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イタリア猫ショートショート<あと37話>
亡き老婆の形見のドンドロは売り払われてしまったが・・・
鈍ソロ2

ドンドロ
ドンドロ(揺り椅子)に身をうずめた老婆は、赤いアイルランド風の膝かけをつけ、藤棚の下で、あたかも午後の昼寝を楽しんでいるように息を引き取っていた。
膝の上にはキジ猫のジルが、いつものようにうずくまって寝ていた。

         *

母親の葬儀も終ってしばらく経った頃だ。
「奥さん、私はメネギーニという者です。何か処分する物はありませんかね?」
ライナ夫人が庭で編み物をしていると、通りがかりのワゴンの男が、垣根越しに愛想よく声をかけてきた。

「古い家具や置物やランプでも食器でも何でも、処分したいものはありませんか?私はときどき郊外を巡回して、掘り出し物を探してるんですよ。なんでもいいんです古い物だったら。わたしに見せてくださいよ」

「そうねえ。・・・ドンドロならあるわよ」
しばらく思案したあとライナさんは言った。

揺れるごとにキィーキィー音を出すドンドラにはライナさんは辟易していたので、いいチャンスとばかり骨董屋に売り飛ばす気になった。母の遺品には違いなかったが、別に手放すことにそれほど未練はなかった。
夫と死別して独りになって以来、彼女は実家に戻って来て、ずっと病床の母親の最期まで面倒をみていた。
安楽椅子は母のお気に入りだったが、揺れるたびに微かにきしむキィーキィーの音に、ライナさんはノイローゼになりそうになったこともある。言うなれば亡き母親の『楽しくない遺品』なのだ。

「母さんの形見に取っとくつもりだったけど・・・でも、コモ(箪笥)や小テーブルだってあることだし。これは処分してしまおうっと」

ドンドラの上にはいつものようにキジ猫のジルが眠っていた。
ジルは老婆のお気に入りの雌猫だった。
生まれて間もなくこの家に貰われて来たのが、
10年くらい前だからそろそろ老境に入る頃である。
椅子のすぐ近くに寄り添うように老犬のシチューがうずくまっている。

「ジルや。ドンドロは売ってしまうからね。今日からは何処か別のところでおやすみ。サロンのソファアの上でもいいんだよ。あそこならもっと寝心地はいいはずさ」

メネギーニは金を払い、ドンドラと古いチーズ入れなどをワゴンに詰め込んで去っていった。
        *

猫のジルが姿を消した。

ライナさんは心当たりを辿って探したが、一週間たっても戻って来ない。
いままで姿をくらますようなことは一度もなかったのに。
母親ほど猫に愛着のない彼女は、そのうちジルのことは忘れてしまった。
         * 

40キロも離れた隣街の運河では毎月第3日曜にだけ、蚤の市が開かれる。

9月の第3日曜日に、いつものようにメネギーニも店を出した。
がらくた的であまり値の張るものはなかったが、その中に、数週間前に手に入れたドントラもあった。

メネギー二は本職は電気の修理工だが、古い物が大好きで、そんな物をかき集めて、一ヶ月に一回だけここで店開きをするのを楽しみにしていた。まったく売れない日もあったが、他の店の人間と話の花を咲かせ、退屈することなどまったくなかった。

一匹のキジ猫が現れて、ゴンドラの近くをうろうろしていたが、猫はゴンドラに近づくと匂いを嗅ぎ体をすり寄せた。客が近づくとそっと物陰に姿を隠し、店が閉じるまで動こうとしなかった。

その日、ゴンドラは売れなかった。

また、一ヶ月経った。
蚤の市に再び現れたキジ猫は前にも増してやせ細り、毛並みも悪く疲れ果ててみえた。

「ねえ、あの猫、先月もここで見たわよ。やっぱりドンドロの近くでね」
すぐ隣で古い絵はがきや雑誌を売っている女が言った。
「そうかね。そう言えばそんな気がするな。もしかしたらあいつの呪いでドンドロが売れないのかも知れんぞ」
男は冗談紛れに言って笑った。
「それにしてもこの猫、随分しょぼっくれてるなあ。病気持ちかも知れんぞ。さあ、どいたどいた」
夕方、商人も客もいなくなったゴミだらけの中で、猫はじっと座ったままだったが、やがてとぼとぼと何処へともなく姿を消した。

そんなことが数ヶ月続いた。
他の品は何とか売れて行くのに、ドンドラだけは取り残された。

      *

ライナ夫人のところに、久しぶりに、遠くに住む娘夫妻が週末を過ごしに来た。
「ドンドロはどこ?来年新築したら、あのドンドロを引き取るわ」

「ドンドロ?」
ライナさんは頓狂な声をあげた。
「あれねえ、売ってしまったのよ。もうずっと前に」

「売った?あれ、おばあちゃんの形見じゃあないの。私が死んだらお前使ってねって言ってくれてたのよ」
あきれ果てた娘は蔑むように言った。

「ところでマンマ、ジルは何処なの?姿が見えないわ」
「いなくなってしまったんだよ。探してみたんだけどね」
「あんなに綺麗でおばあちゃんの大切だったジル。新築したら引き取ろうと思ってたくらいよ」

ライナさんは亡き母と娘に一瞬嫉妬を感じた。
自分はこんなに母の面倒を見たのに、むしろ孫娘の方を気に入っていたとは。

彼女は思いなおして、メネギーニが置いていった名刺を探し出すと電話をした。
「あのドンドロ、もう売りさばいてしまったと思うけど・・・」

「いや、それがねえ、まだ売れてないんですよ。値段も手頃で、関心もった客はいたんですけどね。どうして売れないのかちょっと不思議なくらいだが」
「ああ、よかった!直ぐ買い戻したいの。他の品物と交換してくれないかしら?」
「もちろん。こっちが望んでいるところですよ」

翌日、さっそくドンドロは元の持ち主のところに戻った。

4、5日経った明け方のことである。
老犬のシチューが目を覚ますとテラスの飾りタイルの上のドンドロの横に一匹のキジ猫が横たわっていた。
シチューにはそれが変わり果てたジルであることがすぐに分かった。

シチューはよたよたとジルに近づくと、目の涙を舐めてやった。それから汚れた体も舐めて綺麗にしてやった。

ジルはドンドロに上がりたかったが、その力はなかった。
シチューがそれに気が付きうずくまったので、ジルはまずその上に乗って、それからドンドロにたどり着いて眠りに落ちた。そしてもう眼を覚ますことはなかった。

シチューはドンドロには上らなかった。
老婆から許可を貰っていなかったからである。(K)

 

| 猫.cats,gatti 100の足あと | 19:26 │Comments0 | Trackbacks0編集

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すむらけんじ

作者: すむらけんじ
ミラノに住む広告イラストレーターです。このブログは今まで飼った猫、今飼っている猫のことを綴ったものです。
作者は左耳は生まれつき難聴にかかり、人口内耳に踏み切るまでの耳の歴史、未来のことなども連載しています。

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