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イタリア猫ショートショート<あと38話>
3ヶ月も経ってやっと我が家に引き取られたカロータだったが・・・・

カロ2

カロータ生まれる<2>
九月に入った。
今夜はあの赤猫を我が家に連れて来る日である。
生まれたときからゆうに3ヵ月も経ってしまっているのだ。

ぐずぐずと決断不足で引き取りに行かなかったのではない。
実は乳ばなれした1ヵ月後には連れて帰りたかった。だが、八月には夏の旅行に出かけるので(またまた旅行!!)友人の親切に甘えて、旅行から帰って来てから引き取ることに決めていたのであるが・・・

「うわぁ、3ヵ月 ! こんなになっちゃうのかい?」

ややうんざり気味の声の色合いに、キラッ、友人の眼が光った。
今さら何を! 約束通り持っていってくれないと困るんだよ。

広々とした友人のアパートの廊下やサロンの中を、子猫達が我がもの顔で走り、縫いぐるみにじゃれついている。
あの親指大の面影など想像もつかない。途中の成長過程を見逃してしまったことがなんとも残念だ。それに一匹も売れてないのはどうしたことだろう。
(そんなことはどうでもいい。なまじっかまともに心配すると、待ってましたとばかり「2匹持って行けっ!」などと押し付けられかねないもんね )

「バカンスに出かけるために、猫や犬を捨ててしまうことは考えても、もらおうなどと考える殊勝な奴なんかいないんだよ」
後になって友人がこぼした言葉だ。

母猫は、これまた見事な三毛である。

『女としてやることはやった』

回りで煩わしく戯れる子供たちにもどこ吹く風、ソファーの真ん真ん中に陣取って眠っている。なんでもこのご母堂の出産回数は五回だそうで、その貫禄 !

その中で一番おとなしそうなのが我がカロータであった。
カロータとはイタリア語で『人参』の意味である。旅行中に考えだした名前がカロータ。旅先のドイツの田舎からから電話をしたら、友人にオスだよと言われて、ふっと浮かんだ名前だ。

カロータはイタリアでは女性名詞だが構わない、何となく日本的で愛嬌がある。『レオナルド』とか『ラファエッレ』などと呼ばれている猫にも会ったが、これじゃあまるで人間が猫に化けてしまったみたいだもの。

遅い夕食をよばれて、さてミラノに戻ろうと腰を上げた時は、すでに12時近かった。
カロータ用の新調のバスケットを用意して行ったのだったが・・・

案の定、檻のなかに入れられるやいなや、我がカロータはニャアニャアと派手に泣きはじめた。これから2時間近くも車を走らせなければならないので、気が重くなる。

さーァて、出発。
車の中ではずっと泣きっぱなしの叫びっぱなしだ。
こんなちっこい体で、よくもこれほどのエネルギーがあるものだと感心してしまう。
体中を動員して泣き叫び訴えているのだ。真夜中の高速をぶっ飛ばしながら、こっちも悲しくなる。

3ヵ月は確かに長過ぎた。
兄弟たちと母親と一緒にこいつは幸せだったんだ。
何の不安もなく、食べて、かくれんぼをして、玉を転がして、疲れて体を寄せ合って一眠りして、そんなことをくり返して朝が訪れる。そして又、楽しい一日。

ところがある夜、自分だけが強引に引き離されて、狭い檻の中へ閉じ込められ、真っ暗の中を音をたてて運ばれて行くのだ。
恐怖から助けを求めているカロータ。
こんなにまでして無理に引き離した自分は、一体何を望んでいるのだろう。

おい、カロータ、もう泣かないでおくれ。もうすぐ新しいお前の家に着くんだからね。

                       *
 
「もしもし、レナータ? 出来れば今日来てくれない? 猫を連れて帰ったんだけど、一睡もしないで泣き続けなんだ。どうしていいか分からないんだよ」
「あらーっ、新しい猫が来たの? 見たいわぁ。いいわよ。他を何とか断って、あんたのところに行くことにするわ。午後一番にね」

 掃除婦のレナータは今だに、亡きミヌーが大のごひいき。
それにこっちの気紛れと無責任さにもうんざりしているだろうから、ちょっと心配だったが、彼女の弾んだ声でほっとした。
なにしろいずれまた世話になるかも知れないのだ。
とにかくレナータが来てくれるまでの辛抱である。彼女はきっとカロータのこの悲劇的泣き声をストップさせてくれるに違いない。

昨夜連れて帰ってきてから、もう10時間も経っているのに今だにノンストップで泣き続けている。
昨日籠から出してやり、逃げだそうとするのを「おっと待った!はい、ここだよ」と砂箱を教えてやった。そして缶詰をあけて皿に盛ったが、泣き叫んで全く口を付けない。悲しくて怖くて食欲なんかないのだ。

「どうにでも勝手にしろ。泣くだけ泣いたら気も晴れるだろう」
僕は床に入ったが、カロータは一晩中泣きっぱなしだった。こっちも熟睡出来なかったので頭がぐらぐらする。
朝早く起きて見に行ったら、餌には全く口を付けていなかった。

だのに・・・ピピーはちゃんと箱の中でしていたのである。
よくやったぞ、カロータ!


