・そう言ってるのかしら?とエレナは疑った。

夫が留守をしている間、エレナは夫の書斎の仕事机の引き出しをあけてみた。

クレディットカードの明細を見つけたので、彼女がチェックしていると、ブルガリの香水やブレスレットの明細などが目にとまった。
わたしのためじゃあないわねえ・・・
「やっぱりそうだったんだわ!」

「リリー、君を愛してるよ」
3日目の夜、夫は確かにそう言った。
        

遠縁から猫を貰ってほしいと言われたとき、エレナはすぐにその気になった。
夫のヴィットリオも、猫が大好きなことを知っていた。

「ねえ、どんな名前にしようかとあれこれ考えてるの」エレナはさりげなく言った。
「リリーなんてどう?」

ヴィットリオは最初ちょっと動揺したふうだったが、やがて妻の顔をまじまじと見ながらこう言った。
「悪くはないけど、これ、雄だろ?それならもっと男性的な名前、たとえばヴァン二なんてどうだい?」

エレナの顔色が変わった。
夫がまさか自分のアマンテのことを感ずいているとは、夢にも想像していなかったからだ。(K)


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| 猫.cats,gatti 100の足あと | 01:09 │Comments0 | Trackbacks0編集

イタリア猫ショートショート/あと
猫にまつわる楽しい物語風エッセイです
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赤猫・トラ TORA/2

彼女はこともなげに言ったのだ。
「この界隈には、お腹を空かせたヒッピーがいっぱいたむろしているのよ」
女将の顔に心なしか、うす気味わるい笑いが走ったのを、見たような気がした。

テーブルに座って、メニューを見ていても、哀れなトラのことが眼に浮かぶ。ほとんど食欲がない。それとも暑さのせいだろうか。汗が吹き出してくる。何を食べたらいいんだろう。

後ろから僕の肩をドンと叩いて、トマーゾが足早に通りすぎた。
彼は気合いのかかった明るい声で言った。
「おい、今夜は兎の特上のがあるぞ。アローストだ!」

『ダ・トマーゾ』から、それ以来足が遠のいた。同じ繰り返しのメニューにも、もう魅力を感じなくなっていたし、兎は絶対に食うまいと決断していたから、兎を盛んに勧める若主人にもわずらわしかった。
そしてトラの姿を二度と見る事はなかった。
                      *

九月の半ばになりヴァカンスも終って、街中も活気が出て来た頃だ。
勤めていた所から下宿まで、天気の良い日は歩いて帰っていたから、サン・ロレンツォ広場の古代遺跡の中を通り過ぎることがよくあった。

ある夕方、そこを通りかかると、金髪に無精髭のヒッピーらしいのが、円柱に背を持たせかけるようにして、フルートを吹いていた。通りすがりの人々は足を止め、感心したように、甘い奏でに耳を傾けている。

夕陽にうす桃色に染まったローマ時代の遺跡は、やさしいフルートの音色に包まれ、日頃は廃物のような場所が、古典的な雰囲気をかもしだしていた。
市電が通り過ぎるとき、がらがらと凄い騒音に音色はかき消されるが、何処吹く風とヒッピーは吹き続ける。小さな箱の中にコインをいれる男女が結構いた。

フルートを吹いている男の横で、相棒らしい半裸の少年が石台に座り、猫を膝に乗せて戯れていた。

太ったこの黄色の虎猫を、僕にはたしか見覚えがあった。
食べられたかも知れないと思っていたトラではなかろうか。

やがて少年に持て遊ばれているのが煩わしくなったのか、トラらしい猫は前足で体を支えるようにして起き上がると、大きなあくびをした。それからゆっくりと少年の膝元から離れて、フルートに聞き惚れている人々の中に紛れ込んで行き、何の恐れ気もなく体をすり寄せて回るのだった。
この珍しく人懐っこい猫に、人々は頭を撫でてやったりして、愛の返礼をする。

トラは僕の所にもやって来た。そして同じ事を繰り返す。この猫、いやトラは、僕の事を憶えているのだろうか・・・

『トラ!』と小声で呼んでみたが、素知らぬ顔をしている。背をかがめて顔を覗きこんだ。見覚えのある黒い真黒な小さな瞳・・・やっぱりお前はトラだね。そうだろう?
やがてトラは人々から離れると、その貫禄ある姿でのっしのっしと教会の裏の方へと遠さかって行き、姿を消した。

その日、久々に『ダ・トマーゾ』に食事に行った。

相変わらずきっちりのブラウスで、豊満な胸をあらわにした女将は、僕の姿を見て、
「あらまあ、あんた、まだ生きていたのね」
などと言い、愛想よく手を差し延べてきた。

トラのことを尋ねると首を横に振って、あれ以来一度も来たことがないという。
「きっとうちよりも、もっと美味しいものを食べさせてくれる所を見つけたのね」
女将はちょっと妬むような色合いで言った。(おわり  K)

| 猫.cats,gatti 100の足あと | 12:17 │Comments0 | Trackbacks0編集

イタリア猫ショートショート/あと45
野良猫の物語風エッセイです。

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赤猫トラ・/1

赤猫トラは、僕がイタリア、ミラノに来て初めて巡り会った猫ではなかろうか。
 
「ねえ、この猫、何て名前?」
「ないのよ、まだ。あんた、何かいい名前があったらつけてあげて」

 真っ赤なふちの眼鏡をかけ、水色のブラウスからはち切れんばかりの胸をあらわにした女将が、釣り銭を渡してくれながら言った。
 一週間くらい前から、レストランの中をうろうろしている図体の大きいオレンジ色の虎猫に、まだ名前がないという。いや、もともとあるのかも知れないが、誰も知らない。こいつは迷いこんできた猫なのである。
「そうだなあ、えーっと・・・」
 イタリアに来て数ヶ月しかたっていない自分に、急に名前を考えてと言われても、ちょっと無理な話だ。だから幼稚な、ファンタジーのない名前しか浮かんでこなかった。

「トラなんての、どお?」
 だって、こいつ虎猫なんだもの・・・というお粗末さ。
「トラ? ふーん、トラ・トラ・トラのトラね。面白いわぁ!」
 女将は歌うように言って笑った。

 それからは、カウンターでエスプレッソを入れながらレジも勤めるこの女将をはじめ、サービスのため、汗だくでテーブルを駆け巡る30半ばの息子や、台所を受持つ女房やコック、常連の客たちから、トラ、トラと呼ばれて大虎猫は結構人気者になった。

 トラは夕方の開店時間に、何処からともなく、のっしのっしと必ず現れた。
テーブルの下をごそごそと這い回り、親切な客のおめぐみを頂いて、腹いっぱいになると、また、のっしのっしと何処やらへ姿を消した。
何才かわからないが、栄養が行き渡ってて、まるまると超えて、毛はつやつやとしていた。
そして、黒い小さな瞳の、実に愛嬌のある顔をしていた。

 レストランの名前は女将の息子の名を取った、『ダ・トマーゾ』。
 ミラノの心臓部、ドゥオーモから、市電で6、7分南に下りた、雑然とした下町の小さな食堂(トラットリーア)である。
 ローマ時代の神殿を加護するかのように、500年の歴史を持つサン・ロレンツオ教会が君臨する。

その僅かな隙間をぬって、ぐーっと曲線を描きながら、石畳の上を市電がのろのろと通り過ぎる。

 昼間からヒッピーや浮浪者などが、風化した大理石の円柱に寄りかかって、ギターを弾いたり、半裸で陽を浴びたりしている。けだるい穏やかさのある広場だったが、夜になると麻薬をやる者の溜まり場でもあったらしい。
遺跡と教会を囲むように、古ぼけた看板の店や、壁の崩れかけたアパートが密集していた。

 何処からともなく猫も姿を現わす。イタリアの遺跡には野良猫はつきものだが、ここサン・ロレンツォ広場は街のど真ん中だから、ローマの遺跡には及ばない。でも、仰向けになって昼寝をしている猫たちもよく見かけた。

そんな場末に『ダ・トマーゾ』はあった。
その界隈の下町っ子や労働者、独身のサラリーマン風が食べに来るところで、女客は少ない。
姉弟としか見ない母と息子は働き者で、店は結構繁昌していた。
中は意外とこぎれいで、今思えば懐かしい白地に赤いチェックのクロースの、四角いテーブルで、客達はカラッファの安ワインで食事をしていたいた。

