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niji
イタリア猫ショートショート<最終回>
 

エピローグ


「猫って空想したり考えたりするのかい?それとも本能だけ?」

「猫はいつも夢を見てるんだよ」

「どんな夢を見るんだろうね」

「いろんな夢さ」

カロータはどんな夢を見ながら、この長い年月を過ごして来たのだろうか。

「カロータ!』と呼ぶと、彼はこちらを振り返り、ゆっくりと近づいて来た。体を擦り寄せるカロータを抱き上げると、僕はソファーにうずくまり、時間が経つのも忘れて物思いに耽るのであった・・・・                         

             *

『おーい、カロータ、来てごらん。昨日バルコニーで撮った写真見てるんだ。 ほら,すごいだろう。最新のデジタルカメラで撮ったら、毛一本一本がこんなにきめ細かく撮れているんだ』

『ほんと、きれいだね。無理して買ってよかったね』

『葡萄の鉢植えの下で撮ったのが特にいい。葡萄も去年以上に実がついて、秋の収穫が楽しみだ。たっぷり2キロはありそうだ』

『去年はさて食べごろだと思ったときに、一粒残らずホシムクドリに食べられちゃって、KENは泣きそうな顔してたものね。今年は充分気を付けないと』

『このサボテンの横に座っているのもいいぞ。真っ赤な夕日を背景に、ちょっと逆光だけど情緒があって。お前も結構カメラポーズが良くなってきた』

『生まれてこのかた、きっと千枚は下らない、KENに撮られたのは。だから、もうお好みのポーズも呑み込んじゃった。KENは気取ったポーズが好きだもん』

『と言うより、ネコの美しさをとことん追求したかったんだよ。お前は今まで我が家にいたネコのうちで、一ばん足が長く尻尾も長いんだ。だからどんなポーズだってサマになる。だけと何だな、近頃の写真、奇麗に撮れてはいるけど、何となく覇気のない諦めきった顔しているのはどうしてだい?何が不満なんだい?』

『だってさ、「おれが先かお前が先か」なんて、この頃しょっちゅうKENから聞かされるんだもの。つい、顔に出ちゃうんだよね』『完』 



辛抱強く、最後まで読くださった皆さん。
<イタリアネコ猫ショートショート>も、ちょうど一年経って100話に達しました。

『質より量』の面からは、頑張ったね、と言われそうです。
途中で、やめてしまおうかな、などと考えたこともありましたが、無事に達成出来たのは、これ一重に皆さんのおかげです。

カロータはあの世から、
『貢献したんだから、もっと書いて!』と不服そうですが・・・


みなさん!ありがとうございました。

登場ネコ、一同『ありがとうございニャーした』

  
 
    
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| 猫.cats,gatti 100の足あと | 09:25 │Comments6 | Trackbacks0編集

イタリア猫ショートショート<あと1話>


2ninn

マーチョ先生


「ブラーヴォ、カロータ、お前、とってもブラーヴォだね」
「本当ですか、マーチョ先生?カロータはそんなにブラーヴォなんですか?」

他の猫患者に比べてずっと?
僕はすっかり嬉しくなってしまった。

「いや、そう褒めて猫を安心させるのです」

『マーチョ獣医院』は、我が家の表門を出て、右に20メートル位い行った所にある。
そこへはじめてカロータを連れて行ったのである。




今まではカロータを13年間、グイド氏に任せっ切りだった。
お公家さんのようにおっとりとした風貌のグイド先生は、不似合いなボロ自転車で、昼休みに往診や予防注射に来てくれて、『20ユーロでいいとも』

そしてまた自転車にまたがり、口笛をふきながら去って行った。
不似合いと言ったのは、ベンツの最新型を乗り回しているからである。

ところが、信頼しきっていたグイド先生に、僕は疑問を感じはじめたのである。
あれだけ丸々と肥えていたカロータが、だんだん痩せほそってきた。

「グイド、どうしてこんなに痩せてしまったんだろうか。それに、ゲロゲロ吐き散らすし、食べ物の好き嫌いが多くなって来た。レントゲンかけなくてもいいの?」

「むしろこの年では、これくらいスマートのほうがいいんだよ。太り過ぎだったもの。アメリカ製の缶詰でいいのがあるけど、それを与えてごらん?」

そして、
「ちょっと腸のあたりが堅いけど、しばらく様子を見てみよう」

 快く来てくれるけど、同じ返答ばかり。
「獣医を変えて見たら?あなたの家のすぐ近くに開業したばかりの所が有るみたいだけど、意外といい獣医かもね。」と、親友のB夫人の助言に従った。