「こんなに緊張してしまって・・・筋肉が堅くなってるわ」
ベッドの下にかくれて泣いているカロータを引っ張り出したレナータは、抱き上げて慣れた手付きで愛撫していたが、
「この猫、お腹すいてるんじゃあないかしらね」

「そんなはずないと思うよ。母親や兄弟から引き離されて、悲しくて食欲がないんだよ」
ボクは台所に置いてある小さな皿を見せた。今だに全く口を付けてないのだ。

「新しい餌に取り替えるのよ。これ、昨夜のものなんでしょ。猫って繊細なのよ、人間よりもずっとずっと」
語尾に力を入れて言う彼女に逆らわず、僕は皿の中の物を捨てて新しく入れ替えた。

と、どうだろう、カロータは彼女の腕からすり抜けるように飛び下りると、がつがつと食べ始めたのである。
ちょっと食べては「ミャーォ」と悲しげに我々を見上げ、またがつがつと食べて、一息ついて「ミャー」と泣いて、また食べ始める・・・

そんなことをくり返しているうちに、少しずつ落ち着いてきたらしい。
やっと泣くのをやめてくれた。
再び抱き上げたレナータの腕の中で、眠そうに小声で「ミャーォ」と呟いて眼を閉じた。

その夜からカロータは正式に我が家の一員となった。
寝ていない限りはいつも僕のまわりで、ちょこちょこと動きまわり遊んでいる。よくもこんなに遊べるもんだ。次から次へと遊びを発明しては、夢中になっている。そしてときどき思い出したように泣くのである。肌で感じる郷愁と悲哀。
きっとお袋や兄弟のことを思い出して泣いてるんだ、と思うと、ひたすらにいとおしかった。

さてと、台所からバルコニーに出るための透明なプラスチックの切り窓のこと。
出入りを訓練しなければならない。
これから秋も深まって行くので、普段はガラスドアを閉めてしまうからだ。
半円形の切り窓には前後にぶらぶら動くドアが付いている。抱きかかえて窓から外へ出し、中へ入れて、また出して・・・と根気よく繰り返しても、カロータは無関心そのもの、全く覚えようとする気がない。
おい、もっとまじめにやれィ!
「今夜のトレーニングはこれで終り。また、明日の夜だ」
翌日の夜も昨日のくり返しを何回もやって、「又、明日だよ」

そしてボクは台所のテーブルで手紙を書いていた。
カロータは例によって、僕の足下で小さなおもちゃを相手に独りで遊び戯れている。

手を休めてそれを見ていたときだ。
カロータは全力投球で突進し、派手にドーンと音をたてて、頭から切り窓を突き抜けたのである。
一撃加えられたプラスチックのドアが、前後に大きく揺れた。

「やったぞ! 悟ったんだな」

ボクは高々とカロータを抱き上げた。(終わり)

| 猫.cats,gatti 100の足あと | 15:10 │Comments3 | Trackbacks0編集

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コメント

Re: Re: カロータ君
> カロータは8ヶ月後に手術したので、17年近くも生きたんだけど。
> そのことも徐々に書いて行くつもり。
> ショートショートが一区切りついた時に、我が家の飼い猫(パン,のり助、ミヌー、カロータのエピソウドだけ一緒にまとめてみたいって気持ち。

2009.09.13(Sun) 08:42 | URL | k|編集

Re: カロータ君
カロータは8ヶ月後に手術したので、17年近くも生きたんだけど。
そのことも徐々に書いて行くつもり。
ショートショートが一区切りついた時に、我が家の飼い猫(パン,のり助、ミヌー、カロータのエピソウドだけ一緒にまとめてみたいって気持ち。

2009.09.13(Sun) 08:11 | URL | k|編集

カロータ君
カロータ君を一目みて惚れたKさん、家に来るまでの
顛末紀、絵共々興味ふかいショートでしたねぇ~~

私はワンちゃんに、一目ぼれしたのですがお互いに
ご縁があったのですよね!!

カロータ君とKさんの同居生活の話は、ショート・ショート
内に散らばって合ったのですが、カロータ特集として、
まとめて読みたいような、こういう形式の方が良いのか・・
ご意見拝聴したいものですねぇ~~?

2009.09.12(Sat) 11:28 | URL | mako|編集

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すむらけんじ

作者: すむらけんじ
ミラノに住む広告イラストレーターです。このブログは今まで飼った猫、今飼っている猫のことを綴ったものです。
作者は左耳は生まれつき難聴にかかり、人口内耳に踏み切るまでの耳の歴史、未来のことなども連載しています。

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