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猫・ショートショート  あと72話
老人と猫 2
下意味

『カイミおじいちゃんとカロータ』

壁一つ向こうに住んでいるカイミ氏はいたって愛想が悪い。
顔面蒼白な面は品は悪くない。が、いつも縦じわを寄せていて、縁なし眼鏡の奥の透明な瞳が、めっぽう冷たい。こっちの顔を見ないふりをするし、挨拶しても言葉が返ってくることもない。

我が家の猫、カロータがこともあろうにカイミ家の半開きのドアからするりと入ってしまったことがあった。
蒼くなってドアの外から、
「カロータァ、出ておいで!」と叫んでいると、カイミ氏が猫の首の後ろをひっつかんで出て来て、ポーンと乱暴に投げ出し、ドアをバタン!と閉めてしまった。
何てことを、これでも生き物なんですよ!

ところがである。
カロータの奴、性懲りもなくまたまた、カイミ家に入ってしまったのだ。
こんな無愛想な爺さん(婆さんもいることは知っている)の家のどこがいいのだろう?
ネコの魂の状態ってどうなってるんだろうかね?

今度はしーッしーッと靴で乱暴に外に追い払い、こっちが「すみません」と謝ってるのに、無言をつらぬいて階段を降りて行ってしまった。
       
                   *

ブザーが鳴ったので開けると、中年のほっそりした眼鏡の男性が立っている。
「わたしは隣のカイミ家の息子です。もし大きめのフォーンがあったら、貸していただけないでしょうか?」
カイミ爺さんの若いときそのままを思わせる息子さんは丁重に言った。
息子のほうは、いたって行儀よく感じも悪くない。

病身の母親の体を洗ったあと、すばやく乾かすために2つフォーンが必要なのだと言う。
大きいフォーンを持っていたので渡すと、
「ああ、これで結構です。暫く拝借いたします」

それから十日たらず経って、表門に『葬儀報告』が張り出してあるのでよく見たら、なんとカイミ夫人が亡くなったのである。

壁一つの近隣なのだから、お悔やみに行かないと・・・いや行くべきではなかろうかと迷った。
だが、あの偏屈爺さんにお悔やみの挨拶をしなければならないと思うとユウウツになる。
お悔やみをイタリア語で言うのだって、日常あまり使わない言葉だし、くりかえして言ってみても、実感が湧かない。
日本でだって,お悔やみに行った経験など殆どないのだから。

それでも大決心して、ベルを鳴らしたら大勢の先客が帰るところだった。

先日フォーンを借りに来た息子さんが、『どうぞ、どうぞ。見てやってくださいな』と言ってボクを寝室に導いた。
「親父はサロンで休んでいますんで失礼させて頂きます」と息子さん。
ホッ、やれやれ。

カイミ夫人は癌にかかって、13年の闘病生活を送ったという。
その看護につくしたおじいちゃん。大変だったらしい。
顔によく現れていたな。

ベッドの上に普段着のワンピースを来て、お昼寝でもしているかのような亡きカイミ見夫人。
痩せて、鉛の人形のようだ。
         
カイミ氏は葬儀が終って、しばらくの間、息子さん家族の家に引き取られたようで、ドアは長いこと閉っていた。
カロータがドアの外にじっと座っているのが、何となく哀れ。
ジジイに嫌われても、なおなお情愛?を示す猫の気持ち、さっぱりわからん、繰り返すけど。
       
                   *

数ヶ月も経った頃だが、ブザーが鳴ったのでドアを開けると、小柄な上品な老紳士が微笑んで立っている。うちのカロータを両腕に抱いているその人こそ、以外!カイミ氏なのであった。

「お宅の猫ちゃんはよっぽど我が家が気にいったと見えますな」
カイミおじいちゃんは笑顔で言った。

彼は猫を床に降ろした。
カロータは逃げようともせず、足許でおすわりしたままだ。
「お腹が空いていたようなので、生ハムをやりましたよ」

カイミ氏は昨日パドヴァの次男の家から戻って来たのだと言った。
「今朝は知人とヴィジェヴァノに靴を買いにいったのですよ。あそこは安いし良いものがあってね。2足も買ったんです」
そしてちょっと自慢気に新品の自分の足もとを指さすカイミ氏。

このおじいちゃん、しばらく見ない間に随分変わったなあ。
いくらかふっくらして、目つきも陰気なところがない。

『おふくろが癌になってから、親父もすっかり人が変わってしまったんですよ。13年間の看病でくたくたに疲れてしまったようです』
お悔やみに行ったときの、息子さんの言葉。

なるほど、長い看護も終わり、肩の荷が降りてほっとしたってわけか。
そしてその苦労は今から報いられるわけだ。


ぽかぽかと暖かくなってくると、カイミ氏はたびたびドアを半開きにすることがあった。
するとまたカロータが忍び込む。
「すみませんね。いつもご迷惑かけて。おい、カロータ、ここはお前の家ではないんだ。さ、帰ろう」
「まあ、いいじゃないですか。よっぽどここが気になると見えますな」
カイミ氏は、自分のスリッパに鼻を付けて臭いを嗅いでいるカロータを高々と抱き上げた。(K)





| 猫.cats,gatti 100の足あと | 09:42 │Comments0 | Trackbacks0編集

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すむらけんじ

作者: すむらけんじ
ミラノに住む広告イラストレーターです。このブログは今まで飼った猫、今飼っている猫のことを綴ったものです。
作者は左耳は生まれつき難聴にかかり、人口内耳に踏み切るまでの耳の歴史、未来のことなども連載しています。

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