「マーチョ先生、往診に来て頂けないでしょうか。この隣のとなりの49番に住んでいるのですが」

「僕はよっぽどの急患でない限り、外診はしないのです」

「そうですか・・・では、ここに連れて来るため何処かで籠を買わなくては。家中探したけど見つからないので」
「籠はお貸ししますよ。明日の朝、9時15分に来れますか?」

 翌朝、カロータは何の抵抗もなく、マーチョ先生が貸してくれた籠の中に入ってくれた。僕らは表通りに出た。カロータはいつもバルコニーの格子の隙間から、賑わう大通りを見下ろしている。
だから始終眺めていた下界に、ついに降りて来たとでもいう心境であろうか。
被せた布の隙間からきょろきょろ覗き見していたが、「ミャーォ」と小さく泣くこと、2,3回。そしてもう医院に着いてしまった。

「体温はノーマルです。でも痩せ過ぎですよ」

 縁なし眼鏡で長身のマーチョ先生は、多分30前。頼りなさそうだ。しかも表情が乏しく冷たい印象を受けるし妙に鼻筋が目立つ。
猫を金属製のテーブルに横たえると、「ブラーヴォ」を繰り返し、体をさすりながら何やら模索している。
胃のあたりに何か詰まっているらしい。

「これは、ウンチがたまっているのかなぁ?」
などと言うので抗議する。

「そんなはずないですよ。毎日必ず黒くて堅いのを出しているのです」

「快便だからと言って、健康に問題がないわけではないですよ」

それもそうだ。
オレだってそうだもの。
カロータの奴、快便にもかかわらず、家中吐き散らす。

いきなりマーチョ先生は、猫の口を大きく開けると、自分の顔をぎりぎりに近づけて、犬のようにクンクンと鼻をならし始めたのである。うへぇ凄い、グイド先生だって一度もこんな事したことなかった。

臭いに敏感な僕には、ネコの口の中を嗅ぐなんて考えることさえなかった。
鼻クンクンの情景に、僕は一瞬にしてマーチョ先生へのプロとしての信頼を高めたのであった。 

先生は点滴を一本、そして、抗生物質とやらの注射を二本もブスリとやった。

「籠は後で返しに来ます。金曜日の市場で買いますから」

「いえ、籠はカロータへプレゼント。どうぞ」
うーん、気に入った、マーチョ先生!

 週明けからレントゲン、血液検査、そしてエコロジー検査が始まる。

「どうします、少し考えますか?お金もかかることだし」マーチョ先生は言った。

だが、僕はこの際徹底的にやってもらうことにした。カロータの一生にただ一度のことかもしれないのだ。少々金が掛かったって、それが何だと言うのだ。

 結果は・・・レントゲンでは肝臓のところに大きな黒い物を見つけた。そして、血液検査の結果が出た。肝臓の何やらの数字が正常より十倍近く高い。

「癌ではないが、これは致命的な病いですね。約一年前から始まっている。」

「手遅れなんでしょうか。それにもう13歳、年を取っているし」

「いや、近頃は20歳まで生き抜く猫はいっぱいいるんですよ。この病気はかかってしまうと治らないのです。あと6ヶ月の命かも知れない。水をガブガブ飲み出したら危険信号です。とにかく、食欲が完全に無くなったら最期だと諦めるのです」

6ヶ月・・・目の前が白くなるほどがっくりして家に戻った。これほどカロータが哀れで、愛おしく感じたことはなかった。
マーチョ先生は魚はだめ、牛肉もだめだと言った。鳥や七面鳥の胸の肉、チーズのリコッタなどが良いと言う。
栄養剤も必要だ。毎日鳥のささみを蒸し焼きにして細かく刻み、アメリカ製の缶詰のパテと混合したカロータ用食事は、今までの『餌』に比べると、超豪華版である。
食欲が無くなるまで、続けてやろうと決心する。

 そして四ヶ月近く経った。カロータの寿命も後2ヶ月限り?
いや、かなり回復に向かっているようだ。心無しかふっくらとして来てた。
カロータはいつも腹を空かせている。腹が減って我慢出来なくなると、後ろ足で立って、前足で僕の体にしっかりと寄りかかる仕草を又始めた。
「うーむ、この調子だと、まだ、1,2年は大丈夫かもしれんぞ」

