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イタリア猫ショートショート<あと10話>


カラス・ヴェードヴォ(2)


gatto caiiaas


なんだ、彼女の飼い猫だったのか。
それにしても行儀が悪いぞ。挨拶でもしたらどうなんだよ。
カラスをたっぷり聞かせてやってるんだから。

女が僕に気がついて微笑んだので声をかけた。

「奥さん、ご機嫌いかがですか?」
「あなた誰だったかしら?」
「あなたのお昼寝を妨害して警察に呼ばれそうになった・・・覚えていますか?」

彼女はやっと思い出したらしく、笑ってうなずいた。

(お宅のネコちゃん、カラスの大ファンなんですよ。皮肉なもんですね。カラスはネコちゃんにとって天使の声、または懐かしい母親の声でもありましょう。それに引き換え飼い主にとっては悪魔の声らしいけどネ)

彼女は[CHI](ゴシップ誌。1ユーロ)を閉じて立ち上がった。

「僕はフリーのグラフィックデザイナーです。名前はニンジン、ご覧のとおりちょっと赤毛なのでね」

彼女の名はマルタ。
(マルタとかバルバラとかジェッシカとか、なんとも男が大好きって感じの名前だ)
猫の名前はバガボなんだそうな。
バガボンド(放浪者)からきているんだろう。
マリア・カラスを求めてあっちうろうろ、こっちうろうろ?

「バガボったらとっても頭がいいの。天才的なところがあるのよ」
それは大いに認めます。
彼女は自慢げに言い、いとおしそうにネコを抱き上げた。


「グラフィック?どんなお仕事なの?」
「よかったら見にいらしてください。今日の午後などいかがです?インド直輸入の紅茶などいかが?」
「また、あのキーキー声聴かされるんじゃあないの?」
「いいえ、わがマリア・カラス女史は演奏旅行のため不在ですから」

午後4時ごろマルタがチーズケーキを持って訪れた。
「うちのバガボったらチーズケーキに目がないの。チーズケーキを作り始めたらもう私にまとわりつくので、キッチンから締め出しちゃうこともあるのよ」

「これ、全部カラスなの?」
マルタは天井以外のスペースに張り巡らされたカラスの写真に目を見張った」
「目も口も鼻も大きくて、こんな女どこがいいの?私をいじめた姑になんだか似てるわ」

彼女は最近離婚したばかりだと言う。
姑と喧嘩のときは、夫は必ず母親に付いた、のが理由とか。

僕はCDをかける。薄気味悪い前奏が始まる。そして低いカラスの声。

「これはね、オペラ{マクベス}のマクベス夫人のアリアです。残虐に満ちた彼女の呪わしい狂乱のアリアです」
「いやだわ、こんなの。カラスの声って嫌い!」
「我慢して数分きいてくださいな。そのうち面白いことが起きますから」

そして数分後・・・

「マルタさん、バルコニーを見てください、ほら・・・」

マルタは小さな叫びを上げた。
バルコニーにバガボが行儀よく座って、女主人を見ていたからである。
だが、バガボは主人のほうには行かなかった。
スピーカーの前まで直行すると、じっとカラスの声に聞き入るのであった。

「バガボったら、マルタよ。こっちにいらっしゃい。チーズケーキを一緒に食べようね」

バガボは振り返りもしなかった。アリアに魂を奪われているようだった。
「バガボはカラスが聞こえてくると、必ず上がってくるのです。カラスに魂を奪われた、たぐいまれな素晴らしいネコです」

いらいらしたようにマルタは言った。
「あなた、チーズケーキ、冷蔵庫から出して切ってちょうだい。そしたらカラスも減った暮れもないわよ」

僕はチーズケーキを切った。室内が甘い香りに包まれた。

だが、バガボは鼻をくんくんと動かしただけでケーキに近づく気配はなかった。

マルタは立ち上がって、乱暴にステレオのスイッチを切った。
そのときバガボがすくっと上半身を持ち上げ、じっと女主人を見た。
続けて聴かせてほしいと、その目は語っていた。

「ネコが音楽が分かるなんて大笑いよ。ゴキブリを退治したり、中庭のモグラを捕まえたり、そんな能力しかないのがネコよ!」
嫉妬に満ちた強い声だった。

バガボの青い目が瞬間もっと青くなったようだった。

そして牙をむき出し鋭い爪をたてて、主人に飛びかかって行った。(K)
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| 猫.cats,gatti 100の足あと | 14:37 │Comments3 | Trackbacks0編集

イタリア猫ショートショート<あと11話


voce del pad

カラス・ヴェードヴォ(1)

