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イタリア猫ショートショート<あと35話>
6人用の食卓にまた5人も増えておおあわてだったが・・・enrico

タクシーの運ちゃん・エンリーコ<2>

「パスタは女房が作って持って来るから心配するな」
招待の日も迫って来たころ、エンリーコが言った。
「ジャコモはワインを持って来る。何本必要なのかおまえに聞いてくれと言った。アルドはケーキ持参だそうだ」

どうやらチェーナ(晩餐会)は少々方向を変えて来ているようだ。
とにかくプリモとデザートとワインは差し入れがあるから、前菜とセコンドとチーズとフルーツを準備すればいいのである。
セコンドは安くて自信のある七面鳥のアローストでよかろう。
常連の虹子とマルコは「またぁ?」って言うかもしれないが構うもんか、主賓ではないのだから。
前菜は蒸しハムのムースと、ニシンの北欧風水づけ、サーモンとスパーニアとタマネギのサラダでどうだろうか、自信作ばかり。他の招待客だって何か持って来るだろうし、ワイン、シャンペーンが切れてしまう心配は全くないのだ。
ボクはすっかり気をよくした。

エンリーコの奥さんの名はエリザベッタだが、通称ベッタ。彼女はミラノ・リナーテ空港のチェックインで働いている。エンリーコとはディスコで知り合って結婚したそうだ。
ベッタは老人ばかりがやたらと多いこのアパートでは第一番のモダン美人で、スラリとしてボクよりもかなりに長身だ。にも拘らず足の美しさを強調するためか、いつもとびっきり高いかかとのヒールを履いているから狭いエレベーターで一緒になるとぐーっと見上げてしまう。

旦那のエンリーコは南部の出身で、オリーブ色の艶やかな肌、ちじれた黒い髪を真ん中で分けて長くたらし、鷲鼻でちょっと古典的な風貌だ。この夫婦はよく喋りよく笑って、底抜けに明るいところが似ている。彼らもネコを2匹買っている。

そのベッタが自宅から、まだジュ、ジュッと音を立てているカネッロー二を、両手に登場したときには一同は大喝采。匂いに惹かれたカロータもサロンから出て来てテーブルの下にもぐり込む。
押し合いへしあいのチェーナは盛り上がってきた。


虹子とエンリコの甥のカップルは12時過ぎには引き上げて行った。
紅一点で頑張っていたベッタも、やがて「あたし、もうだめ」とひと言。眠そうに帰ってしまった。

残ったメンバーは時間の経つことなど頭にない。
彼らは腹に力をこめ、議論し、相手をどやしつけ、からかい、洒落を連発し、笑い、また大声で議論を始める。

その夜コーヒーはなんと3回も入れ換えた。たっぷりあったワインも、シャンパーンも全部空けてしまった。ただ、イタリア人にはあまり飲まれないウイスキーだけが残ってしまった。
エンリコは「俺にまかしとけ」と言って、家に飛んで帰るとコニャックとピスタッキオを持って戻ってきた。

セミフレッド(冷果)の大きなケーキを手に訪れたアルドという青年は、製菓会社のプレゼンテーションの仕事についているとのことだった。1時間も遅れて来た彼は、お得意さん回りに時間が掛かり、会社にも戻らないで直接来たのだと弁解をしたのが災いとなって、1時もとっくに過ぎて何も食べるものがなくなると、「下りて行ってケーキを持って来い!」とけしかけられた。
アルドがケーキの入っている冷蔵庫付きのライトヴァンに乗って来たことを、皆は知っていたからである。
人のよさそうなアルドは、「商売用だからダメだよ」と、最初は抵抗したが、結局はヴァンからまた一つでっかいのを持って上がってきた。

Nがどんな仕事についているのかは、よく分からなかった。
ただ、定職に着く必要などない身分のようで、遊び半分ACミランのフアンクラブの記念品販売に関係しているようなことを言っていた。

弟のGは、将来バーを経営したいなどと話していた。彼は、仲間では一番あか抜けしてハンサムだが、歯が黒くガタガタに欠けていて、口をあけると綺麗な顔が台なしになった。
ずっと聞き役にまわっていた銀行員のマルコが酔いのためか、突然、意外なことを言った。
「金に不自由しないのに、なんで歯を矯正しないんだよ?」
Nは「俺の一番憎むべきことは、歯医者にいくことなんだ」
と悪びれずに言って笑った。

めったメタ飲んでいるのに、悪酔いしたり、からんだりする者が一人もいないのには感服した。車で来ているので泥酔は許されないのだ。それにしても空けたワインのすごさ!

深夜の2時を過ると強烈に眠気で、何も耳に入らず、眼を開けておれなくなってしまった。ほんのちょっとだけとこっそり席を外し、ボクは寝ていたカロータを抱き締めてサロンで横になった。申し訳ない、ほんの5分だけね・・・

脚をひどく突っ付かれて眼が覚めた。
エンリコとマルコがボクの顔を覗き込んでいる。
「客をほったらかしてグーグー寝てしまう奴なんて、俺は初めてだよ!」
エンリーコがわめいている。
他の客達は、たった今、帰ったばかりだと言う。時計を見ると、もう3時をまわっていた。

というわけで、第一回目のエンリーコへの感謝のチェーナは、一応成功に終わったようだ。(K)

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すむらけんじ

作者: すむらけんじ
ミラノに住む広告イラストレーターです。このブログは今まで飼った猫、今飼っている猫のことを綴ったものです。
作者は左耳は生まれつき難聴にかかり、人口内耳に踏み切るまでの耳の歴史、未来のことなども連載しています。

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