         *


あれから4年。

「マーチョ先生、うちのネコ、まだ生きていますよ。先生は6ヶ月の命って言ったけど」

「そんなことぼく、言ったっけなあ」

「言いましたよ。忘れたんですか?」
老いてぼろぼろになったカロータはドロンとして目つきでボクとマーチョ先生をみている。




「あと、1,2ヶ月の命です。残念ながら今度は確実です」

そして4ヵ月後・・・・

カロータは逝ってしまった。(K)

| 猫.cats,gatti 100の足あと | 01:56 │Comments4 | Trackbacks0編集

イタリア猫ショートショート<あと2話>
 
amicimici

アミーチ・ミーチの主人

2度ほど、カロータを『アミーチ・ミーチ』という猫専門のペンションに入れたことがあった。
(アミーチは友達、ミーチは子猫のこと)

『アミーチ・ミーチ』 を紹介してくれたのは、トニーと呼ばれ、犬から蛇までペットならナイモノなしの『アニマルハウス』という店の若い主人であった。

「ロンバルディア州では最も良い施設の一つと言われていてね、動物協会から賞も貰っているんだ。なにしろ希望者が殺到するので、すぐにもここに電話してごらん」と、熱心だ。

翌朝、さっそく電話してトニーさんからの紹介ですが、と言うと、

「トニーはわしの甥でのう」

老人の渋い声が、いくらか予期していたようなことを言った。

クリスマスの旅行を翌日にひかえ、約束の時間に、老人自身がグリーンの編み籠をぶらさげて猫を引き取りに来た。
長身で威風堂々としていて一時代前の軍人タイプってとこ。

ニコリともしない。

『愚猫の面倒は見よう。至らぬ危惧は無用じゃ』

「暖房付きがよかろう。一日に8ユーロ高くはなるが」
と抜け目ないところが、軍人っぽくない。

2週間後、旅行から戻って来ると、奥さんらしいやさしそうな初老の婦人がカロータを届けに来てくれた。

『カロータって、とってもお育ちがいいのね』

ありがとうございます。厳しくしつけていますので。

檻から出たカロータは、こっちの心配などなんのその、ケロリとして尻尾を立てて懐かしそうに、部屋から部屋へと歩き回っている。

すっかり信頼を厚くしたので、その次の旅行も ペンション『アミーチ・ミーチ』に預けることにした。

ところがである。
休暇から戻って来てカロータと再会したら、尻の穴が真っ黒に汚れている。
バスケットから解放されるやいなや、落ち着きなく辺りを見回していたが、いきなり砂箱の置いてあるバルコニーに向って、一目散に走り出した。
我慢に我慢していた黒い糞はどろリとしている。

「一体これはどうしたってことです?下痢をしていますよ!」
ボクはネコを連れてきた老人に苦情を言った。

「そうなんじゃ。3日位前から下痢を始めてのう。薬を飲ませて、餌も特別のを与えたんじゃが、まだ・・・」
と、いとも申し訳けなさそうに言う。
あの気位の高そうな老人がまるで人が変わったように、詫びるのを聞いていると、いたく心を動かされた。

老人が「これを続けて飲ませればよかろう」と、置いていった薬で、下痢は翌々日には嘘のように治ってしまった。

数年後にトニー君に会ったとき、老人は心臓マヒで亡くなって、ペンションは彼が引き継いだという。

カロータもあの世で再会しているのでは?



「おじいちゃん、ここでもペンションやってるの?」

「そうとも。猫も人間も一緒に住めるペンションをな。無料で永久滞在ができるんじゃ。おまえのご主人もそろそろやって来る頃じゃとて、一部屋空けといたよ」(K)

| 猫.cats,gatti 100の足あと | 01:00 │Comments2 | Trackbacks0編集

猫ショートショート<あと3話>


mmm


カロータの失敗 & M夫人<その2>



「ジョヴァノット(お若いかた)、ちょっと来てくださいな」

M未亡人は、怪訝な顔の僕の手首を、骨ばった大きな手でしっかとつかむと、ドアの外へぐいと引き出した。

すごい力だ。ヨーロッパの人間は女だって大きな手をしている。
年取ってくると、骨と皮とシミだらけになり、体全体のバランスを崩して、むしろ逞しさが倍増するイメージだ。

片方の手で手すりに体を支えながら、強引に階段を下りていく。

「シニョーラ、いったい何事です?」

こっちを振り返った老婆はまたニーっと笑った。

僕の手首をしっかりと握ったまま自宅のドアを開け家の中に入って行く。
意外とさっぱりとした感じだ。家具も明るい色のものが多い。これは先に逝ってしまった旦那の趣味か、それとも彼女の趣味か。