もう夏もほど近い、いくらか汗ばむ感じの午後。
いっぱいに開けたバルコニーからは、通りの騒音など全く感じない。
今日は日曜日、どこの店もしまって、街中がお昼ねって感じだ。
そして僕も・・・

つんざくブザーに夢を破られた僕はソファーから転げ落ちそうになる。
ドアを開けると・・・
頭はくしゃくしゃで充血した目の女が、いきなり噛み付いてきた。

「いい加減に止めて!何よあれ!キーキー、キーキー、おかげであたし一睡もできないのよ」
こっちだって、あんたのヒステリーで目、覚めちゃったんだ。

僕は小ヴォリュームのステレオを止めた。
「奥さんはマリア・カラスがお嫌いなんですね。申し訳ありませんでした」

「3時間も続けられて、こっちは神経障害をおこしちゃうわ。睡眠妨害で警察を呼ぶわよ!」
すっごい剣幕だ。
カラスの「狂乱の場」を聴かされて狂乱した女って感じだ。
3時間はちょっとオーバーだが、ともかくカラスがヒステリックに歌い続けていたのは認めぬわけにはいかない。
CDは終わったらまたくりかえし、また繰り返していた。気がふれたように。

女は言うだけ言うとサンダルの音も乱暴に階段を下りて行った。

もし、カラス・ヴェードヴォ(死んだカラスの熱烈の崇拝者のこと)であるならば、ベルリーニの「夢遊病の女」のアリアにかんしゃく起こす者なんていないだろう。たとえ、草木も眠る丑三つ時だって。



でも、カラスが嫌いな者、カラスの声をこの上なく汚らしい声と思っている者、第一オペラなんてまったく関心のない人間だって世界中にはたくさんいる。
そんな人間には、遠く微かではあってもカラスの声は神経障害を起こさせるものらしい。
あの女もそのひとりなのだ。やれやれ、アートに見放された哀れな者達よ。

「誰だったっけ、あの女?」
僕はバルコニーから外を眺めながら寝ぼけ頭で思いめぐらす。

たしか・・・数日前に真下に引っ越してきた彼女?
昨日、タクシーに乗るところをちらりと見たけど、どえらく綺麗な女だった。
すらっとしていて、ふっくらした額のプロフィーロが完璧で、ワインカラーのスーツが並木の緑と調和していた。
それに引き換えさっきのあれは・・・女って魂の状態でガラリ形相が変わるものらしい。

翌日、僕はこりもせずカラスを聴きながら仕事に熱中していた。
グラフィック・デザイナーの僕は「カラス・ヴェードヴォ会」の幹事でもあり、来年のカレンダーの製作にもあたっている。6月末に入稿なので、昼寝なんかしている暇なんかないのだ。
9月には印刷完了、もう、予約は始まっている。
無報酬の仕事だがカラス・ヴェードヴォにとって、楽しい仕事にはちがいない。
部屋の中は、壁にも床にもカラスの写真で充満している。
スナップ、ステージ写真、スタジオ写真その他もろもろ。100キロ近くあったデブさんのときの写真も悪くはないが、カレンダーには使えない。ヴェドヴォ達は醜いアヒルの子を待っているのではないのだから。

ブザーが鳴る。
ドアを開けると速達便を手にした見慣れた若い配達夫が立っている。
彼は足元を指して言った。
「このネコ、家に入りたいみたいですよ」
ネコ? オレ、ネコなんか飼っていないけど・・・足元を見る間もなく、ネコはするりと我が家に侵入してきた。家を間違ったんじゃないのかい、このにゃんこ!
配達夫いわく、階段を上がってきたら、ちょこんとドアの前にお座りしていたというのだ。
ネコはカラスの顔の上をお構いなく歩いて行く。
おいおい、気つけろよ。コレクターから拝借した貴重な写真だってあるんだよ。

ありふれた灰色のネコのようだが、えらく耳が大きくピンっと立っている。
鼻がちょっと尖がってるからそう感じるのかもしれない。
でも大きな青い目してあどけない。

ネコはスピーカーの近くに来ると行儀よくおすわりした。
そして、じっとスピーカーを見つめている。
いや、聴き入っているって感じだ。
亡き主人の声を聴き入っている、コロンビアレコードのマークの犬のように?
しばらくすると、横になって体をうずめた。目を細めてまるで眠っているようだが耳は盛んにぴくぴく動している。

僕は出かけなければならない。
ステレオを消すと、猫はむっくりと起き上がり怪訝な顔でこっちを見る。やがて諦めたように身を起こして一緒にドアを出る。そして、さっと姿をくらましてしまった。

