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猫・ショートショート あと73編

老人と猫
luccio


その1『十字架ミギイとルッチョじいさん』

悦子さんは、家中を、さては窓から顔を出して叫んでいる。
「ミギィ!ミギィちゃん何処?ご飯が出来たのよ~」

眠気眼でキッチンに入って来た夫に、悦子さんは開口一番、
「大変!ミギィがいなくなったのよ。どうしよう」

「また、ルッチョ爺さんのところに、時間つぶしに行ってンじゃあないのかい?」
「あたしもそう思って行ってみたら、おじいちゃん留守みたいだったわ」

「こんな朝早くから?それじゃあ、ミギィを連れてお散歩かな?」
「冗談はやめて。おじいちゃんはミギィが大嫌いなこと、あなたよく知ってるでしょ」

お隣のルッチョおじいちゃんは、ミギィを嫌っている。いや、ミギィだけではない、何もかも嫌っている。
偏屈でときどき奇妙なこともしたりする。いつも怒ったような、絶望したような血の気のない表情、人と目が合っても知らん顔をする。

6ヶ月前まではそんなおじいちゃんではなかった。
近所でも評判の温厚な老人だったのだ。
最愛の奥さんが急死するまでは・・・・

ある朝目が覚めると、横に寝ていた奥さんが亡くなっていた。
あれ以来、おじいちゃんはすっかり人が変わってしまった。

        *

出かけていたルッチョ老人は、午後戻って来た。
車をガレージに入れる音を聞くと、待ってましたとばかり悦子さんは、窓から身を乗り出して声をかけた。
「ルッチョさ~ん。うちのミギイを見かけませんでしたァ?」

すると、おじいちゃんは、天地がひっくりかえるようなことを言ったのだ。

「ミギイ?わしはあの猫を捨てに行って、今、帰って来たばかりなんじゃよ。我が家に不幸をもたらした呪わしい猫なんでな」

そして老人はこんなことも言った。
「あんたのご自慢の猫の額の十字架に、悪魔の加護が本当にあるのか、わしは見たいんでな。あるならいずれ戻ってくるだろうよ」
意地悪い笑いを浮かべて爺さんは家のドアをバタン!と閉めてしまった。

雄猫のミギィは、普通の赤いトラ猫だが、額の上に白い十字の印があった。
珍しいので、聞きつけてわざわざ見に来る人もいたくらいだ。
地方新聞に載ったこともある。

ルッチョ爺さんの奥さんのベラさんも生前、ミギィをとっても可愛がっていた。
そして自分達の家にも自由に入らせていた。もともと動物には関心がなかったルッチョ老人だったが、愛妻の好きなようにさせていた。

ある朝、ルッチョ老人が眼を覚ますと、隣に寝ているおばあちゃんの枕元にミギィが行儀よくい座りして、おじいちゃんを見ていたのだった。
そしておばあちゃんは死んでいた。

ミギィはおばあちゃんの最期を見取ったのだと、葬儀に訪れた人達は言ってたが・・・

以来、おじいちゃんはミギィのことを憎むようになった。
元気だった最愛の妻に死を運んだのはミギィなのだ、などと考えたからだ。
何度殺してしまおうと思ったかも知れない。

こんな悲しい出来事から、おじいちゃんは世捨て人になってしまった。

「ルッチョさんが、ミギイを捨てに行ったんだって!」
悦子さんは、夫が務めから帰ってくるなりわっと泣きふした。

「それは、穏やかではないな」
夫は悦子さんを抱き寄せた。
「さあ、エツコ、元気をだして。きっと無事に戻って来るよ。神様のご加護を受けてる猫だって、君、いつも言ってただろ?」
警察に訴えるワ、と泣き続ける悦子さんを「しばらく様子をみるんだ」と、たしなめた。
         *

さて、トラ猫のミギイは、海と反対側の山の奥に捨てられた。
ルッチョじいさんの車がでこぼこの山道に消えてなくなるまで、ぼんやりと見送っていたが、やがて、海の匂いのするほうへと歩きはじめた。