現在のように冷房などない時代でも、何しろ300年以上も経っていそうな建物だから壁が厚く(1メートルはたっぷりありそう)、夏でもひんやりとしている。夏の間はドアを開けっ放しにしているから、トラのような厚かましい猫は平気で入って来れるのである。

魚や肉を食べている客の足許で、じっと辛抱強く待っているトラの表情には心うたれるものがあり、笑いを誘った。
猫を煩わしがったり不快な顔をする客はいない。真剣そのもので見上げているトラと眼が合うと、客は淡々として、肉の一片を足許になげ与える・・・

したたかなトラは、別の客がもっと巧そうなものを食ベていると、さっそく場所を移動する。
先の客が再び投げ与えようとして下をみたら、あれ、トラがいない。トラは、別のテーブルに運ばれて来たばかりの、見事な魚のご相伴に預かろうと、同じポーズでじっと待っているのである。

ところが、巧そうに魚を食べている客が、トラに気が付いていないのか、それとも全部自分で食べてしまいたいのか、一向にお裾分けをしてくれないので、トラは又すごすごと元の客のところへ戻って来るのだった。

『ダ・トマーゾ』では、カタツムリの料理も『今日のお勧め品』として度々メニューに出ていた。フランス風ではなくて、ぐつぐつ煮込んだ、いかにも田舎風の料理である。
その当時(1973年頃)は魚屋の店頭でも、箱に入った大きなカタツムリをよく見た。
勿論生きていて、抜け出してのろのろと箱のふちを彷徨うカタツムリ。
時代変わって、いまではそんな光景はミラノでは全く見られない。もう、カタツムリがいなくなってしまったのかもしれない。
そして、兎の料理も・・・兎は週に一回は必ずメニューにあった。


毎週日曜日に、僕はミラノ郊外に住んでいる家族の昼食に呼ばれていた。
「外では、何を食べるんだい?」
テーブルを囲んだとき、五人息子の一人に聞かれた。
彼らは僕がアパートもまだ定まらず、下宿をしていて、外食を強いられていることを知っていたのだ。

「えーと・・・昨日は、兎を食べたんだっけ。旨かったなあ」
のんびりと答える僕に、五人の息子達が、顔を見合わせてクスリと笑った。
「気をつけろよ、兎には」
長男が、くそ真面目な顔で言ったものだから、兄弟達は又、笑った。
「何がおかしいんだい? 結構旨かったよ」

怪訝な顔付で問い返すと、大学に行っている次男坊が後を続ける。
「僕達は外では兎は絶対に食わないんだよ。だってさ、兎ではなくて実は猫かもしれないもの。気をつけた方がいいぞ」
まさかと、半信半疑の僕に、次男坊は繰り替えした。
「冗談言ってるんではないんだよ。皮を剥いでしまったら、兎も猫も見分けがつかないほど似てるんだから、客には絶対にばれっこない。違いといえば、猫の方がいくらか味がいいんだそうな。もちろん俺はまだ食ったことはないけれどね」
「おい、食ったことがあるんだろう? 白状しろよ」と一人がけしかける。

猫狩りというのがいて、野良猫を生け捕って肉屋に売りつける、けしからん奴もいるという。
僕は、あの陽気で善良そうな店の若旦那、トマーゾが顔をしかめながら、猫の皮を剥いでいる姿を想像した。
そのときから『デ・トマーゾ』だけではなく、外では絶対に兎は食うまいと決心したのだ。

数日後、仕事の帰りにまた『ダ・トマーゾ』に飯を食いに行った。7月半ばのとてつもない暑い日だった。
トラの姿がない。
「今日はまだ、トラが来てないみたいだね?」と女将に聞いてみた。
「そうなの。この2日間見かけないのよ」
「夏バテしているのかも知れないね」と 調子を合わせると、
「もしかしてヒッピーにでも食べられたのかもね」(つづく)

| 猫.cats,gatti 100の足あと | 00:01 │Comments0 | Trackbacks0編集

イタリア猫ショートショート/あと46話


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名ソプラノと名テナーの悲劇/2

それでは彼らのこと、もう少しおしゃべりしましょう。

マリオ・デル・ボナコ氏にはカラズ嬢との共演で、たった一つ悩みがあったのです。

それは背丈のことでした。
ガラス嬢は173cmは有にある堂々とした体格。デビューの頃は100キロ近くあったのを、涙ぐましいダイエットで70キロまで減らし、ハリウッドの一流美容師を抱えて磨きをかけたので、『ディーヴァ(女神)・ガラス』の名を欲しいままにしました。

一方デル・ボナコ氏はスペインの闘牛士ばりの彫りの深いマスク、スタイルも悪くはないのですが、残念ながら足のほうがちょっと寸足らずで、背丈はやっと175弱、誇り高きヒーローとしてはイマイチです。

(イマイチと言っても理想的プロポーションを誇るカラズ嬢と並んだ場合のことで、他の相手役とのときは全く遜色はありません。何しろ150キロもある有名ソプラノもいて、彼女もデル・ボナコとじゃないとイヤ!などと言い出す始末です。いくら声の世界だといえ、彼、可哀想ですね)

しかもガラス嬢が10センチ以上もあるヒールを履くので、彼にはそれが悩みの種でした。
「いっそうオレもスカートをはいて歌いたいよ」と洩らしたとか。


                 *


スカラ座の後、二人はローマ歌劇場の『アイーダ』で共演することになっていました。

さあ、デル・ボナコ氏の悩みはエスカレート。
精かんなエジプト将軍の役にスカートもズボンも許されませんよね。

それで、カラズ共演用のサンダルを特注しました。
何と10センチも高い代物なのです。
えーとーっ、アイーダ(ガラス)が175プラス5センチのサンダル(アイーダは女奴隷なので、高いかかとは許されない)で計180センチ。
ラダメス(デル.ボナコ)は174プラス13で184、これで良し!

テストで履いて見たとき、重心が取れずくらくらっと。

「どうだい?これでやっと理想的ラダメスに様だだろ?」
と悦に入っていたら、猫のルルが『ニャーァ』、『ワン!』と子犬が叫びました。

仲良しの2匹の動物の意見を聞かず、そのまま舞台練習に出たら足がもつれて、デル・ボナコ氏はひっくり返ってしまい、怪我をしてしまったほどです。

オープニングには、イタリア中のファンがテレビにかじりついていました。
ラダメスがどんな高いかかとのサンダルを履いて登場するかも話題の一つでした。

進行係がノックして「デル・ボナコさん。あと5分です」と言ったとき、
名テナーはサンダルを履こうとして、蒼くなりました。片方のサンダルが,びっしゃりと水浸しになっていたのです。

それは犬のピピー(おしっこ)でした。
彼は血相を変えてガラス嬢の楽屋に怒鳴り込んで行きました。
「どうしてくれる?コロを殺してやる!」

最後の仕上げをしていたガラス嬢は瞬間驚いたようでしたが、落ち着き払ってこう言ったそうです。
「コロはこのサンダルはよくないって言ってるのよ。わたしも同感よ。悪いこと言わないから、今まで使っているサンダルにしなさい」
ガラス嬢は励ますように言いました。


彼は、いざと言う時のために用意していた、いままでのサンダル(3センチ)を履き、舞台に立ちました。
そして、足許にびくびくすることもなく、開幕一等の至難中の至難の「清きアイーダ」を立派にこなしたのです。
ガラス嬢も1センチくらいの低いサンダルを履き、相手役に協力しました。

      


『アイーダ』の夜はまだ終っていません。

オペラは順調に進み、第2幕2場の『凱旋の場』を控えて、舞台裏は大混雑していました。
無理もないことです。像やキリンや牛などの動物もかり出されるので当然です。

裏方さん達は神経過剰になっていました。キリンがまだ出番でもないのに、首をにゅーっと舞台へ突き出そうとしたからです。

デル・ボナコ氏の楽屋で仲良くお留守番をしていたコロとルルは、付き人がちょっと油断した隙に部屋から飛出すと、一目散に舞台裏へと走り出しました。
彼らが舞台裏に着いたときは、第2場のトランペットが高らかに鳴りはじめたときです。駆け込んできた犬と猫に、さあ大変!裏方さんたちが捕まえようとすると、グ~~ゥ、ミャ~~ォと牙をむきだして唸り出すのです。もう、放っとく以外仕方ありませんでした。

舞台は暗転して、貢ぎ物の動物がどんどんステージに向かいます。

象が出ようとしたときでした。
猫のルルは象の背中にひょいと飛び乗りました。犬のコロが飛び乗りが苦手なのを、象が鼻で捉えて無事に乗せてくれました。
コロとルルは並んで後ろ足で立ち、前足を胸に置いてステージに出て行ったのです。