翌日からはバルコニーから入ってきた。もくれんの木を登ってそれからツタに飛び移り、そして我が家のバルコニーへ。
帰るときはドアから。当然だ。ネコは登るのは得意でも、降りるのは苦手なんだもの。
ドアのノブに飛び掛ったりするので、ドアのメカニズムは承知のようだ。


カラスが歌っているときに限って訪れる。
入ってくるとおとなしくカラスに耳を傾ける。別の歌手にすると、退屈そうに出て行ってしまう。
「こいつ、カラス・ファンなんだな」
僕は愉快な気分になった。ネコだってカラス・ヴェードヴォがいたっておかしくはなかろう。
カラスの不得意な高音で、バランスが崩れると、ネコは耳をビビビーっと小さくふるわせるのだ。カラスの欠点まで聴き取る天才ネコなのである。


***


あの美人がバルコニーの籐椅子に座って雑誌を見ている。
例の天才ネコらしいのがその近くの小テーブルの上にうずくまっている。
なんだおまえここに住んでたのか。
ネコは僕を見たが興味なさそうに目を閉じた。
(つづく)


| 猫.cats,gatti 100の足あと | 17:27 │Comments1 | Trackbacks0編集

イタリア猫ショートショート<あと12話>


aaa

きれい好きなアンナ夫人

上に住むアンナ夫人は美人で、しかも親切。スマートな旦那もしかり。

気前がよくて、いろいろなものをプレゼントしてくれる。
たとえば・・・旦那が釣って来たばかりの魚のおすそわけ、実家から届いたヴェネトのチーズのおすそわけ、電気屋や壁塗り屋を紹介してくれたり・・・などなど、いちいち例をあげるときりがない。


最近の目立ったプレゼントはこれだ。
4年しか使っていないという真っ白なカーテンであった。
洗濯がきいていて真新しい。

僕が古くなったカーテンを始末して、新しいのを買おうと思い思い、ぐずぐずしているときのことだ。
モダンなヴェネツィア・スタイル(すだれ形式・プラスチック)のにしようかなあなどと思っていたところ、このプレゼント。

ちょっとクラシックだが、もうこれでもいいや、と決める。
タダほど・・・なんて下品なことは言うまい。アンナ夫人に失礼ではないか。

でも、どうしてくださったんだろうかね。

彼女いわく、150年以上も経っている古い箪笥から、昔のレースのカーテンが出てきたので、それを使うことにしたんだそうな。見せてもらったけど、すごいしろものだ。

なるほどねえ、イタリアって歴史がある国だから、こういうものも、ある日、箪笥からひょっこり出てくるんだよねえ、と感心してしまった。


早速アンナ夫人は我が家の天井に合わせて、プレゼント・カーテンの裾を2センチつめてくれる。

我が家は生き返ったよう。

すてきだーと僕は大声で叫んで彼女を喜ばせる。



彼女の欠点と言えば・・・

スーパー綺麗好きってこと。
床はいつもピカピカ、角(カド)だって、どんな近くで目こらしても埃なんかつまっていないんだ。
爪楊枝かなんかでほじくりだすんだろうかね。
(我が家にもやり手の掃除婦が週に2回来るんだけど、さすが彼女が爪楊枝で角のホコリをほじくりだしている姿を目撃したことはない)

こんな綺麗好きな人だから、僕としてはコーヒーだってご招待できない。

どんなに綺麗にコップを洗っても、信じてもらえないのはわかっているから。
(最新の皿洗い器で90度で洗うんだけどね)


「シニョーラ・アンナ、パスタを召し上がりにいらっしゃいませんか?」
一度は言ってみたい、そしてその反応も見てみたい。

「お宅の床、ぴかぴかですねえ」
ボクはため息交じりに言う。

「毎日、丹念に磨くからよ」

そして、こう、おっしゃったのだ。
「綺麗な床なら、こぼしたスープだってすくって食べられる・・・って格言だってあるのよ」

まさかあ、そんなぁ!

・・・うちのネコはそうしていますけど。

「これは例えなの」とアンナ夫人。
恐れ入りました。


こんど、我が家も最高に綺麗綺麗して、アンナ夫人を招待したいという願望はあるんだ。

もちろん、テーブルなし、皿なし、フォーク、スプーンなしで。
まずうちのネコが見本をしめしてくれます。

「アンナさん、冷めないうちにどうぞ召し上がって」(k)

| 猫.cats,gatti 100の足あと | 01:54 │Comments2 | Trackbacks0編集

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すむらけんじ

作者: すむらけんじ
ミラノに住む広告イラストレーターです。このブログは今まで飼った猫、今飼っている猫のことを綴ったものです。
作者は左耳は生まれつき難聴にかかり、人口内耳に踏み切るまでの耳の歴史、未来のことなども連載しています。

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