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イタリア猫・ショートショート/あと53話


bw


僕はB & W

一週間の旅はやっぱり長かった。

緑に囲まれた積み木のような白い家を遠くから見たときは胸がキュッとした。
生まれて5年間ずっと住んでいた懐かしい家。
もう自分の家とは言えないんだけどね。
猫は家につく・・・そのことわざ通り、新しい家をとおさらばして帰って来たボク。

             *

話は前にさかのぼる。
ボクの飼い主だった息子さん夫婦がカナダに移ることになった。

カナダ生まれの病弱の奥さんは、
「故郷に戻りたいの、あなた、・・・」
愛妻家の息子さんはカナダのセント・ジョンという島に引っ越しを決意し、あちらに仕事も見つけた。

「まだ、子供も出来ないことだし、この一大決心、悪くないよね」
息子さんは奥さんを抱き締めて言った。

ボクは子供のうちには入らないんだよね。
それはペットの宿命なんだ。

人間は『我が子のように可愛がってる』なんて口では言っててもね。


とにかくボクは、息子さんのご両親に引き取られることになった。

車に乗っけられて連れて行かれた新しい住まい。
今までのところから50キロくらい離れている大きな街の中心地。

アパート暮らし。
そりゃあ老人夫婦だけにしては広々したスペースだった。
大きい寝室だってふたつあってね。
テラスもまあまあだったし。
食べ物だって、息子さん夫妻がしてくれたのと全く同じ物を食べさせてくれた。

でも・・・郊外の一軒家が懐かしい。
近くに野あり、川あり、森あり・・・いいなあ、郊外って。


帰りたい思いは日ごとに膨らんで、ついに・・・老婦夫妻には済まないとは思ったけど家出を決心した。

掃除女が地下にゴミを捨てにいくためドアを開けたときを狙って、ボクは飛出した。

残念ながら第一回目の『家出』は失敗に終った。
遠出には慣れてないんでね。
数時間後に公園のベンチでグーグーやっていたら、動物保護協会のボランティーにつかまっちまったってわけさ。

でも、2度目はうまくいったんだ。


             *  


小さな並木道をたどり着いたところに、旧息子さん夫妻の家はあった。

一ヶ月間見ないうちに、庭はちょっと荒れてしまった気がする。

小さな池の縁に、薬屋のベティが尻尾も捲かず、だらしない恰好で昼寝をしていた。
自分の縄張りとでも思い込んでいるようだ。

薄目を開けてボクを見たけど、あら、あんたなの?って感じで、また、目を閉じてしまった。
『どうせまた、帰って来ると思ってたんよ』

テラスのガラスのドアは開いたままだ。
内装とか修理が終ってないのだろう。タイルとか,ペンキの缶などが散らばっている。

空腹だったので、チッキンに直行した。
でも,食べる物は何もなかった。
以前はいつも何か,例えばアメリア製のビスケットなんかが、置いてあったんだけど。
家主が変わればいろんなことも変わるんだな。

二階に上がってみた。
なんてことだ、がらんとした大きな寝室に、バカでかいベッドが中央にあるだけだ。
まっ白なシーツの中で、何かがもぞもぞ動いている。
こんな真っ昼間から、アモーレ?

寝室はすっかり変わっていた。
真正面の壁のクラシックな風景画の代わりに、うんとモダンな白黒の抽象絵画みたいなものが、まだ壁にはかけられてなく、立て掛けてあった。
床は真っ黒なタイル、壁はまっ白だ。ベッドも黒。シーツは白。

「コーヒー飲みたいな。頼むよ」
「あらっ、覚えてないの?飲みたい方が準備するって、結婚の契約だったでしょ?」
「あ、そうだったっけ?じゃあ、コーヒー諦めよーっと」
「ずるいわ、そんなの。あたしだって飲みたいんだから。・・・あ、失言、今言ったこと取り消すわ」
シーツの中の二人。
笑い、また、もぞもぞやりだした。

彼女が顔を出して、上半身起き上がった。
「あァあ、もう起きるわ。あんたも起きなさいよ。このウイークエンド、することいっぱいあるのよ」

彼女は部屋の真ん中で正座しているボクを見つけて、ピーンとはじくような声を発した。

「あら、ネコがいるわ。ほら,見て!」

彼女は手をたたいた。
「あのネコ、電話のネコじゃあなくって?きっとそうだわ」

彼もシーツから顔を出した。二人ともとっても若い、子供みたいだ。

「ほんとだ!こいつ、戻って来たんだ!すぐ電話しなきゃ。やっぱり帰ってきましたよーって。え?今、お宅のネコちゃん、我々のアモーレを観察しているんです!」
夫は歌うように調子をつけて言う。

せっかく戻って来たのにまた、追い返されちゃうってこと?
いやだなあ。もう帰りたくないんだ。

「でも、惜しいわねえ、返すなんて。あたし達が欲しがっていたネコのイメージそのままじゃあないの」
そうこなくちゃあ。

「白と黒に統一した家の白黒の猫。理想的な猫だ。それに、せっかく戻って来たんだから、返すことないよね。ネコの気持ち尊重しようか」

若い夫は敏しょうにベッドから飛び降りると、すくうようにボクを抱き上げた。(つづく)

| 猫.cats,gatti 100の足あと | 12:17 │Comments2 | Trackbacks0編集

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コメント

猫ショートのイラストが、ユーモアがありすごくいいです!
エッセイがふくよかになる感じです。
イタリアンカラーの夏野菜サラダ美味しそう!
ギラギラの真夏になったら作ってみます。
情熱のスペインなのに、素朴な猫ちゃん達もいるのですね。keiko

2009.08.18(Tue) 22:01 | URL | keiko|編集

ついに50話到達。おめでとう。てる

2009.08.18(Tue) 21:55 | URL | teru|編集

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すむらけんじ

作者: すむらけんじ
ミラノに住む広告イラストレーターです。このブログは今まで飼った猫、今飼っている猫のことを綴ったものです。
作者は左耳は生まれつき難聴にかかり、人口内耳に踏み切るまでの耳の歴史、未来のことなども連載しています。

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