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イタリア猫ショートショート/あと46話


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名ソプラノと名テナーの悲劇/2

それでは彼らのこと、もう少しおしゃべりしましょう。

マリオ・デル・ボナコ氏にはカラズ嬢との共演で、たった一つ悩みがあったのです。

それは背丈のことでした。
ガラス嬢は173cmは有にある堂々とした体格。デビューの頃は100キロ近くあったのを、涙ぐましいダイエットで70キロまで減らし、ハリウッドの一流美容師を抱えて磨きをかけたので、『ディーヴァ(女神)・ガラス』の名を欲しいままにしました。

一方デル・ボナコ氏はスペインの闘牛士ばりの彫りの深いマスク、スタイルも悪くはないのですが、残念ながら足のほうがちょっと寸足らずで、背丈はやっと175弱、誇り高きヒーローとしてはイマイチです。

(イマイチと言っても理想的プロポーションを誇るカラズ嬢と並んだ場合のことで、他の相手役とのときは全く遜色はありません。何しろ150キロもある有名ソプラノもいて、彼女もデル・ボナコとじゃないとイヤ!などと言い出す始末です。いくら声の世界だといえ、彼、可哀想ですね)

しかもガラス嬢が10センチ以上もあるヒールを履くので、彼にはそれが悩みの種でした。
「いっそうオレもスカートをはいて歌いたいよ」と洩らしたとか。


                 *


スカラ座の後、二人はローマ歌劇場の『アイーダ』で共演することになっていました。

さあ、デル・ボナコ氏の悩みはエスカレート。
精かんなエジプト将軍の役にスカートもズボンも許されませんよね。

それで、カラズ共演用のサンダルを特注しました。
何と10センチも高い代物なのです。
えーとーっ、アイーダ(ガラス)が175プラス5センチのサンダル(アイーダは女奴隷なので、高いかかとは許されない)で計180センチ。
ラダメス(デル.ボナコ)は174プラス13で184、これで良し!

テストで履いて見たとき、重心が取れずくらくらっと。

「どうだい?これでやっと理想的ラダメスに様だだろ?」
と悦に入っていたら、猫のルルが『ニャーァ』、『ワン!』と子犬が叫びました。

仲良しの2匹の動物の意見を聞かず、そのまま舞台練習に出たら足がもつれて、デル・ボナコ氏はひっくり返ってしまい、怪我をしてしまったほどです。

オープニングには、イタリア中のファンがテレビにかじりついていました。
ラダメスがどんな高いかかとのサンダルを履いて登場するかも話題の一つでした。

進行係がノックして「デル・ボナコさん。あと5分です」と言ったとき、
名テナーはサンダルを履こうとして、蒼くなりました。片方のサンダルが,びっしゃりと水浸しになっていたのです。

それは犬のピピー(おしっこ)でした。
彼は血相を変えてガラス嬢の楽屋に怒鳴り込んで行きました。
「どうしてくれる?コロを殺してやる!」

最後の仕上げをしていたガラス嬢は瞬間驚いたようでしたが、落ち着き払ってこう言ったそうです。
「コロはこのサンダルはよくないって言ってるのよ。わたしも同感よ。悪いこと言わないから、今まで使っているサンダルにしなさい」
ガラス嬢は励ますように言いました。


彼は、いざと言う時のために用意していた、いままでのサンダル(3センチ)を履き、舞台に立ちました。
そして、足許にびくびくすることもなく、開幕一等の至難中の至難の「清きアイーダ」を立派にこなしたのです。
ガラス嬢も1センチくらいの低いサンダルを履き、相手役に協力しました。

      


