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猫のショートショート<あと40話>                  
自分勝手な飼い主の犠牲になった哀れな小ネコの結末。
minu

ミヌーとの別れ

苛立つ。
猫用の籠が見つからないのだ。

あ、そうだ、新型を買おうと思って古いのを捨てて、そして・・・。

仕方がない、ごめんね、ミヌー。
嫌がる小ネコをバッグにむりやり押し込むと、階段を一気に駆け下りてタクシーに乗り込んだ。

ミヌー、我慢してくれよな、ちょっとの辛抱だからさ。
ファスナーの隙間に鼻先をくっつけて、ミヌーはあらん限りの力で泣き続けている。

雨上がりの夜の街を25分も突っ走り、掃除婦レナータのアパートにたどり着く。
彼女、もう5年近くボクのアパートの掃除をしてくれている。いやいやそれだけではない。
たまにはスーパーまで。客の招待の夜はその準備まで。
そして、結局はミヌーの面倒までも。

タクシーを待たせて、エレベーターを待つのももどかしく、階段を四階まで一気に駆け上った。
レナータはすでにドアを開けて、心得顔で待っている。バッグを開けるとミヌーは飛び出して、ぱっと寝室に隠れてしまった。ここが大好きなレナータ夫人の家なのだから、着いてしまえば問題がない。
頼むねっ!と一声叫んで、また階段を駆け下り、今度はタクシーに中央駅へ向かってもらう。

問題は、旅行から帰ってきて、また引き取りに行ったときである。
僕が訪れると、ミヌーは必ず姿を隠してしまう。ごちゃごちゃと物が必要以上に置かれた母娘2人のふた間のアパートのなかで小猫を探し出すのは、砂漠の中の宝探しと同じだ。
女ってどうしてこんなに物を買いたがるんだ!

ミヌーは隠れて出て来ない。
またバッグの中に詰め込まれてしまうことは、彼女にとっては悪夢に等しいことなのだ。
「ミヌーゥ、ミヌーゥ。新しいバスケットかって来たんだよ。ほら、これ。だから出ておいで」
「変ねえ。ミヌーは人が来た時絶対隠れたりなんかしないのよ」とレナータは皮肉混じりに言う。

ミラノに戻って来て2週間後に次の旅行である。だからまた同じことをくり返す。
「こんなにたびたび旅行、旅行って何処に行くの? 何のため?」
レナータにそう聞かれたこともある。
「ン?仕事でね・・・」
などというウソ八百は言わない。
「ミュンヘンとかパリとかローマとか・・・コンサートとかオペラとか展示会とか、まあ大体はそんな目的だよね」

だから頼むね、厚かましいことは重々わかってんだ。
『独身の方には猫はお譲りしないことにしてますの』
そんなことを言った女がいた。猫ちゃん愛好家のパーティーだった。
全くもってそうだよね。ごもっともです。

あつかましい人間には限りがない。
我が家とレナータのアパートを行ったり来たり、そのうち面倒臭くなって来た。
いつの間にかミヌーは預けっぱなしのほったらかし。
レナータが快く面倒を見てくれるからだ。

旅行ばかりしている僕に、
「本当にミヌーを愛してるの?」とか
「気紛れで動物は飼えないわ」
などと言って、僕の顔をじろりと見る。

また、夏休みが訪れた。
レナータは、実家の山の家に ミヌーを連れて帰ってしまった。

九月になってレナータが掃除に来たとき、
「ミヌーはどうするの? 山に置いて来たわよ」と言われて、
「そのうち引き取りにいくよ」といい加減な返事をした。
山の家にはレナータの双生児のカルロ氏が住んでいて、彼がミヌーを可愛がってくれるのを聞いていたから心配はしてなかった。もしミヌーが邪魔扱いされて幸せに暮らしていないと分かれば、きっと、いや、勿論すぐにでも、引き取りに行ったにちがいない。絶対に間違いない。

そうこうしているうちに、年が明けてしまった。
「ミヌーがね、2匹、子を生んだんだけど、死んで生まれてきたの。ミヌーは病気なのよ。カルロが獣医に見てもらうと言ってたわ。」
と、レナータが沈んだ声で言った。

「申しわけない。医療費はもちろん僕が払うからね」
「いいのよ、そんなこと。獣医は私達の幼馴染みなんだから」
「悪いね、預けっぱなしで。少し暖かくなったら引き取りに行こうか」
「心配しなくてもいいのよ。カルロがね、もう、ミヌーはK氏に返せない。こんなに自分になついているんだもの、って言ってるの」

辛かった。
反面ほっとした気分と後ろめたさと、自分が少々除け者にされたような気分になった。

そしてまた三ヵ月くらい経った頃・・・

「ミヌーがジープに轢かれて死んでしまったの。カルロのジープで」
 レナータは涙を一杯ためて言った。
「ミヌーは何時もカルロにくっついていてね。真夜中に彼が外出から戻って来たときに、迎えに出てきたらいしいんだけど、その時にタイヤの下敷きになってしまったの」

とてもミヌーが不憫に思えた。こんなふうに死なせてしまうなんて・・・
ミヌーを見捨てたのは自分なのだ。もう動物を飼う資格などないと思った。
そして、もう猫は飼うまいと決心したのだ。(k)





| 猫.cats,gatti 100の足あと | 09:54 │Comments0 | Trackbacks0編集

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すむらけんじ

作者: すむらけんじ
ミラノに住む広告イラストレーターです。このブログは今まで飼った猫、今飼っている猫のことを綴ったものです。
作者は左耳は生まれつき難聴にかかり、人口内耳に踏み切るまでの耳の歴史、未来のことなども連載しています。

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