サロンを通り抜け台所に入り、バルコニーに出る。

当然ながら我が家と全く同じ間取りである。バルコニーから突き出すように、洗濯物用の見覚えのある紐が、五本平行に走っている。

彼女は再び僕の手首をつかみ、体を乗り出して下を指さした。テラスの茶色のタイルが、我が家から眺めるよりずっと大きく眼に迫って見えた。

「ほら、あれを見て!」
M未亡人の指す方に僕は何を見たのだろうか。

それは一枚の女性用パンティなのであった!

パンティは広いテラスの真ん中あたりにふんわりと、クリーム色の艶やかな色彩を惜しげも無く披露している。結構凝った代物だ。絹のように艶やかで、安物とは思えない。

まぶし気にボクの眼は釘付けになった。

ヘーッ、このばあさんがあんな物を?

「お願い、あれ取って来てくれないかしら」

えっ?何ですって?・・・じょーうだんでしょう。
たった一枚のパンティのために、またまた例の苦労を繰り返すなんてとんでもない話だ。

「無理ですよ。夕方、下のご夫婦が帰って来られるでしょうから暫くの辛抱ですよ」

「あたし、恥ずかしいのよ。あっちからこっちから見られちゃって」
 M未亡人ははっとするような流し目で言った。

とにかくあんなところに落っこちてしまったら、どこからでも眺められるのは確かだ。
このテラスは四方を建物に囲まれていて死角というものがない。テラス付きのアパートを願望しながら、こんなテラスでは素っ裸で日光浴だって出来ないではないかと、上から観察していたのだ。

「まあ、気持ちは分りますけどね。テラスに上るまでがそれこそ大変なんです。勘弁してくださいな」

「あんたは猫が落っこちたときだって、中庭から上って行って助けたじゃあないの。わたしちゃんと見ていたのよ」
彼女は心なしかドスのある声で言った。

知ってますよ、
でもね、猫とパンティは一緒にはできません。猫は生きものなのです。


のろのろしていると、食い下がってくる気配を感じて、早々に退出しなければならないと思った。僕は腕時計にちらりと眼をやりながらドアに向かって歩いて行った。

「恥ずかしがる必要なんて全くありませんよ。どこのバルコニーから落ちて来たのか誰にだって分らないのですから」(K)
 

| 猫.cats,gatti 100の足あと | 00:10 │Comments2 | Trackbacks0編集

イタリア猫ショートショート<あと4話>


M 1

カロータの失敗とM夫人<その1>


あの世へ発ってしまった我がカロータの思い出は尽きない。

ショートショートも100話まであと一息。

今日は我がカロータが一生一代の大失敗をやった時の話をしよう。


カロータは4階から2階のテラスに落っこちてしまったのだ。
早朝、ホシムクドリが台所のバルコニーにやって来て植木を荒らしているのを狙い、足を滑らせてしまった・・・というところではなかろうか。

バルコニーの手すりは大理石が敷いてあるので、夜露のためつるっと滑ってしまう。

カロータにとって良い教訓になったはずだ。
この事件の後、2度とこの手すりに飛び上がることはしなくなったのだから。


『テラスの上で赤い猫が泣いているが、お宅のカロータくんのようですよ』

ほんとだ!カロータは大きな鉢植えの隙間にのめり込んだようになって泣いている。

「カローターァ!」
と叫ぶと、はっとこっちを見上げて一瞬泣き止んだが、見上げたまま、又ギャーッギャーとやり出した。

お腹が空いただけでも大げさに泣き叫ぶ猫のことだ。

この悲劇的な叫びはこの界隈の同情を一身に集めるほどの迫力がある。
 
何しろ我が家から7メートルもあるんだから、足の一本くらい折れているかもしれないが、家から外に出たことのないカロータにしてみれば、傷の痛さより恐怖感の方が先に違いない。

1階下のM婦人のバルコニーからはみ出して張られている洗濯紐を見る。
カロータがこれにに引っかかったのは想像できるし、藁をも掴む思いでしがみつこうとして無理だった・・・

カロータは巨大ネコなのである。

だが、いくらか落下速度が低下したことは考えられる。


とにかく即座助け出さなくてはならない。
テラスの持ち主は新婚のアランジ夫婦である。C夫婦がいてくれれば、ちょっと中に入れてもらって猫を連れて帰ってくることも出来る。だが、

