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イタリア猫ショートショート/あと50話
猫の物語的エッセイです。
33

見知らぬ客/1

旅行も終わり、3週間ぶりにアパートに戻ってきた。

 もうとっくに真夜中12時を過ぎている。

我がミヌーはどこだろう。あ、いたいた。ミヌーは寝室の隅っこにうずくまって、ちらっとボクを見たが、また視線を反らしてしまった。僕は彼女を抱き上げたが、するりとこっちの腕から抜け出して、またもとの寝室の角に戻り、体をまるくして動かなくなった。
何か変だな、ミヌーの様子が・・・

疲れていたので、ボクはすぐにベッドに体を伸ばした。
うとうとしていて、ふと、いびきに似たものを聞いたような気がした。気のせいだろうか。
いや、耳を澄ませると確かに何か聞こえてくる。ちょっと妙だが、唸る音とは違うようだ。

それにしても何処から聞こえてくるのだろう。このアパートは全く安普請に出来ているから、神経を集中すれば、お隣さんのイビキを聴くくらい訳ないのである。実際、隣のアパートに、サルデニア人が住んでいたときには、あの旦那のは凄かった。だが、今は違う。僕の事務所になっていて、誰も居ないのは確かなのだから。

どうやら下の方からのようだ。
さてーと、この一階下には、保健所に勤める独身の女医さんが住んでいる。
彼女が夏休みまっただ中に出勤することは一応考えられる。
だが、あのほっそりした女医さんが、こんな逞しいいびきをかくのだろうか。さっきよりボリュームを増して来ている。
だが待てよ、あの女医さんに、もしかしたらやっといい人が見つかってと、その男はすごい鼾かきということも考えられる。女医さんの名前は確か云った。彼女は日頃は全く化粧気がなく、ガサガサした感じで、髪の毛もくしゃくしゃ、愛想も抜群に悪い。

だからと言って、アマンテ(愛人)が出来ないなどと断言することは出来ない。
クララ女史のために喜ばしいことなのだ・・・
そしてボクは眠りに落ちてしまった。

               *

 もう、すっかり明るくなっている。やっぱり自分の家はいい。晴れ晴れした気分だ。
体を寝室を見回すと、ミヌーがやはり昨夜の同じ所にうずくまって、こっちを見ている。
だが、こっちの方角に向ってうずくまってはいるが、視点は僕の顔ではなさそうである。
緊張したような、何かに気を奪われている表情のミヌー。

おや、あれは? 
いびきがまた聞こえて来たのだ。いや、いびきにしては変だぞ。妙に動物的だ。
階下の女医さんの、新しい彼氏のいびきにしては、近すぎるし、すさまじいのだ。
まるでベッドの下から、自分の腰の下あたりからジーッと響いてくるような感じなのだ。

・・・ベッドの下?
昨夜それに気が付くべきであった。あのいびきの張本人は意外とこんな近くに潜んでいるのかも知れない。
だが、女医さんの愛人が僕のベッドの下に潜んでいるなんて信じられない。とにかく真相を突き止めなくてはならない。僕上半身を乗り出して、恐る恐るベッドの下を覗きこんだ。

あッ、すごい、ミヌーより5倍もありそうな真っ黒な動物が、暗がりの中にうずくまっているんだ。眼をピカっと光らしたので一瞬身がすくんだ。

落ち着け、絶対にこんな筈はない。悪夢を見ているのだ。僕は忍び足でベッドを降り、もう一度そーっと覗きこんだ。確かにいる、今まで一度も見たことのない大きな猫が。こんなに大きな猫がこの世に存在するなんて・・・またまた牙をむき出してハーッとやったので、思わず後ずさりした。

これはただ事ではないぞ。一体どこから紛れ込んできたのだろうか。これでわかった。ミヌーが一晩中うずくまって何処を見ていたのかが。彼女は明け方まで一時も眼をはなさず、ベッドの下のよそ者に心を奪われていたのだ。

台所のテーブルの上に二つ折りの白い紙が眼に止まった。『K殿』と書かれている。
開くと几帳面な筆跡で、こうしたためられていた。

『K殿
長い夏のご旅行はいかがでしたか?
この節はお言葉に甘えて、2週間ほど、うちのジャスがご厄介になることになりました。
ジャスの御飯は、一日一回、缶詰400g(一缶全部)朝八時半に与えております。
性格はいたって穏やかなので、可愛いミヌーちゃんをいじめたりすることはないと思います。
それでは、よろしくお願い致します。
このままリナーテ空港に行き、日本へ発ちます。残暑にて充分御自愛ください。     花村 』
               
そうだったのだ。すっかり忘れていた。花村氏の猫を預かる約束をしていたのだった。
そして彼は門番に鍵をもらい、さっさと猫を置いてずらかってしまった。
僕が帰ってくるのと数時間の違いだった。
なぜともなく、「してやられた」という感じだ。(つづく)

| 猫.cats,gatti 100の足あと | 00:29 │Comments0 | Trackbacks0編集

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すむらけんじ

作者: すむらけんじ
ミラノに住む広告イラストレーターです。このブログは今まで飼った猫、今飼っている猫のことを綴ったものです。
作者は左耳は生まれつき難聴にかかり、人口内耳に踏み切るまでの耳の歴史、未来のことなども連載しています。

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