『アイーダ』の夜はまだ終っていません。

オペラは順調に進み、第2幕2場の『凱旋の場』を控えて、舞台裏は大混雑していました。
無理もないことです。像やキリンや牛などの動物もかり出されるので当然です。

裏方さん達は神経過剰になっていました。キリンがまだ出番でもないのに、首をにゅーっと舞台へ突き出そうとしたからです。

デル・ボナコ氏の楽屋で仲良くお留守番をしていたコロとルルは、付き人がちょっと油断した隙に部屋から飛出すと、一目散に舞台裏へと走り出しました。
彼らが舞台裏に着いたときは、第2場のトランペットが高らかに鳴りはじめたときです。駆け込んできた犬と猫に、さあ大変!裏方さんたちが捕まえようとすると、グ~~ゥ、ミャ~~ォと牙をむきだして唸り出すのです。もう、放っとく以外仕方ありませんでした。

舞台は暗転して、貢ぎ物の動物がどんどんステージに向かいます。

象が出ようとしたときでした。
猫のルルは象の背中にひょいと飛び乗りました。犬のコロが飛び乗りが苦手なのを、象が鼻で捉えて無事に乗せてくれました。
コロとルルは並んで後ろ足で立ち、前足を胸に置いてステージに出て行ったのです。

照明係が彼らに特にスポットをあてたので、観衆は大喜びです。

そして、動物達が出そろうと、合唱にあわせてルルはデル・ボナコ氏の足許に、子犬のコロはガラス嬢の足許にお行儀よくお座りして、不動の姿勢です。

コロもルルもさすが、名歌手に育てられているから、『アイーダ』のこと、いやオペラのことは充分理解してるんですね。
批評家もそのことを書きたてました。


               *


世紀の名コンビとうたわれた2人でしたが、引退は以外と早く訪れました。
でも、『アイーダ』事件以来、2人は本当に良き友達になり、互いを励まし合い,立派な舞台を見せてくれたのです。
デル・ボナコ氏は、
「マリア、君と一緒に故郷のタオルミーナで歌いたい。30年も旧友を待たせているんだ」

カラズさんも快く引き受けて『アイーダ』を共演しました。もちろんコロもルルも出演しました。


                *

「こんなに早く舞台を去らねばなかったのは、君の責任だよ」
コロとルルのお墓の前でデル・ボナコ氏が言いました。

「あら、あなたの責任と思っているのよ」

相手に負けまいと、もっともっといいところ見せようと、無理をしたというのが2人の考えのようです。
ステージでは命がけの戦いだったのでしょう。

そのお陰でファンは,オペラの歴史に刻まれる素晴らしい舞台と、声を堪能することが出来たのです。

現代のオペラシンガー達には耳のいたいところですね。(K)









| 猫.cats,gatti 100の足あと | 06:12 │Comments2 | Trackbacks0編集

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コメント

Re: 素晴らしいショート・ショート
イヤーア。暑いですねえ。
今日からちょっと留守をするので、頑張っています。いま、4時(朝の)
美男美女のイラストなくてスイマセーン!
そちらのお好みのタイプ言ってください。

赤猫は昨年出したことが有りますが、今回、ブログ出発にあたり、ちょい化粧直しで出しました。

いつも感想ありがとね。励みですよ。今、イラストをつけたところ。
オペラ歌手2人がうたってるとこ、3時間もかかってしまって。苦労ボアと丸見え!!

早く涼しくなって欲しいですね、k

2009.08.21(Fri) 04:27 | URL | k|編集

素晴らしいショート・ショート
Kさ~ん、この所この暑さの中にも関わらず、楽しいアイデアが涌き上がっている感じですね!!
美男美女のイラストが欲しかったけれど・・・・無理強いしてごめんなさい。
”見知らぬ客”の絵がとっても良かったものですからツイ・・・・・何時も楽しませていただいてます。多謝

2009.08.20(Thu) 09:48 | URL | mako|編集

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すむらけんじ

作者: すむらけんじ
ミラノに住む広告イラストレーターです。このブログは今まで飼った猫、今飼っている猫のことを綴ったものです。
作者は左耳は生まれつき難聴にかかり、人口内耳に踏み切るまでの耳の歴史、未来のことなども連載しています。

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