照明係が彼らに特にスポットをあてたので、観衆は大喜びです。

そして、動物達が出そろうと、合唱にあわせてルルはデル・ボナコ氏の足許に、子犬のコロはガラス嬢の足許にお行儀よくお座りして、不動の姿勢です。

コロもルルもさすが、名歌手に育てられているから、『アイーダ』のこと、いやオペラのことは充分理解してるんですね。
批評家もそのことを書きたてました。


               *


世紀の名コンビとうたわれた2人でしたが、引退は以外と早く訪れました。
でも、『アイーダ』事件以来、2人は本当に良き友達になり、互いを励まし合い,立派な舞台を見せてくれたのです。
デル・ボナコ氏は、
「マリア、君と一緒に故郷のタオルミーナで歌いたい。30年も旧友を待たせているんだ」

カラズさんも快く引き受けて『アイーダ』を共演しました。もちろんコロもルルも出演しました。


                *

「こんなに早く舞台を去らねばなかったのは、君の責任だよ」
コロとルルのお墓の前でデル・ボナコ氏が言いました。

「あら、あなたの責任と思っているのよ」

相手に負けまいと、もっともっといいところ見せようと、無理をしたというのが2人の考えのようです。
ステージでは命がけの戦いだったのでしょう。

そのお陰でファンは,オペラの歴史に刻まれる素晴らしい舞台と、声を堪能することが出来たのです。

現代のオペラシンガー達には耳のいたいところですね。(K)









| 猫.cats,gatti 100の足あと | 06:12 │Comments2 | Trackbacks0編集

イタリア猫ショートショート/あと47話


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名ソプラノと名テナーの悲劇/1


マリア・ガラス女史は戦後のオペラ界を制覇した世界的名ソプラノ。
マリオ・デル・ボナコ氏もカルーソーの再来と詠われた世界的名テナー。

二人の共演は世界中のオペラファンの夢でした。
容姿も完璧な2人を、世界の一流歌劇場が争って共演を実現させようとします。

そして、ついにそれは夢ではなくなったのです。
彼らの共演の夜は、切符を10倍も100倍も吊り上げてしまうダフ屋がうろつきますが、それも完売なのでした。

ところが・・・
歴史的名演とうたわれた名コンビの『ラ,とラヴィアータ』ボストン公演の翌日、あるゴシップ記者がすっぱ抜いたのです。

「舞台では仲良く悲劇のカップルを演じてても、実際には,2人は犬と猫の仲。
共演の後は、どっちがカーテンコールが多かったか口論するのはいつものことだ。
『あたしは12回呼び出されたわ』とガラスが自慢すると、
『ボクは10回だったけど、拍手のボリュームがすごかったのは、君、知ってるよね?』
と、デル・ボナコが反論する具合なのである」

以後、本番寸前になってもめごとが多くなり、ファンをやきもきさせるのですが、それだけに実現された夜は、興奮の渦と化すのでした。

ガラス女史は大変な愛犬家でコーギーを飼っているのは有名でした。
そのコーギーが子供を産んだので、彼女は大喜び。

外国の公演先から自宅に電話して、愛するコーギーの声を電話で聞かずにステージに立ったことはありません。一度など、家政婦が「コロ(小犬の名前)が風邪気味なの」と、つい喋ってしまったので、心配のあまりガラス女史もザラザラ声になってしまったとか。

以来、公演の旅にも連れて回るようになり,あげくのはては、楽屋にもお供させるほどになったのです。

「マリア、考えてくれ。劇場にペットはちょっと」
抗議する支配人に、
「契約キャンセル?それとも犬OK?]
高飛車に出られて、泣く泣く劇場は承諾したのでした。

黙っておれないのがデル・ボナコ氏。
「じゃあ、オレも愛するルルを連れて来てもいいんだよね?」
そして、最愛のペルシャ猫ルルを楽屋に連れて来るようになったのです。

                 *

スカラ座オープニングの12月7日の夜。
ヴェルディの『仮面舞踏会』で幕は開きました。

第一幕も無事に終って・・・
第二幕の魔の山のシーンです。

魂をかけて忠誠を誓う部下の、妻と君主の密会。

このオペラの白眉、デュエットの最中、どうしたことか、ガラス嬢はいきなり黙りこんでしまったのです。
そして・・・

ハクショーン!

大きなクシャミを3つもしたのです。
指揮者はオーケストラにストップをかけ、彼女の再スタートを待つことしばし。

会場は騒然となりました。
いきなり反対派(どこにでも敵はいるものです)が、大声で笑って手を叩いたので、彼女は悔しそうに涙しながらも、気を取り直して指揮者に指示を与え、最後まで歌い切ったのでした。

それは、プリマドンナの実力と権威を認識させた、忘れがたいステージでもありました。

その夜はイタリア大統領や某国の女王陛下も臨席していたのですが、この名歌手に惜しみなく拍手を送っていたということです。

公演後さっそく記者会見がありました。

激怒したガラス嬢は質問も待たず、開口一番、
「猫の毛が鼻の穴に入ったのよ!愚かなデル・ボナコの憎むべき猫の!!」

至難でドラマティックなドゥエットの最中、彼女が大きく息を吸ったとき、猫の毛がふわっと吸い取られて鼻の穴をくすぐったというのです。

「3つのクシャミは凄い!手で鼻を押さえることは出来なかったのですか?」
「デル・ボナコがしっかり抱きしめている腕の力を抜かなかったから、私は金縛りになっていた」

リカルド伯爵に扮するデル・ボナコ氏の黒いマントには、猫の毛がいっぱい付いていたというのです。舞台袖で、
「マリオったら、猫の毛だらけよ。ブラシを当てなさいよ」って注意したら、

「これかい?ボクのPortafortuna(幸運を呼ぶ印)なんだ。コスチュームにルルの毛が付いていると、不思議によく歌えるんだ。抱いて歌っている気分でね」
(例え,抱き締めてるのが君でもね)

デル・ボナコの記者会見は別の日にありましたが、彼は痛そうに足を引きずっていました。
クシャミの後、彼女のかかとで、思いっきり指をふんづけられんだそうです。

「ステージでマリアを抱き締めると、いつも犬の匂いがすんだ。ときには強烈にね。でも彼女のPortafirtunaだと思って知らん顔してるんだよ」
と、やり返したとか。(つづく)




| 猫.cats,gatti 100の足あと | 06:00 │Comments2 | Trackbacks0編集

イタリア猫ショートショート/あと48話
猫物語風エッセイです。


見知らぬ客/3
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次の朝のことだ。自分の腕が軽く触られている奇妙な感触で眼が覚めた。
おや?ミヌーかなと思って眼を開けて顔をよじると、稲妻のごとく黒い影がぱっと眼の前を横切った。
なんとジャスなのである。
まだたった2日しか経っていないのに、もう、こんなに慣れ慣れしさ。
お前、調子良すぎるぞ。

陽は高くなっているが、明け方まで本を読んでいたので猛烈に眠い。
目覚ましを見やると、8時35分を指している。
なあーんだ、まだ、8時半か。まだまだ早いじゃんか。夏休みですることはなにもないんだ、

だが・・・

待てよ、ジャスの朝飯・・・何時だったっけ?
『ご飯は(必ず)毎朝八時半に与えていますのでよろしく』
この時計はいくらか進んでいるから、言うなれば8時半ジャストなのである。

そうだったな。それにしても習慣とは恐ろしいものだ。
でもこう眠くてはどうしようもない。

『ジャス、分かるだろう? ここはおまえの家ではないんだよ。だから自分の家のように、なんでもかんでも同じようには行かないんだよ。あと30分だけ寝かせてくれよね』

そして僕は再び眠りに落ちてしまったのだ。

しばらくして、軽く頬をぽんぽんと叩かれたような気がした。眼を開けると、ジャスがまた僕の胸を跳びこえて隠れてしまった。

「おまえしつこいぞ。性格は飼い主に似てくるっていうけれど、これほどまでに・・・」

どこに隠れてしまったんだい? 上半身を持ち上げて部屋を見回すと、ミヌーが昨日と同じところにうずくまっている。ことの成り行きを見守っているのだ。
僕のほうへちらり、そしてジャスが隠れているとおぼしきベッドの下へちらり。

