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なまなましい生肉の思い出
namaniku.jpg
イタリアでは生肉を前菜で食べる。
日本人が刺身や寿司を頻繁に食べるほどとは思えないけど、とにかく当たり前の食べ物なのだ。
「今夜は生肉かい?たまにはいいな」って感じなのだ。

さて、食べ方は・・・・
一つはカルパッチョと呼ばれるもので、生ハムのように薄くスライスしたものの上に野菜のルーコラや薄く削ったパルミッジアーノをあしらい、レモンとオリーブ油をかけて食べる。
これは僕も大好きだ。イタリアに来てかなり早く慣れた。見掛けも悪くないし、抵抗なく馴染んだ気がする。やっぱり眺めた印象って大切。

もう一つはひき肉の生を食べる。
これは日本人にとってけったいなものに違いない。
これに馴染むために、何とボクは25年もかかったのだ。
ボクも若かったし、何でも食べてやろーって、冒険心もあったけど、やはり勇気のあることだった。見た目もちょっとグロだ。
  

生肉の始めての経験・・・食べなかったけど。
ちょっと古い話になってしまうけど、1970年の初期のこと。

日本からミラノに着いて、すでに見つけてもらっていた場末のペンションに入ったのだったが・・・
 普通のアパートをそのままペンションにしたものだったが、入居人は男ばかり5人。ポスティーノ(郵便配達夫)、クラブで歌っているという長髪の流行歌手、ナポリ大学を停学して働きに来ている学生、それと失業中のシチリア人、そしてボク。

ペンションのオーナーは100パーセント南部の女性で「ベンツィ夫人」と皆が呼んでいた。
何やら車のような名前の彼女は、小柄な男性入居人たちよりも大柄で、色が黒くどこか動物的な印象。

ベンツ夫人は、たまに下宿人を夕食に招待することがあった。

初めて呼ばれたとき。
ジャーン!
奇妙な物がでてきたのだ。
これ,一体なに?
「生肉よ!おいしいわよーっ!」
「うまいぞ!ベンツィさんの生肉は特別なんだ」
と言っても,別にベンツィ夫人の贅肉を食べるわけではない。

小鉢にねちゃっとしたけったいな物が入っている。これが生肉。
ニンニク,トマトケチャップなどなどがミックスされているんだそうな。
彼女はその中に、レモンを加えようとしていた。

レモンをポンっと真っぷたつに切ると,一つを口に。
これ以上健康な歯はあるまいと思われるようなまっ白な(そして大きな)歯で,ジューっと汁を絞り出した。汁は一滴も無駄なく小鉢の中へ。
ますます動物的だ。
レモンって、手で絞るもんだと思っていたんだけどね。
それをまた,スプーンで丹念に混ぜて出来上がり。
そして、食べろ,食べろと進めるのだ。
どうしても,食べられない。
「日本人は魚を生で食べるのに、生の肉が食べられないって、変じゃないか」
結局その夕食では生肉はご辞退した。胃が『入れないでくれー』って叫び続けてるんだもの。

ベンツ夫人は食事中赤ワインをがぶがぶ飲み、若い男達に囲まれて上機嫌。
そして、上気したうつろな目でジーッとボクを見ながら、
「日本ってどこにあるの?アフリカの近く?」などと聞くのだ。

「わたしは若い頃、スカラ座のコーラスにいた」
食事中、いきなり彼女がしんみりとした調子で言い、『恋は野の鳥、〜〜〜』などと急に歌い出したりした。

そのペンション、半年経って出て行ったけど、ボクのイタリア生活の出発点だったのだ。40年近くも経って、たまに思い出すこの頃。
場末のペンション、ベンツィ夫人、生肉とハバネラ・・・

         *

数年経って、あるデザイナーと親交があり、夕食に招待された。
テーブルについたとき、彼は女房に言った。
「あれっ!生肉をこいつ(ボク)に食わせることにしてたんだろ?」
ボクが生肉恐怖症ってこと、彼は知ってたから、特上の生肉をボクに食わせたかったってわけ。しぶしぶご招待を受けたボク。

「今日は仕事が遅くなったので、あの肉屋さんには行けなかったの。冷蔵庫にあるけど、生で食べるにはもう古いわ。だからこの次にね」
職業婦人の奥さんはすまなさそうに言った。
テーブルの上には、美味しそうな料理がいっぱいある。なんで、生肉を食う必要があるのかね?と、ボクはほっとする。

友人は冷蔵庫の中をごそごそやっていたけど、生肉を見つけ出し、クンクンやっていたけど、
「全然,悪くなってないじゃーんか」
「ねえ、あなた、火を通しなさい。間違いないから」
彼はそれには耳を傾けず、挽き肉を小鉢に入れて、ベンツ夫人がやってたように、色々な物を混ぜて、こねまわしている。


「お前も食べて見るかい?美味いぞォ」
と、ボクに進めようとしたときだ。
女房はボクの腕をがしっとつかんで,哀願するように言ったのだ。

止めなさい、食べないで!私は生肉は肉屋でミンチしてもらったその日にしか食べないの。バカな亭主が食べるのは彼の勝手だけど、お客さんには絶対進められないわ」

数日経って彼の事務所に電話したら・・・
ショック!
生肉を食べてあったと言うのだ。
生肉には眼のない彼が、女房の忠告を聞かずに食べたのでバチがあたったのである。「あの夜からすごい下痢と発熱が続き、私は一睡もせず看病だったの。医者をよぶやら、もう,大変だったわ」
と,電話口でまくしたてる女房。そして最後に、
「あんたに食べさせなかったことが、せめての慰めだわ」
と、しみじみ言ってくれた。

