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イタリア猫ショートショート<あと28話>

cavii

カヴィヤの夜

朝の散歩から帰って来たリーノおじいさんは、いつものように簡単な朝食をとった。

先週ふらりとバイエルンを旅行したときに、ホテルの朝食に出たビスケットがとても美味しかったので、このところ朝食はこのビスケットと紅茶だけ。ベルギー製のカラメルビスコットである。
ドイツから帰って来てインターネットで探し出し、苦労してやっと購入したんだけど、実は大きなスーパーにもあったので、ちょっとがっくり。

新聞を読みながら、バッハを聴きながら、これ以上は無理なほど時間をかけて朝食をとる。

リーノおじいちゃんは自分の食べるものは何でもネコに食べさせる。

「カヴィーは何でも食べてくれるからわたしは嬉しいよ」
おじいちゃんは飼い猫と一心同体でありたいらしい。ネコだってそうに違いない。
おじいちゃんが食事をしているときは、自分は食べなくても必ず自分用の椅子に行儀よくすわってるんだから。

ネコの名前まだ言わなかったけど、カヴィ、って名前。
カヴィヤーのカヴィ。又どうしてそんな名前を?


さて、おじいちゃんはゆっくりの朝食を終わると着替えをはじめる。
ヨモギ色のパピリオン、ボルドーと紺のストライプのジレー、淡いグレーの上着にクリーム色のズボンで身を整えると、ちょっと髭をあたる。
今日は特別な日なのでお洒落しないと。

「カヴィ出かけて来るよ。今夜は久々のご馳走だ。いい子にしてるんだよ」

おじいちゃんはバスに乗り、都心まで出ると地下鉄に乗り換えて2つ目の駅で降りる。

画廊やアンティックの店、建築家の小さな事務所などがある所だ。
道は何百年も経っているような敷石なので、おじいちゃんはちょっと気を付けながら歩く。
一度、雨の日に足を滑らしたことがあるからだ。

と、ある一軒のアンティックの店の前でリーノおじいちゃんは足を留める暇もなく入って行った。

「まあ、リーノさんたら、すっごくおめかしして。今日はあの日なのね」
「そうとも、あの日なんだよ」と笑う。

リーノおじいちゃんは内ポケットから、小さなエッチングを取り出した。
「ちょっとエルネスト・ニステルのまねごとみたいだけど、気に入ってくれるといいんだけれどね」

「まあステキなネコちゃんの兄弟。いつごろお描きになったの?」
「60年前くらいかな。私が美大のときのものだ。今日はこれで勘弁してくれるかい?」

「勿論ですよ。マリーナさん大喜びよ。だってリーノさんの大ファンなんだもの。おいくらさし上げたらいいのかしら?」
「いくらでもいいさ。君が決めてくれたまえ」


リーノおじいちゃんはありがとうと言って代金を受け取ると、丁寧に財布にしまい、骨董店を出た。
又地下鉄の乗って今度は市内のど真ん中へ。
高級店で立て込んだ所に目的の店はあった。

輸入食品専門の最高級のM店だ。
リーノおじいさんはウインドウでちょっと身だしなみを整えて、いくらか気取ったポーズで中に入って行く。
外国の高級食品ばかり扱っている所だから、客は多くない。身なりもキチンとしていて、下品に大声で喋る客など一人もいない。言うなればちょっとスノッブの雰囲気だ。

黒いスーツで気取って澄まし込んでいる若い店員。
リーノ氏を見つけると、にこにこ笑って手を差し伸べてきた。
「これはこれはリーノさん、ご機嫌いかが?今日もやっぱりアレのために?」

「ご覧の通り。この気取った服装を見ればわかるだろう?カヴィヤーを買う日はワタシの最高に贅沢の日なんだ」
「リーノさんの素晴らしい日。いつものように一番小さなビンがいいですか?」
「うーん、絵がいい値で売れたからちょっと大きめのでもいいんだ。でも最高の物をね」
「わかってますよ。イランから入ったばかりのフレッシュなモノなどいかがでしょう?」

買い物を済ませると、おじいちゃんはついでに高級ブティックの並んでいる店をゆっくり回って、ネクタイを一本買った。エッチングを売って、カヴィアーを買ってもおつりが来たのだ。
そして家路についた。
        

リーノおじいちゃんはわくわくしていた。
今夜は3週間ぶりに超高価なカヴィヤーにありつけるのだ。

「カヴィや。お前の大好物のカヴィヤーの夜だよ」

今朝、掃除婦が来てくれたので、家の中は奇麗。
たった60平米しかないささやかなアパートだが、日当たりはいいし通し風はあるし、春から秋にかけて並木の緑は窓いっぱいに覆ってくれるし、この78歳のご隠居には申し分ない憩いの家なのだ。

テーブルクロースも掃除婦が気をきかせて、最高の物が敷き詰められている。
カヴィアはヴィクトリア調の銀のコッパに。
冷蔵庫からとっておきの白ワインを取り出して、栓を抜き、ムラノのグラスに。
(彼はシャンパーンより白ワインを好む。それもフリウリの超高級ワインを)

ネコのカヴィーは自分の椅子の上に行儀よくお座りして分け前を待っている。
彼も知っているのだ、今日は大切なカヴィアの夜であることを。

リーノおじいさんはある日(ずっと若いとき)カヴィアを食べて、病み付きになった。
でも高い。グラフィックを引退しても年金生活は優雅ではなかったから、カヴィアーなど贅沢だと諦めていた。

だが、ある日こんなことを考えた。
自分が若い頃に描いたネコの小さなイラスト、ネコの切手(何と1900年くらいの物もある)、1900年初期のネコの絵はがき・・・そんなコレクションを持っていても仕方がないではないか。
憧れのカヴィヤが食べたくなったら売ればいい・・・ってアイデアにたどり着いたのだ。

「全部まとめて売って下さればずっとお得ですよ」
アンティックの主人は言う。
「いやいや、そんな大金はいらないよ。その時にカヴィヤ一個買えればいいんだ」

「ほら、美味しいかい?よーく味わって食べるんだよ」
キャビはぺろりと食べて味を吟味するように舌をなめ、またほしがる。

おじいちゃんは銀のスプーンで一口。
眼を細めてしみじみと味わう。

このネコは真っ黒だがグレーの斑点がある。
「リーノさんにもらって頂けたら」
「毛がカヴィヤみたいだな。もらおうか。名前はキャビだ」
とても聞き分けのいいネコでリーノ氏は気に入っている。

たった2人だけの儀式ばった夜は更けて行く。(K)






| 猫.cats,gatti 100の足あと | 21:33 │Comments2 | Trackbacks0編集

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コメント

Re: タイトルなし
日本からのコメントありがとう。
この話、ちょっとしょぼくれたかなあなんて心配だったけど。。。コメントはずばり!
励みになります。k

2009.10.15(Thu) 22:10 | URL | k|編集

ほのぼの~!
リーノさんの素晴らしい晩餐に乾杯。

私も探してみます。老後にこれがあれば
幸せって思えるものを。

2009.10.15(Thu) 11:52 | URL | AKI|編集

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すむらけんじ

作者: すむらけんじ
ミラノに住む広告イラストレーターです。このブログは今まで飼った猫、今飼っている猫のことを綴ったものです。
作者は左耳は生まれつき難聴にかかり、人口内耳に踏み切るまでの耳の歴史、未来のことなども連載しています。

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