『ジャスさん、あまり無茶をなさらないで。うちの主人は一旦癇癪をおこすと、手に負えなくなるのだから』

時計は九時をちょっと過ぎている。
『ご飯は、毎朝かっきり8時30分に決まっているので、その通りお願いいたします。お宅の猫とは違って、ジャスは規則正しい生活に慣れているのです。飼い猫にはそれが大切なのです!』
花村氏の声と顔が迫ってくる。

「畜生! 郷に入れば郷に従えとか何とかと言うではないか。こうなったら、あと一時間、絶対にメシなんか食わせるもんか。言いなりになればこの2週間、神経が参ってしまうのはこっちなんだから、最初が大切、最初が!」

又、眠ろうとしたが、もう眼が冴えてしまって眠れない。だが、こうなったらこっちも意地だ。眠っているふりをして相手の出方を見ることにした。数分たったが何も起らない。そのうちにまた本当に眠気が。

だが、3度目は確かに起ったのだ。
ジャスは僕の鼻の先をがぶりと噛んだのであった!
「痛ってェ!!花村ネコ、何をする!」
だが、それも軽く、歯形が付かない程度に。
猫って、人間よりも行動をコントロール出来る動物?などと、しみじみと感心している場合ではない。
僕は飛び起きた。
「分ったよ、分ったってば!」
このままにしていたら、4度目は何が起るか分らないぞ?
薬箱はどこだ?救急車の電話番号は?!

台所に駆け出して缶詰めを開けた。
もちろん、それからの12日間、僕が自分の役目をどう果したかは、ここに記すまでもないことである。(見知らぬ客/完/K)

| 猫.cats,gatti 100の足あと | 08:36 │Comments0 | Trackbacks0編集

イタリア猫ショートショート/あと49話
預かった猫の物語的エッセイ
見知らぬ客2


見知らぬ客/2

「ジャスのこと、よろしくお願いいたします。もちろん、お帰りになってからで結構です」

旅行に出る寸前の花村夫妻の言葉を、ボクはぼんやりと、人ごとのように聞き流していた。
ボケがとんだ災難に巻き込まれたのだ。くどくど考えたって仕方がない。
花村氏は日本に帰ってしまったのだから。

 ジャスは花村氏のご自慢の猫である。
中庭のジャスミンの木の下に捨てられていたのを育て上げたのがジャスなのだそうだ。
今はもう五才くらいにはなっているはずである。

「うちのジャスほど立派な猫に今まで出会ったことがない。成長するに従ってますます素敵になって行く」
これが、花村氏の口癖なのであった。

「なるほどK君。お宅のミヌーはとっても可愛い。でもね、うちのジャスの素晴らしさは格別なんです」などと、その時はなぜだか急にイタリア語になって言う。

花村氏はフリーの翻訳家で結構売れっ子らしい。
猫の自慢ばかりではなく、仕事のことでも自画自賛する。
ダ・ヴィンチ展のカタログを日本語に訳したとき、
「とってもうまく出来ましてね。もしレオナルドがこれを読んだら、涙をながして感動したことでしょう」
と、いったぐあいだから、愛ネコの讃美などは朝飯前なのだ。

『御飯は1日一回、ひと缶全部、朝、8時半に与えていますので、よろしく』

時計を見ると、あれっ、もう9時をとっくに回っている。だが構うもんか。
だいたい我が家では、主人も猫も決まった時間に飯を食うことなど、そうめったにはないのである。
この家に居候する者は、すべてこちらの流儀に従ってもらおう。

それにしても、ジャスの奴、なんで唸っているのだろう。
猫は見知らぬ家に泊まったりすると、不安で興奮状態になるとは聞いていた。
しかも、毎日顔を合わせている主人が突然消えてしまったのだから、無理もなかろう。

 ボクは400百グラムの『キティカット』を全部 プラスチックの器の中に移すと、ベッドの下からでも見える所に置いた。
とにかく凄い量だ。ミヌーは一日にこの3分の1だって食べない。それにどう言う訳かミヌーはキティカットを食べない。嫌いなのだ。彼女の前に飼っていたパンもノリ助も食べなかった。

「花村さんとこでは何を食べさせているんですか?」
そう聞いたことがある。

「キティカットです。うちのジャスはキティカットが大好きでしてね。それ一点ばりです」
正直言って、花村氏はもっと高級な物を喰わせていると思っていた。
ま、いい。よそ様の猫のことだから。

寝室に入ってみて驚いた。
あっ!
四百グラムのキティカットは、綺麗さっぱり、皿をなめ尽くしたように平らげられていたのだ。
数分の間である。
満腹したジャスは、もうベッドの下にはいなかった。
何処に隠れてしまったのであろうか。

                  *

外出から戻って来て、ボクは寝室のドアの前で立ちすくんだ。
 ジャスがベッドの上で、しかも真んまん中に王者のごとく横たわっているのだ。

片腕を胸の中に隠し、別の腕を前に延ばした威厳あふれるポーズで、燃えるようなオレンジ色の瞳を半分開けてこっちを見ている。
黒っぽい褐色の毛並みに、漆のような真っ黒な唐草模様が、オレンジ色の眼とともに異様でもあり優雅でもあった。

その気品と艶やかさ。
「私は毎日必ず2回はブラシをかけています。K君もやっていますか?」

自分は今、花村氏の自慢中の自慢の猫と向いあっている。
そしてはからずしも自慢に相応しい猫であることを認めなくてはならない。

その雄々しさと気品は、仰ぎ見る者を古代エジプトの輝く宮殿の中へと導き、褐色の大理石の階段にくつろぐファラオの愛猫にひざまずかせるのだ。

 ジャスはゆっくりと体を起こし、四肢を思いきり伸ばすと、今度は前足をきちんと並べて座った。
長い逞しい足、そして長い尻尾を綺麗に巻き込んで正座したプロポーションの美しさ、一言で言って「完璧」なのである。

キティカットだけで、こんなに立派に成長するなんて・・・

寝室の唯一の存在感を誇る、テラコッタのベートーベンの影が薄くなる。
『余の前に塞がるとは無礼な!煩わしい。今、シンフォニー第10番を構想中なのだ』

「ヘイ、これは俺のベッドだよ。そこを退いてもらおうか」
初対面の挨拶方々手を差し伸べるtp、牙をむいて、ハーっとやられたので身を退けた。
ベッドはすでに彼のものなのだ。こいつ、ちょっと留守した間に、もうこの屋敷の主人になりおった気分でいる。
どけどけっと追い払ったりしようものなら、何が起るか分からないので、こっちはソファーで横になることにした。

バルコニーの隅に砂箱がある。
いつの間にとてつもなくでっかいのがしてあった。まだ、湯気が立っているって感じのほかほかもの。

臭いなあ、こんなにデッカイと!

砂をかけた形跡がなく、出しっ放しだ。
こいつは少々行儀が悪いぞ。
砂で綺麗にかぶせてしまうのは、猫族の最高のエチケットではなかったのかね?

あのきれい好きで几帳面を絵で描いたような花村氏の猫が、こんな重要な作法を知らないなんてねえ。

待てよ・・・
「家の中に臭いが付くのでね、ジャスがやりたそうな気配を感じると、仕事中であろうと何であろうと、チリ取りを持ってすっ飛んでいってね、その上にさせて、すぐ始末してしまうのです」
なるほど、これでは「出しっ放し」が習慣になってしまうのは当然だよね。

 ミヌーがひっそりとやって来た。
エジプト王宮の貴猫の前では、ミヌーもなんだか『ひっそり』という表現が相応しい。
威厳と優雅さから言えば、天と地の差がある。第一、足が短い。

 ミヌーは箱のなかの出しっ放しをクンクン、じっと見つめていたが、箱の中に入って前足で砂をかいて、一心にかぶせ始めた。

『あらまあ、身分の高い方って、こういうことは、ご自分ではなさらないのね』

 我が愛するミヌーは、ジャスのものを綺麗に始末すると、またひっそりと何処かへ行ってしまった。

そして・・・・
 次の朝のことだ。自分の腕が軽く触られている奇妙な感触で眼が覚めたのだった。(つづき)

| 猫.cats,gatti 100の足あと | 09:01 │Comments2 | Trackbacks0編集

イタリア猫ショートショート/あと50話
猫の物語的エッセイです。
33

見知らぬ客/1

旅行も終わり、3週間ぶりにアパートに戻ってきた。

 もうとっくに真夜中12時を過ぎている。

我がミヌーはどこだろう。あ、いたいた。ミヌーは寝室の隅っこにうずくまって、ちらっとボクを見たが、また視線を反らしてしまった。僕は彼女を抱き上げたが、するりとこっちの腕から抜け出して、またもとの寝室の角に戻り、体をまるくして動かなくなった。
何か変だな、ミヌーの様子が・・・

