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けんじのイタリア猫・ショートショート/あと59話
猫のエッセイ

『家を間違えたカロータ』
cercasi

まだ小ネコのカロータが昨日の午後からいなくなった。
臆病者のカロータのことだ。建物を出て表通りをのこのこ散歩ってことは考えられない。
まず、そんな経験全くないんだから。

では何処に隠れてしまったのだろう?
今朝もまた一階から六階まで、階段を下りたり上ったりしてみる。
マンサルダ(屋根裏)へのドアのあたりは、工事中らしくごちゃごちゃしていて、猫の隠れそうなところだ。
もう一度上がってみよう。あんな所で小さくなって震えているのではないかと考えると、ぞっとするし可愛そうでならない。
ところが姿も見えないし、泣き声も聞こえない、とすれば、どこかの親切な家庭で保護されているのかもしれない。
早速ロビーの掲示板に探猫広告を出すことにした。

『行方不明の赤猫を探しています。名前はカロータ。電話番号は・・・』
でも、これちょっと変だ。猫が自分の名前を言うはずがないもの。
では写真でも一枚付けて張り出そうか。いや、写真なんて平凡だ。クレパスでさらさらっと描いたほうが面白いし、眼を引くかもしれない。

外出から戻って来ると留守番電話に女性のメッセージが入っていた。    
『私のところで、お宅のらしいネコちゃんを預かっています。こちらの電話番号は・・・』
ほっとして早速電話を入れた。

「ほんとうにご迷惑をかけました。すぐ、引き取りに伺います」
すると優しい綺麗な声が答えた。
「いいえ、私たちが今下りて行きますわ。ちょうど、出かけるところなので」

ベルが鳴ったのでドアを開けると、カロータを抱いた若い女性が、小さな男の子を連れて立っている。
綿毛のようなブロンドの子は、明らかに泣いたあとらしく眼が濡れて不機嫌な顔をしている。
カロータは彼女の腕からすり抜けると一旦、家の中に駆け込んだが、すぐに出て来て、ボクの足許にすり寄って来た。

「昨日、ネコちゃんが家を間違ったらしくて、私どものドアの側で泣いてましたの。あんまり可愛いので、ちょっとだけと家の中に入れてやったんですけど、この子が、もうすっかり気に入ってしまって、ネコちゃんを放さないんですのよ」そして、

「まあ、カロータ?ステファノ、ネコちゃんはカロータって名前なのよ」
この坊や、きっと猫と別れるのが辛くて泣いていたのに違いない。それでも機嫌をなおして、
「カロータ」と小さく呼ぶ。

「お宅では猫を飼っておられないのですか?」

「だめなの。主人が猫アレルギーなんですよ。私と子供は全く平気なのに」
猫アレルギーか。一度、我が家でパーティーやったときに、どえらく濃いメーキャップをした広告代理店の若い娘が来ていたけど、彼女がその猫のアレルギーとやらだったのだ。そのうち鼻スースー、涙が止まらず、せっかくのメーキャップが滅茶苦茶になって、彼女、苦しそうに途中で帰ってしまった。

「それでは今、ご主人はご出張なんですね」

「いいえ、私たち家族はトスカーナのプラートという所に住んでいるのです。主人は仕事で来れなくて、私と子供だけが姉夫婦のところで復活祭の休暇を過ごしたんですけど、もう今日は帰らないと・・・

まだ乙女のような雰囲気の母親は、子供に向かって言う。
「ステファノ、さあ、カロータにお別れして。また、会いましょうねって」

ステファノがかがんで抱こうとしたら、カロータはするりと身を避けて家の中に隠れてしまった。
すると、彼はまた、わーっと泣き出した。よっぽど別れが辛いのだろう。

「せっかくですからコーヒーでも」
と言いかけたところで、中年の背の高い女性が大きなスーツケースを抱えて階段を下りてきた。彼女には見覚えがあった。ときどきエレベーターで一緒になるが、挨拶だけで話をしたことはない。

「本当に可愛い猫ちゃんだこと。とっても大人しくて」と彼女も言ってくれる。
「自分の家を間違うなんて、僕には信じられないんですよ。だって、200キロ以上も離れた所から、戻って来る猫だっているというのに」

その頃、ボローニャからマントヴァまで一ヶ月もかかって戻って来た猫のことが、TVなどで話題になっていたのである。

「もう、タクシーが来る頃よ。さあ、降りましょう」
階段を降りながら、奥さんが振り返って言った。
「掲示板の猫の絵、素敵だわ。きっと飼い主はアーティストなのねって、妹と話してたんですよ」(K)

| 猫.cats,gatti 100の足あと | 07:37 │Comments0 | Trackbacks0編集

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すむらけんじ

作者: すむらけんじ
ミラノに住む広告イラストレーターです。このブログは今まで飼った猫、今飼っている猫のことを綴ったものです。
作者は左耳は生まれつき難聴にかかり、人口内耳に踏み切るまでの耳の歴史、未来のことなども連載しています。

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