戦後の食料事情最悪のときに育った僕には、挽き肉のイメージはあまり上等なものではない。何か余計な物まで混ぜてひいてあるのではないかという疑いが絶えず頭の何処かにあった。そんな不信感の伴う挽肉を使った、まあ好きな食べ物といえば、せめてお袋が作ってくれたジャガイモがたっぷり入った揚げたてのコロッケとか、オムレツくらいだったのだ。
 だから、そんなべちゃべちゃした生肉食うなんて、飛んでもないことだった。

ま!そんなこともあって、「絶対ひき肉は食わないぞーっ。一生食わないぞーっ」って天に誓ったボクではあったが。
こうも長いことイタリアにいると、『郷にはいれば何とか・・・』でいつの間にか馴染んで来るものである。


『美味しいわよ。片意地張らないで食べてみなさいよ
などと、やんわり言われると、『ノー!』と押し通す勇気がなくて食べてしまう。そしていつの間にか、平気で食べられるようになったというのが事実。

「要は信頼だよ。ちゃんとした肉屋で生肉用を買い、その日のうちに食べてしまえば、全く問題はないんだから。君ね、刺身と同じなんだよ
などと、この頃は日本から来る友達にしたり顔で言って、何とか食わせようとする自分。

ごく最近、ちょっと洒落たレストランで昼を食べたときのことだ。
その日は祭日で、予約制の一律メニューであったが、前菜のトップに生のひき肉が出て来たのである。ちょうど握り寿司くらいの大きさと形で、大きな金縁の皿の真ん中にちょこんと一つだけ乗っかったものだった。
淡いピンク色だったから子牛の肉かもしれないが、鮮やかな色からしてテーブルに出す直前にひいたことは間違いない。

 口の中で、微かに広がるレモンとショウガのハーモニー!
僕の知らない薬草も入っているのかもしれない。これほど生肉をうまいと感じたのはイタリアに来て初めてのことだったし、その日、六皿も出て来た前菜の中でもトップに掲げたいものであった。(K)

| けんじの自己流イタリアングルメ | 17:09 │Comments3 | Trackbacks0編集

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コメント

Re: タイトルなし
ウマだけはァーーーー
蛇もカエルもカタツムリもおいしかったけど、ウマだけはぁ・・・・

こんな小話知ってる?
ウマがビアホールに入ってビールを注文した。
バーテンがじろっと見て、こう言った。
「お客さんの顔、長いですねえ」K

2010.02.26(Fri) 07:24 | URL | すむらけんじ|編集

時々馬刺を食べてます。イタリアで食べられる和食の一つだと思います。

ペペロンチーノと胡麻油に醤油だったり(あればコチュジャンに卵の黄身、長ネギを刻んでのっけてユッケジャンとか)、あっさり醤油にみりんを混ぜてショウガで食べたり、レモンにオリーブ油でもいいし。あればカッペリを刻んで食べたり。
イタリアで食中毒は今の所12年住んでてありません。外食した時に一度変な物を出されて一時的に体調崩したことはありますが、それでも2時間程で回復しました。

2010.02.21(Sun) 11:52 | URL | yosiyosi|編集

carpaccio
私は今は 完全ではないヴェジェタリアン!・・・?
美味しい鰹節のだしで炊いたものは大好き!
卵もチーズも目が無い・・・ヴェジェタリアンもどきです。
でも 声が一声も出ないとき 皆が馬肉のひき肉Carpaccioが最高なる薬!!!と 教えてくれて 仕方なくお肉屋さんのカウンター越しにスプーン1杯だけニンニクとレモンも入った出来立てを飲み込んだ覚えがあります。
効いたの!!!
肉屋のおじさんが 何グラム欲しいの?って質問するけど声が出ない!今食べたいって事がわかったらしく 目の前でつくってくれて大匙1杯飲ませて(?)くれたのを思い出します。
サービス!って お金を取らないおじさんだったけど。次の朝には声が出る!!って即効性があって驚き桃の木山椒の木!!!
でも私ヴェジェタリアンでそれっきりのお客で 申し訳ない。
日本の大きなこけしをお礼に持っていったら 店頭に飾って喜んでいてくれます。お前の顔によく似てる!・・・って。
薄切りのCarpaccioも消化が良いそうですね。
お肉って感じでなく 美味しい食べ物 って感じで頂けるそうですね。でも これもナポリのモッツァレッラチーズと同じで やはり イタリアで食べないと美味しくないものでしょうね!

食べ物紹介編はいつも楽しいものばかり 次回はナニを召し上がる?

2009.06.17(Wed) 08:15 | URL | fumi kemuri|編集

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すむらけんじ

作者: すむらけんじ
ミラノに住む広告イラストレーターです。このブログは今まで飼った猫、今飼っている猫のことを綴ったものです。
作者は左耳は生まれつき難聴にかかり、人口内耳に踏み切るまでの耳の歴史、未来のことなども連載しています。

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