疲れていたので、ボクはすぐにベッドに体を伸ばした。
うとうとしていて、ふと、いびきに似たものを聞いたような気がした。気のせいだろうか。
いや、耳を澄ませると確かに何か聞こえてくる。ちょっと妙だが、唸る音とは違うようだ。

それにしても何処から聞こえてくるのだろう。このアパートは全く安普請に出来ているから、神経を集中すれば、お隣さんのイビキを聴くくらい訳ないのである。実際、隣のアパートに、サルデニア人が住んでいたときには、あの旦那のは凄かった。だが、今は違う。僕の事務所になっていて、誰も居ないのは確かなのだから。

どうやら下の方からのようだ。
さてーと、この一階下には、保健所に勤める独身の女医さんが住んでいる。
彼女が夏休みまっただ中に出勤することは一応考えられる。
だが、あのほっそりした女医さんが、こんな逞しいいびきをかくのだろうか。さっきよりボリュームを増して来ている。
だが待てよ、あの女医さんに、もしかしたらやっといい人が見つかってと、その男はすごい鼾かきということも考えられる。女医さんの名前は確か云った。彼女は日頃は全く化粧気がなく、ガサガサした感じで、髪の毛もくしゃくしゃ、愛想も抜群に悪い。

だからと言って、アマンテ(愛人)が出来ないなどと断言することは出来ない。
クララ女史のために喜ばしいことなのだ・・・
そしてボクは眠りに落ちてしまった。

               *

 もう、すっかり明るくなっている。やっぱり自分の家はいい。晴れ晴れした気分だ。
体を寝室を見回すと、ミヌーがやはり昨夜の同じ所にうずくまって、こっちを見ている。
だが、こっちの方角に向ってうずくまってはいるが、視点は僕の顔ではなさそうである。
緊張したような、何かに気を奪われている表情のミヌー。

おや、あれは? 
いびきがまた聞こえて来たのだ。いや、いびきにしては変だぞ。妙に動物的だ。
階下の女医さんの、新しい彼氏のいびきにしては、近すぎるし、すさまじいのだ。
まるでベッドの下から、自分の腰の下あたりからジーッと響いてくるような感じなのだ。

・・・ベッドの下?
昨夜それに気が付くべきであった。あのいびきの張本人は意外とこんな近くに潜んでいるのかも知れない。
だが、女医さんの愛人が僕のベッドの下に潜んでいるなんて信じられない。とにかく真相を突き止めなくてはならない。僕上半身を乗り出して、恐る恐るベッドの下を覗きこんだ。

あッ、すごい、ミヌーより5倍もありそうな真っ黒な動物が、暗がりの中にうずくまっているんだ。眼をピカっと光らしたので一瞬身がすくんだ。

落ち着け、絶対にこんな筈はない。悪夢を見ているのだ。僕は忍び足でベッドを降り、もう一度そーっと覗きこんだ。確かにいる、今まで一度も見たことのない大きな猫が。こんなに大きな猫がこの世に存在するなんて・・・またまた牙をむき出してハーッとやったので、思わず後ずさりした。

これはただ事ではないぞ。一体どこから紛れ込んできたのだろうか。これでわかった。ミヌーが一晩中うずくまって何処を見ていたのかが。彼女は明け方まで一時も眼をはなさず、ベッドの下のよそ者に心を奪われていたのだ。

台所のテーブルの上に二つ折りの白い紙が眼に止まった。『K殿』と書かれている。
開くと几帳面な筆跡で、こうしたためられていた。

『K殿
長い夏のご旅行はいかがでしたか?
この節はお言葉に甘えて、2週間ほど、うちのジャスがご厄介になることになりました。
ジャスの御飯は、一日一回、缶詰400g(一缶全部)朝八時半に与えております。
性格はいたって穏やかなので、可愛いミヌーちゃんをいじめたりすることはないと思います。
それでは、よろしくお願い致します。
このままリナーテ空港に行き、日本へ発ちます。残暑にて充分御自愛ください。     花村 』
               
そうだったのだ。すっかり忘れていた。花村氏の猫を預かる約束をしていたのだった。
そして彼は門番に鍵をもらい、さっさと猫を置いてずらかってしまった。
僕が帰ってくるのと数時間の違いだった。
なぜともなく、「してやられた」という感じだ。(つづく)

| 猫.cats,gatti 100の足あと | 00:29 │Comments0 | Trackbacks0編集

イタリア猫ショートショート/あと51話
イタリア猫の大人の童話です。


恐怖の大晦日/後編annno


そして又、ドドドーン!つんざくような、脳の奥までショックを与える爆音。
目が回る。視界が白くなってくる。

ドーン、ドドドーン!

「まあ、きれい!これを見なきゃあ年越し気分がでないわね!」
「ほんとだ!それに年ごとにエスカレートしてくるみたいだ。すっごい大掛かりだ」

サロンの窓をいっぱいに開けて、感嘆の叫びと溜め息を。

ドーン、ドーン

「あ、今度は街の中心の方からだ」
彼らは、一体となって寝室の方に移動する。そこから小さなテラスに出られるようになっている。
乗り出して、白い息をハーハーして、大人の花火鑑賞なのだ。

ドーンドーン。

「すっげえ!火の粉が家の中まで入って来そうだ」
そして、またどやどやとサロンに移動する。そんなことを繰り返す。

ボクはといえば、心臓は早鐘のように打ち、目眩を感じ、体内の器官も活動を中止している。
うろちょろよたよたしていたが、やっと家具の隙間に紛れ込むと、うずくまった。

ああ、この地獄はいつまでつづくのだろうか。

ドーン、ドーン!

               *

「もう、2時半を回っちゃったわ。ああ,疲れちゃった。明日は寝正月、寝たいだけ寝てていいのよ」
奥さんは化粧を落しながらしんどそうに呟く。
「そうこなくちゃあ」

先にベッドに横になった旦那さんが、奇声を上げて飛び起きた。
「臭せえっ。メルダ!」

『ほんとだ。強烈だわ。どっからかしら?ねえ、ちょっと起きて見て」

「あっ、ここだっ!!」

「まあ、マックスったら何て子なの。こんなこと初めてよ」
「花火でショック受けたんだよ。哀れなマックス」

ちゃんと砂箱のなかで・・・事実はボクはベッドと壁の隙間に逃げ込んだときにやっちゃったらしいのだ。
精神分裂を起こした哀れな老猫。
肉体と魂は一緒に衰えていく。
マックス、お前、もうおしまいだ。

昨年までは、ドーン!ショックは酷かったけど持ちこたえた。
でも、今年はもう、ショックに耐える力はなかった、ってこと。

「それにしても、随分立派なのやったなあ。マックスは」
旦那さんが感心している。
「これぞ、幸ウンの印!」彼は叫んだ。
「2009年はきっといいことあるぞ。ブラヴォー、マックス!」

意外なことでお褒めの言葉を頂いた。

「あれっ、こいつテレビの後ろにもやってらあ」
「サイドテーブルの下にもやってたわ」

そうなんだよね。ボクは3日間も『幸ウン』を家中まきちらした。
そして分裂症は正月4日にやっと回復したのだ。

ふっと、ホシムクドリのおじさんとの話を思い出した。
『花火こそ、われわれホシムクドリを衰退させる最高の恐怖』
そう言ってたな。
ミランが勝ったら、インテルが勝ったら・・・・ワールドカップでイタリアが勝ったら・・・・
歓喜のドドドーンで、心臓マヒで何万というホシムクドリが命を落すという。

「もう、大晦日パーティーは禁止だ。マックスがあの世に行くまではもうやるまい」
旦那さんはボクを抱き上げながら言った。
「まあ、そんなのって・・・・」不満顔の奥さん。
「可愛そうだよ。マックの責任じゃあないんだよ」

やさしい。
そんなこと聞くと、もっと長生きしたいなあって気持ちにもなるよね。(K)



| 猫.cats,gatti 100の足あと | 14:52 │Comments0 | Trackbacks0編集

イタリア猫・ショートショート/あと51話
猫の童話。
楽しい大晦日も、猫を飼っている人はちょっとご注意。

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恐怖の大晦日/前編

キミ、クリスマスと大晦日とどっちが好き?
どっちも好きよ。だって、ごちそういっぱい食べられるもん。
ボクは大晦日は大っ嫌いだ。ボクにとって年明けは一年中で最高の恐怖のひとときなんだ。