新婚さん、共稼ぎで出かけてしまっているらしく、それは不可能。

建築技師のピーノ君が長いアルミの梯子を抱えて来てくれたので僕が上る。
スポーツマンタイプのピーノ君がが登って行って猫を取っ捕まえてくれないかなぁと一瞬思ったが、カロータは僕の飼い猫なのだ。

そこまでは頼めない。

やはり飼い主が行ったほうが猫だって嬉しかろうとピーノ君も気をきかせている?
ところが長ーい梯子でもチビのボクには、充分とは言えないのだ。
おそるおそる最端まで上って、両腕をテラスにかけてグンと力を入れて体を持ち上げ、それから足をかけてよじ登らなければならない。

小学校の時から僕の一番苦手は体操競技だ。
カロータのためとはいえ、この年でこんなことを?

ピーノ君は梯子をぐらつかないように支えてくれている。

ひまな住人たちが窓から覗いているのを背中に感じる。
だから僕は体操のテストを受けている中学生のように、死にものぐるいである。

そしてやっとのこと3回目の勝負で屋根にやっとこさ這い上がって、アルプスの頂上にでもたどり着いたかのようにすくっと立上った。

窓から覗いていた暇な老人の拍手。

さてそれからカロータが隠れている鉢植えまで走リよって、抱き上げようとしたが、興奮してルカロータの爪がボクの腕に食い込んでくる。

「おい、カロータ、オレだよ、落ち着け!」

恐怖で転倒してしまった猫には、飼い主もへったくれもないらしい。とてもじゃないがこんなカロータを片腕に抱いて、梯子を降りたりできるものではない。

「バスケットか箱が必要ですね」
ピーノ君は叫んだ。

敏捷なピーノ君。
小さな段ボールの箱を抱えて戻って来た。
ぼーんと投げてくれた箱のなかにカロータを詰め込もうとしたが、それがまたひと苦労。いつもは箱でさえあれば、あんなに喜んで入ってしまうのに。
やっとこさ詰め込んで、梯子のところまで行くと、ピーノ君が途中まで登って来て箱を受け取ってくれた。

やれやれ飛んだ災難だった。
猫を飼うなんて大変なことだ。

無事家に戻ったカロータはめっためた興奮気味で、泣いたり唸ったりしていたが、午後からはすっかり平生に戻って玉転がしなどやっていたから、ショックで後遺症が残るというデリケートな猫ではないらしい。でもそれ以降絶対に同じ手すりにのぼらなくなったのは流石だ。

さて、僕は梯子を降りるとき、ふたたび我が家を見上げた。
「あっ、又来てるぞ!」
ホシムクドリがまたやって来て鉢植えを荒らしているのである。

「この野郎!お前のためだ、こんな大騒ぎをさせられたのは!」
思い切り両手をパンっと鳴らしたら、おったまげて逃げて行ってしまった。

我が家のすぐ下、洗濯物の紐を引いたバルコニーへ眼を移す。
あの紐があったからこそ、カロータも無事だったと感謝する。
だが、眼にとまったのは紐だけではない。さっきからずっと煙草をくわえ、飽きもせず無表情にこっちを見下ろしているのは、M未亡人であった。

こんな馬鹿騒ぎを楽しませてやったのに、眼と眼があってもにこりともしない。
ぼくが、「ボンジョールノ!」と挨拶したが、風化した石のよう。

実際彼女は年を取った。旦那が死ぬまではああではなかった。
何が気に喰わんのかいつも不機嫌なばあさんだったが、バイタリティーがあった。
我が家の洗濯機が水漏れして、台所の天井にシミが出来たと抗議しに乗り込んで来たときの、あの剣幕といったらすごかった。

だが、旦那が死んですっかり覇気がなくなった。 


         *


そのM未亡人が・・・である。

ビーっと我が家のベルがなった。そして、
真っ赤に塗リたくった薄い唇をきゅーっと左右に伸ばして、M夫人がこぼれんばかりに微笑んでいたのであった。(つづく)

| 猫.cats,gatti 100の足あと | 22:02 │Comments2 | Trackbacks0編集

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すむらけんじ

作者: すむらけんじ
ミラノに住む広告イラストレーターです。このブログは今まで飼った猫、今飼っている猫のことを綴ったものです。
作者は左耳は生まれつき難聴にかかり、人口内耳に踏み切るまでの耳の歴史、未来のことなども連載しています。

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