途中で民家にたどり着いた。
お腹が空いていたので、ミャオと泣いたら、おかみさんがご飯をくれた。

「あらっ、この猫、額に十字の印があるわ」
信仰深いおくさんは、美味しいものを沢山食べさせてくれた。

旦那さんも子供たちもミギィを可愛がってくれた。
「お前がその気なら、いつまでもここにいてもいいのよ」

ミギィはお腹がいっぱいになると、庭のオリーブの木の下で一眠りしたりして過ごした。
2、3日そこに留まったが、朝早く、また海の匂いを嗅ぎわけながら歩いて行った。

          *

ルッチョ老人はその夜,初めて愛妻の夢を見た。
どんなに会いたくても,今まで夢の中に、奥さんが一度も出て来てくれなかったのだが。

「ベラかい?会いたかったよ」
ルッチョ爺さんは言った。

ベラさんは泣いていた。
「ベラ、私に会えて嬉しくはないのかい?」
「あなた、何てことなさったの?ミギィを捨てに行くなんて。ミギイは私の最期を見取ってくれたのよ」

眼がさめたとき、おじいちゃんの眼から涙が溢れた。
明け方、さっそく山の奥の方まで行ってみたが、ミギイを見つけることはできなかった。

          *

ミギイは2日もかかってやっと海辺に出た。

海に面した崖っぷちに小さな飲食店があって、沢山の猫がいた。
給仕男はミギィにもご飯をくれた。
「奥さん、この猫の額に白い十字架の印が」
「ほんと。珍しいわねえ。それに、きれいな首輪もつけている。きっと飼い主がいるのね。お品もいいわ」
奥さんはミギィを抱き上げながら言った。

「さらわれたのを逃げてきたのかしら?飼い主がきっと探してるわよ」

翌日、外のテーブルで一服していたトラックの運転手がミギィを見て言った。
「まてよ。十字架の印の猫のこと、聞いたことがあるぞ。この州の外れの街だったな、たしか」
トラックの運転手は全国を回っていたから、いろんな情報を知っていた。

「じゃあ、あんたそっちの方に行くんだったら、連れてってあげて」
「OK!」
店の奥さんが貸してくれた籠の中にいれると、助手席に乗せて、運ちゃんは鼻歌を歌いながら走りだした。

日もそろそろ沈みかけた頃、
「さて,着いたぞ。この街にお前の家があるといいんだけどね」
トラックのドアを開けると、ミギィはためらいもなく外へ飛び出した。

あたりをょろきょろ見回していたが、どの方角に行けばいいのか理解したようだった。
ちらっと運転手をみやってから歩き出し、街角に姿を消した。
「やっぱりお前は自分の家が分ってるんだな」

ミギイはなんの苦労もなく、我が家とおじいちゃんの家の前に辿りついた。
まずはと、おじいちゃんの家の庭に入って、赤煉瓦の建物の窓枠に飛び乗った。中を覗くと、おじいちゃんの寝ている青白い姿が見えた。
哀しそうなおじいちゃんの寝姿を見て、ミギィは、ミャーオと小さく泣いた。

                   *

悦子さんはしょげ返って、食事も喉に通らない。
「さあ,元気を出すんだ。きっと戻って来るよ」
夫は慰める。
「昨日、爺さんをちらっと見たけど,何だか随分しょげてたなあ。後悔してるんかも知れんぞ。彼の大好物の卵焼きを作って,ご機嫌伺いに行ってきたら?」

悦子さんは信じられないというふうに夫の顔を見た。
「あなた、少しおかしいんじゃあない?あの憎むべきおじいさんに卵焼き作って持って行けだなんて」

おじいちゃんが独りになってから、卵焼き持って行ったこともあるけど、お礼のひと言も言われたことがなかった。
(そのくせ、卵焼きはちゃんと食べてしまっていたけど)

悦子さんは卵焼きを作った。
そして、おじいちゃんの家のドアを乱暴に叩いて言った。
「卵焼きもってきましたわ。ドアの下に置いとくから、フンズケないで!」

悦子さんがまだ言い終わらぬうちに、そっとドアが開いた。
老人は人差し指を口にあてて、しーっと言う仕草をすると、悦子さんの腕をつかみ、奥の方へと導いて行った。

おじいちゃんのベッドの足許で、疲れたミギイがまんまるになって眠っていた。(K)


| 猫.cats,gatti 100の足あと | 09:26 │Comments0 | Trackbacks0編集

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すむらけんじ

作者: すむらけんじ
ミラノに住む広告イラストレーターです。このブログは今まで飼った猫、今飼っている猫のことを綴ったものです。
作者は左耳は生まれつき難聴にかかり、人口内耳に踏み切るまでの耳の歴史、未来のことなども連載しています。

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