ふーん、マックスのところは、ごちそう食べさせてもらえないのね?
そんなことない。美味しいもの腹いっぱいの筈だけど、食欲がまるで亡くなるんだ。
へーぇ、あんたって、全く変なネコね。


           *

クリスマスも終って一段落ついたはずなのに。
年越しも近くなると、我が家の女主人はまたまたそわそわしてくる。

「やっぱりアンティパーストは5種類はなくてはね。そしてラヴィオーリ、そのあとはコテキーノ、ああ、ありふれたものばかりだわ。今年は趣向を変えて見ようかしら・・・・」

「ねえ、君、年越しパーティをまた我が家でやるのかい?ロドルフォの女房が引っ越し祝いに、今年は自分ところでやりたいって言ってたじゃあないか」
「無理よ。あんな、小ちゃなアパートでは。今年はカップルが多いから10人くらいになるの。それに加えて、あなたの弟もボローニャから来るかも知れないし」
「やれやれ、年越しくらい静かにノンビリと過ごしたいよ。大騒ぎはテレビだけで充分だ」

とにかく、大晦日のパーティーは今年もこの家で。
ボクは憂うつになる。動悸が早くなって来る気がする。
一年中で一ばん嫌いな怖ーい夜が訪れようとしている。

31日は朝から、お手伝いさんも特別出勤して、ごちそうの準備。
すごいよねえ。12人分なんだから。

夜,9時前後から、客達は次々とピンぽーン、とチャイムを鳴らして、手みやげを持って現れる。
女達はめかしこんでいるけど、男達はノーネクタイがほとんどだ。

                            *

ああ、それにしても懐かしいクリスマス。
クリスマスの昼の正餐会はよかったな。
家庭の一同が集って・・・息子がスキーに行くために欠席、などという我が侭は許されないし、家族以外の人間といっても、独身を貫き通した叔母さんとか、アメリカから帰って来ている従兄弟くらいだから、本当に『身内だけ』の集いなのだ。

お腹いっぱいになったら、今度はプレゼントの交換。
猫が見たって下らない物ばっかり。
嬉しそうに開けて喜びと感謝のポーズをしたりされたり。
全員、すごく上手に演技する。毎年だから、演技もだんだん訓練されていくんだよね。

そのあとトンボンというゲームをやったり、近くの教会の『キリストの誕生』のペルセピオ(雛人形)を見に行ったり・・・・ちょっぴり宗教的で悪くないなあ,クリスマスって。

ボクも美味しいものいっぱい食べて(クリスマスにしか出ないさい最高級のムースだって、たっぷりとね。旦那さんはこれ食べないので)、あとは窓辺で、雪景色を眺めながら、うとうととする。

               *

でも、年越しパーティはかなり事情が違う。
息子がスキーに行ったりで、残された夫妻はのんびりとテレビを見ながら過ごすって人は多いらしいけど、レジーナさん(ここの女主人)は、まだ若いのだ。大勢集って、食べて喋って踊ったりして人生を謳歌する年齢なのだ。
彼女、まだ39才だけど、30過ぎにしかみえないのが自慢。旦那さん42才。

数年前までは、大晦日にはレストランに行ってたらしい。
レストランの中は溢れんばかりの客達。人息で気がふれんばかりだったとか。

寄りによってシルビオ氏(旦那さん)が、生ガキなどを注文のだ。

カキは来たけれど、レモンが届かず、5回も6回も催促しても、汗だくのウエイターは『シー,シーun'attimo』と応じるだけで、風のように通りすぎる。レモンは届かない。
我慢出来なくなった彼、すでに生暖かくなったカキをレモン無しで食べてしまった。
そして家に帰って来てすっごい下痢をして2日も寝込んでしまった。

あれ以来、年越しレストランはご勘弁,と言うことになったらしい。
「我が家で騒ぎましょうよ。大人だけで」

物静かなシルビオさんの、無言の抵抗もなんの、パーティを始めたのが3年前からなのだ。

そして,今年も。
男も女もよく食べるなあ。胃袋どうなってんの?
そしてよく喋ること。そしてよく飲むこと。

「飲酒運転の規制がきびしくなったんだって」
「交通取り締まりはどうせエピファニア後だろ。今夜はうんと飲まなきゃあ」

アイスクリームが終った頃は、すでに11時50分を過ぎている。
旦那さんはバルコニーに出してあったシャーペーンを取って来て栓を抜く準備をする。
奥さんはテレビのスイッチを入れる。どのチャンネルも大騒ぎのショーばかり。
彼らは刻々と迫る新年を待機している。

あと、6秒、あと5秒、4、3、2、1!
シルビオさんが、ポーンと栓を抜いた。タッポ(栓)は勢いよく天井まで飛び,跳ね返って花瓶の中に落ちた。

時を同じくして、ドードーどーッと爆音が響き、ボクは、一瞬、五感が麻痺し、体がふわりと宙に浮いた。(つづく)



| 猫.cats,gatti 100の足あと | 22:05 │Comments0 | Trackbacks0編集

イタリア猫ショートショート/あと52話
初めて飼った猫との、30年も前の辛い思い出です。
飼い主の無知のため、手術に及ばなかった結果。


パンとノリ助との悲しい別れpan

パンは 夜出て行ったまま、もう一週間も戻って来ない。
もう諦めの境地にいたボクは、それでももしかしたら、とパンの帰りを待っていた。

そして・・・
 10日後に戻って来たパンの耳はちぎられ、びっこをひいている前足の爪からは血が滲んでいた。
猫同士の命がけの戦い、そしてボロボロになって、爪を休めるところはここしかないのだ。

さっそく獣医に手当をしてもらったが、パンが静かにしていたのは2日間だけだった。

回復するとまた外へ出たがって泣きき叫び、仕方なくドアを開けた。
猛烈な勢いで階段を下りて行くパン。

2月の初め頃で、一年中で最も寒さの厳しいときだった。
もう永久に戻っては来ないのだろうか。
車に轢かれたり猫狩りに連れて行かれたのではないかという、連想がボクを悩ませた。
そのころ猫狩りのことはよく聞いていたからである。

2週間経ってもパンは戻って来ない。
ついに雪が降り始めた。
僕はノリ助の外出を止めさせようとしたが、無性に出たがるので外へ出してやった。2時間も経ってそろそろ12時近くになったので、まっ白に積もった中庭に下りてノリ助を呼んだ。だが、ノリ助は帰って来ない。

今までこの猫は必ず戻って来たのだ。外泊などしたことがなかったのに・・・兄貴のパンに巡りあったのかもしれない。

『帰れよ。こんな物騒なところ、お前の来るところじゃあないんだ』
『ううん、ボク、パン兄ちゃんと一緒にいたいの』

そんな場面を想像して、ちょっとばかり心が慰められた。 

こんな辛い思いをするのなら猫を飼うのはもうよそうと思った。
床に入ってうとうととしたが又目が覚めた。もう真夜中の3時に近い。そして又ノリ助のことを考えた。念のために、もう一度庭に下りてみようと服を着替え、ドアを開けたときである。
雪にまみれた2匹の猫がするりと家の中に滑り込んで来たのだ。
まぎれもなくパンとノリ助だった。

チビのほうが
『お兄ちゃん、一緒に帰ろう』
と連れて帰って来たのだとまともに思った。

パンはやせ細って猛烈に腹を空かせていていた。
ガツガツと食べて満腹すると、一眠りしてくれると思いきや、また、奇妙な声で泣き出した。
これじゃあ、隣のサルデニア人の家族だって眼を覚ますに違いない。
そんな奇妙な声で泣くのは止めてほしいと耳を塞ぎたい気持ちで床に入ったが、パンは家の中を走ったり家具に駆け上ったり、それはもう野性のフェリーノそのものだった。

こっちが根負けして再びドアを開けると、パンは外へ飛び出して滑るように階段を降りて行く。
ドアを閉めながら、パンはもう戻って来ないだろうと思った。

そしてその通りになったのだ。

ノリ助はパンの相手として貰ってきた猫だった。
白と灰色の斑。紫色の瞳の美しい子ネコで、浅草海苔が大好きだった。
実に陽気で、いつも僕になついていた。僕の後ろを必ずついて来た。だからパンが永久に戻って来なくても、こいつは可愛がってやろうという気持ちがあった。

