上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

| スポンサー広告 | --:-- │Comment- | Trackback-│編集

猫、ショートショート <あと77話>
ピアニストの猫
pi




「お別れのときがきたわ。かわいいあたしのミル。でも、たった1ヶ月半だけ。わかってるわね。いい子で帰りを待っててね」
エリーザは三毛猫ミルを抱き上げてほお擦りした。
小学校のときから飼っているこの老猫を、エリーザは自分の分身のように愛していた。

「車が来たわよ。さあ。急いで!飛行機に間に合わなくなるわ」
姉のマルタは妹をせきたてた。
エリーザはもう一度、猫に接吻をするとピアノの上に座らせ、部屋を出て行った。

エンジンがかかり、車は夕暮れの中に遠ざかっていった。
静寂の中で正座したミルは石像のように動かなかった。


ピアニストのエリーザが初めての海外演奏に出かけることになり、その間、猫のミルは姉のマルタのところに預けられることになった。

3日目の夜更け、猫のミルは遠くかすかに聞こえてくるピアノで目が覚めた。

ミルはこっそりと台所から外へ出ると、ピアノの調べに向かって歩き出した。

ピアノはエリーザの家のほうから聞こえてきた。姉妹の家はそれほど離れていなかったので、ミルは難なくエリーザの家につくことができた。

ミルはドアに向かってミャオと小さく鳴いた。

ドアが開き、薄い白のガウンをまとったエリーザが姿をあらわして、ミルを抱き上げた。そしてベッドまで運び一緒に寝た。

翌朝、夜明け前に、ミルは姉のマルタの家に戻って来たので、家族は何も知ることはできなかった。

その夜も、ミルはピアノの調べを聞いて起き上がり、エリーザの家に向かって歩いていった。ドアの前でミャーオと小さく泣くとドアが開いて、エリーザが姿をあらわし、抱き上げた。

そんなことがほとんど毎夜起こっていた。

ある明け方も近いとき、たまたま目を覚ましたマルタが、猫がいないことに不振を感じていたら、ミルが戻ってきた。
マルタが「ミル、どこに行ってたの?」と声をかけたが、まるで聞こえないかのようにかごの中にうずくまり、寝てしまった。

「きっとミルは夢遊病なんだよ」
朝食のとき、笑いながらマルタの夫は言った。

あまり頻繁に出ていくので、マルタは不審に思い、こっそりと様子を伺うことにした。

夜更け、猫が台所から出て行くのを見かけると、マルタはそっと跡をつけた。
ミルはエリーザの家のドアの前まで来るとニヤオーと小さく鳴き、そのままうずくまって寝てしまった。


数日たってエリーザから電話があった。

彼女は演奏会が大成功に終わったことを夢中で話し、次ぎの契約も間違いないだろうと言った。新しいマエストロに恋しているともた。
だが、猫のことを何も聞かないので、姉は老猫の奇行のことは話さなかった。

ある朝早く、ミルの姿が見えない。
日が高く昇ってもミルが戻ってきていないので、マルタは妹の家まで行ってみた。

ミルはいつものようにうずくまったまま、息絶えていた。



マルタが猫を抱いて戻って来たとき、夫がエリーザから電話があったことを伝えた。

ロンドンでの演奏会の後、そのままアメリカへ向かい、長期間滞在することになるだろうという内容だった。(K)

| 猫.cats,gatti 100の足あと | 12:36 │Comments2 | Trackbacks0編集

| top|

コメント

ブログ拝見。マラガでいい構想の3篇を書き上げたようですね。
<幻想の猫>3篇、どれも充実した内容で、新しいジャンルを開き
つつあるように感じました。
『余韻』では<ピアニストの猫>が、『奇妙な味』では<猫のいる部屋>
が心に残ります。
それと、イラストが素晴らしい・・・・

2009.06.09(Tue) 15:45 | URL | teruyuki|編集

ブログ拝見。マラガでいい構想の3篇を書き上げたようですね。
<幻想の猫>3篇、どれも充実した内容で、新しいジャンルを開き
つつあるように感じました。

『余韻』では<ピアニストの猫>が、『奇妙な味』では<猫のいる部屋>
が心に残ります。

それと、イラストが素晴らしい・・・・

2009.06.09(Tue) 09:38 | URL | teruyuki|編集

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://sumurakenji.blog112.fc2.com/tb.php/105-d37d692e

すむらけんじ

作者: すむらけんじ
ミラノに住む広告イラストレーターです。このブログは今まで飼った猫、今飼っている猫のことを綴ったものです。
作者は左耳は生まれつき難聴にかかり、人口内耳に踏み切るまでの耳の歴史、未来のことなども連載しています。

04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -

すむらけんじへメールする

名前:
メール:
件名:
本文:

イラスト、写真、文の無断使用を禁止

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。