ところが、ノリ助はパンが出て行った日から急に元気がなくなってしまった。

ソファーの隅にうずくまったままで、食欲もほとんど無くなってしまったのだ。
浅草海苔もほんのひとかけら。
兄貴がもう戻って来ないことを、ノリ助は肌で感じているのだ。

パンが出て行って一週間も経った頃、ノリ助が久しぶりに出たがるので庭まで一緒に下りていった。

ノリ助は僕に体をすり寄せたあと、サクランボの木に軽々と登ってセメントの塀にたどり着くと、暗闇に小さな姿を消した。

そして、2度と戻っては来なかった・・・

その後しばらく猫を飼わなかった。
でも、友人達はボクの猫好きなことを知っている。
あっちこっちから、「もらってよ」「もらってください」と手が伸びる。
数ヶ月も経つと、またその気になってしまった。

3匹目の猫がメスのミヌーだった。(K)





| 猫.cats,gatti 100の足あと | 21:01 │Comments0 | Trackbacks0編集

迷カメラマン、EUROミャオ撮り歩き
南スペイン・トーレモリノスの猫たち

レストランのドン
re1

すっごい大猫なんだけど、このボリューム写真で表せないなあ。
どうして猫って、写真になると可愛くなっちゃうんだろう?
そんな凄みだしたって、ちっとも怖くないよ、写真では。

re2
お客さんのおこぼり(おなさけ?)を待つドン。
辛抱強いよね。
ろーまの遺跡の近くのレストランで、2時間も不動で待っていた猫にあったことあるけど、ついにこっちが根負けして、鯛の塩焼き半分(もしかしたら1/3くらいだったっけ)、与えたら、ガツガツ食べて,
礼も言わずに行ってしまった。
忍耐のある猫(者)は最後には勝つ・・・・これは、イタリアの格言。

でも、こうして待っている姿は幼い。
この幼さに人間はぐらっときてしまう。

re3

re4

料理がくるまでは、リラックス。
猫って、後ろ姿もさまになる。
ドンもやっぱり、耳を切られていた。

ドンは,ノラ?
あ・・・・失礼いたしました。
彼はこのレストランの『客寄せ』なんですぞ。
猫好きは、ドンに会いたくて、また来るんだって。

re5

何てこった。
不況が、ここまで波に乗ってやってくるとは。
とにかく、客が少なくなったよ。
何とかせニャーならん。

こんなとき、ドンは持ち味の貫禄充分になる。(K)

| 巡り会った猫たち | 06:12 │Comments0 | Trackbacks0編集

イタリア猫ショートショート/後53話

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ブラック&ホワイト(後編

「カッフェ・マッキアートにする?」

「ア・・・それ、ルール違反じゃないのかい?ブラックでいかなきゃあ。今夜は」
「ほんとだヮ、ミルクはミルクだけでね。B&W、ミルクは飲んでちょうだいね」

B&Wとはボクの新しい名前らしい。
ボクは白と黒の斑なのだ。顔だって半分が真っ黒。もちろんあと半分はまっ白という、可愛いよりも奇怪な顔。ホローフェイスと言った奴がいる。

皿は白地に黒の縁取り、胡椒入れも塩入れもクロ、床も食卓もチェス風のオール.ブラック&ホワイト。

若い二人は実に奇妙な恰好をしている。

白と黒とシルバー。二人の青い瞳が唯一のカラーだ。
今夜はコスプレごっこの夜なんだそうな。

「どうだい、オレのこれ?」

「前のとあまり代わり映えしないんじゃない。ところであたしのはどう?『銀河食堂』のウエイトレスのをアレンジしたの」

「こんな恰好じゃあ、喰うのに不便だな。あ、またソースこぼしちゃった」

「B&Wは何処?」
「ほら,君の真ん前に座っているだろ」
「あら、全然気がつかなかったわ、マラガで買った花瓶かと思ってたの」


真っ黒やまっ白、ボクのように白黒の斑のウサギたちが、チェス風の床の上を這い回っている。
まっ白や、頭だけ黒い二十日ネズミたちが、男の膝の上や肩に登って、無精髭についたチーズをなめる。

「やだよーっ!くすぐったいよーっ。N3とN5はいつもこうなんだ。B&Wを見習うんだ」

N2とやらは女のこのおっぱいの中に飛び込んだ。
「やめてーっ。ミルク飲みたいなら、ちゃんとテーブルの上にあるでしょ」

ネズミを退治するのは、何千年もまえから猫に与えられた崇高なる使命ではなかったか!

ミャーオっ!
ボクはハツカネズミに飛びかかろうとした。

あれ、体が動かない。一体どうしたんだ?
マラガの花瓶のようにボクも陶器に?
声を出したくてもウーウー、出ない!
金縛り?

「さあ、眠くならないうちにチェスを始めない?」
「OK!」
彼がウイスキーとグラスを運んできた。
「マダム、ブラック&ホワイトはいかが?」

「あたしを酔わせて勝つ積もり?先ずテーブルを片付けてからよ」

彼女は乱暴にボクを両手で抱えて窓際に置こうとした。
「あたし、この置物もう飽きちゃった!」

手が滑ってボクは床に真っ逆さま。ガッチャン!そしてこっぱみじんに。


         *


ギャーギャーミャーミャー!
自分の声で目が覚めた。
助けてーっ!

「あら、目が覚めたみたい」
子供のように若い男女がボクを覗き込んでいた。

「すっごくうなされてたわね。きっと、旅の疲れね。
ええーと、ネコちゃんの名前なんて言ったっけ?」

「ジョン。息子さんの奥さんが生まれ故郷のセント・ジョン島から取った名前なんだってさ」
「こだわったネーミングなのね」

「モシモシ?お宅のMr・ジョン、こちらには戻ってらっしゃらないようです。スミマセーン!」


「さあ、仕事だ。サロンの窓枠は明るいグリーンなんかどうだろうね?」
「いいわねえ。白黒ばかりだから、ちょっとポイントが必要な感じね」(終りK)

| 猫.cats,gatti 100の足あと | 08:53 │Comments0 | Trackbacks0編集

イタリア猫・ショートショート/あと53話


bw


僕はB & W

一週間の旅はやっぱり長かった。

緑に囲まれた積み木のような白い家を遠くから見たときは胸がキュッとした。
生まれて5年間ずっと住んでいた懐かしい家。
もう自分の家とは言えないんだけどね。
猫は家につく・・・そのことわざ通り、新しい家をとおさらばして帰って来たボク。

             *

話は前にさかのぼる。
ボクの飼い主だった息子さん夫婦がカナダに移ることになった。

カナダ生まれの病弱の奥さんは、
「故郷に戻りたいの、あなた、・・・」
愛妻家の息子さんはカナダのセント・ジョンという島に引っ越しを決意し、あちらに仕事も見つけた。

「まだ、子供も出来ないことだし、この一大決心、悪くないよね」
息子さんは奥さんを抱き締めて言った。

ボクは子供のうちには入らないんだよね。
それはペットの宿命なんだ。

人間は『我が子のように可愛がってる』なんて口では言っててもね。


とにかくボクは、息子さんのご両親に引き取られることになった。

車に乗っけられて連れて行かれた新しい住まい。
今までのところから50キロくらい離れている大きな街の中心地。

アパート暮らし。
そりゃあ老人夫婦だけにしては広々したスペースだった。
大きい寝室だってふたつあってね。
テラスもまあまあだったし。
食べ物だって、息子さん夫妻がしてくれたのと全く同じ物を食べさせてくれた。

でも・・・郊外の一軒家が懐かしい。
近くに野あり、川あり、森あり・・・いいなあ、郊外って。


帰りたい思いは日ごとに膨らんで、ついに・・・老婦夫妻には済まないとは思ったけど家出を決心した。

掃除女が地下にゴミを捨てにいくためドアを開けたときを狙って、ボクは飛出した。

残念ながら第一回目の『家出』は失敗に終った。
遠出には慣れてないんでね。
数時間後に公園のベンチでグーグーやっていたら、動物保護協会のボランティーにつかまっちまったってわけさ。

でも、2度目はうまくいったんだ。


             *  


小さな並木道をたどり着いたところに、旧息子さん夫妻の家はあった。

一ヶ月間見ないうちに、庭はちょっと荒れてしまった気がする。

小さな池の縁に、薬屋のベティが尻尾も捲かず、だらしない恰好で昼寝をしていた。
自分の縄張りとでも思い込んでいるようだ。

薄目を開けてボクを見たけど、あら、あんたなの?って感じで、また、目を閉じてしまった。
『どうせまた、帰って来ると思ってたんよ』

テラスのガラスのドアは開いたままだ。
内装とか修理が終ってないのだろう。タイルとか,ペンキの缶などが散らばっている。

空腹だったので、チッキンに直行した。
でも,食べる物は何もなかった。
以前はいつも何か,例えばアメリア製のビスケットなんかが、置いてあったんだけど。
家主が変わればいろんなことも変わるんだな。

二階に上がってみた。
なんてことだ、がらんとした大きな寝室に、バカでかいベッドが中央にあるだけだ。
まっ白なシーツの中で、何かがもぞもぞ動いている。
こんな真っ昼間から、アモーレ?

寝室はすっかり変わっていた。
真正面の壁のクラシックな風景画の代わりに、うんとモダンな白黒の抽象絵画みたいなものが、まだ壁にはかけられてなく、立て掛けてあった。
床は真っ黒なタイル、壁はまっ白だ。ベッドも黒。シーツは白。

「コーヒー飲みたいな。頼むよ」
「あらっ、覚えてないの?飲みたい方が準備するって、結婚の契約だったでしょ?」
「あ、そうだったっけ?じゃあ、コーヒー諦めよーっと」
「ずるいわ、そんなの。あたしだって飲みたいんだから。・・・あ、失言、今言ったこと取り消すわ」
シーツの中の二人。
笑い、また、もぞもぞやりだした。

彼女が顔を出して、上半身起き上がった。
「あァあ、もう起きるわ。あんたも起きなさいよ。このウイークエンド、することいっぱいあるのよ」

彼女は部屋の真ん中で正座しているボクを見つけて、ピーンとはじくような声を発した。

「あら、ネコがいるわ。ほら,見て!」

彼女は手をたたいた。
「あのネコ、電話のネコじゃあなくって?きっとそうだわ」

彼もシーツから顔を出した。二人ともとっても若い、子供みたいだ。

「ほんとだ!こいつ、戻って来たんだ!すぐ電話しなきゃ。やっぱり帰ってきましたよーって。え?今、お宅のネコちゃん、我々のアモーレを観察しているんです!」
夫は歌うように調子をつけて言う。

せっかく戻って来たのにまた、追い返されちゃうってこと?
いやだなあ。もう帰りたくないんだ。

「でも、惜しいわねえ、返すなんて。あたし達が欲しがっていたネコのイメージそのままじゃあないの」
そうこなくちゃあ。

「白と黒に統一した家の白黒の猫。理想的な猫だ。それに、せっかく戻って来たんだから、返すことないよね。ネコの気持ち尊重しようか」

若い夫は敏しょうにベッドから飛び降りると、すくうようにボクを抱き上げた。(つづく)

| 猫.cats,gatti 100の足あと | 12:17 │Comments2 | Trackbacks0編集

迷カメラマン、EUROmiao撮り歩き<6>
トーレモリノスの猫たち


myao ken


家出ネコ、帰って来たら・・・
b1

「おやおや、耳んとこ切られているところをみると、きみも野良ちゃんってことか」
「ううン,ちがうの。ボクの家はあそこの薬局を右に入ったところにあるの」
「スペインでは、飼いねこの耳までパチン!とは知らなんだ」

「ううん、ちがうの。ボクが散歩していたら。捕まえられてどっかへ連れて行かれて、眼が覚めたらこんなになってたの」
「マリンテーゾ(勘違い)。正直言って、ノラにしてはお品があると思ってたんだ」
「グラフィアス」

「もちろん名前はあるんだよな?」
「パブロ」

「パブロ?すっごい!パブロ・ピカソみたいじゃあないか。名前負けじゃあないのかい?」
「マラガはピカソが生まれて所だからさ、ネコもシャクシ(人間)もパブロだらけ。知らなかったの?」
「・・・・知らなかった。ガイドブックを読んでなかったから」

a g 1

「美男君、アップで撮りたいから、もっと近くに・・・どうして離れるんだよ?」
「だって、また捕まって、もうひとつの耳も切られるとイヤだもん」(K)


けんじのひとこと/毎日新聞の万能川柳に、
『家出ネコ、帰って来たら手術ずみ』というのがあり、笑ってしまいました。
そこからヒントを得て書きました。




| 巡り会った猫たち | 03:42 │Comments2 | Trackbacks0編集

迷カメラマン。EUROミャオミャオ撮り歩き/5

ミャオケン 2


トーレモリノスの猫たち
海を見下ろしながら生きるRe(レ)re1

いつからここに住み着いているのはわたしは覚えていない。
ここで産み落とされたのかもしれないが、母親の顔も覚えていない。
わたしはずっと独りだった。いや、眼前に広がる海と風とそれを遮る不毛の崖が私の友であり家族だった。

re   2

たまには肉体の奥深く眠っていた言い知れぬ孤独感が目覚め、わたしは叫びたくなることも、なきにしもあらずだ。でも、自制するエネルギーも持っている。

re 3


re 4

夕刻には必ず人間がわたしに食事を届けてくれる。
それが、女だったり老人だったりいろいろだが、ほとんど欠かせたことがない。
たとえ、その日に食事が届かなくても、不服に思うことはない。
トカゲやねずみを食べ、滝の水を飲んで、いくらでも生きながらえるとこは出来るのだから。

食事の頃にときどき黒猫がやってくる。
わたしたちは話をしたこともない。
友達ではないが敵でもない。

彼はきっと、街中に住んでいるにちがいない。
わたしのように崖を登ったり降りたりすることが苦手なのか、そんな行動を見たこともない。
それに、ここはわたしの縄張りであることを知っているのか、食べ終わると姿を消してしまう。

re5

まれなことだが、ふっとわたしの魂の状態に気紛れが忍び込んで、ふらりと海岸線を歩くことがある。日が傾きはじめ、午後の眠りから覚めた人間たちが、繰り出して来る時間である。

彼らはわたしのために、うやうやしく道をあけてくれる。

re6

日は沈もうとしている。
全ては赤く染まり、わたしの眼球もオレンジ色に染まっているかもしれない。

やがて紫に、そして星がまたたきはじめる。

わたしは夜までの長い数時間を、身動きもせず、海の彼方に視線をこらして過ごす。
下界の人間のざわめきも少しづつ霞んで行く。

そして、やっと眠気が訪れる。
長い夜の始まり。

朝早く、鳥の声とかすかな清掃車の音で眠りから覚める。
真夏の朝の大気と水音のプロローグ・・・・

わたしは寝つきも目覚めも、いたっていい方だ。(K)








| 巡り会った猫たち | 18:06 │Comments0 | Trackbacks0編集

迷カメラマン、EUROミャオミャオ撮り歩き

myao ken

トーレモリノス(マラガ)の朝は遅い 

bi 1

bn 2

「やっと,見つけたぞ。マラガでの、第一号モデルを。
怠け者の人間はまだ夢の中。
スペイン人の寝坊は有名だもんね。さあ、こわがらないでこっちに出ておいで」

「・・・・・」
「名前くらい教えてくれたっていいだろう?」
「さあ・・・ボク、名前知らない」
(ノラってわけか・・・)

「我が輩は、迷カメラマン。みゃおケンだ。遠くから飛行機でスペインのネコを撮りに来たんだよ。協力してくれるね?」

「おじちゃん、何処から来たの?遠いところから?」
「そうだよ。とっても遠いミラノからだ」
「ミラノって、どこ?セヴィリアの近く?」

bn 3

「もっと前に出ておいで。そしてかっこいいポーズを頼むよ」
「だってぇー、写真撮られたことあまりないんだもん。緊張しちゃうゥよ」

「ミャーオって泣いてご覧?」
「どうして?」

bn 4

「ボク、ネコがいるところ連れてってあげるね。もうみんな起きてくるころだよ」

「ムーチョ グラフィニャス!
ところでこんなに早起きしたんじゃあ,一日が随分長かろうね」

「日中はずっと寝ているから」
「腹は減らないのかい?」
「ううん、夜,レストランの残りいっぱい食べるから、朝は抜いてるの。健康に良くないもん」(K)







| 小説とエッセイ | 08:46 │Comments2 | Trackbacks0編集

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すむらけんじ

作者: すむらけんじ
ミラノに住む広告イラストレーターです。このブログは今まで飼った猫、今飼っている猫のことを綴ったものです。
作者は左耳は生まれつき難聴にかかり、人口内耳に踏み切るまでの耳の歴史、未来のことなども連載しています。

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