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mario2
イタリア猫ショートショート<あと23話>
若者マリオと捨て猫とのエピソードは終りましたが、その後の彼について少し。

マリオ<2>

眼だけぎょろぎょろして骨張っていたマリオが、日ごとに痩せて来た。
昼食には、全く油気なしに鉄板で焼いた持参の薄いビフテキと、塩気も加えない生野菜だけをくり返し食べているのだ。
絶対行きたくない兵役を免れるには、この方法しかないのさ、とマリオが言う。
徴兵令が送られて来たとき、父親の知り合いを通して『健康上無理』を軍事局に納得させることには成功したそうだ。
だが形式的にしろ軍部からは専門の医者がチェックに来るのは確実で、それまでに体力をなくし「いかにも病人らしい」状態にしておかなければ『不合格』になる場合だってありうるそうである。

「2週間以内にチェックがあるはずだから、しばらく休ませてくれよね」
さぼった分は『合格』の暁に取りかえすなどと言う。

それからまた20日ぐらいも経った頃だろうか。
ある朝、BARで朝食を取ったあと、広場を横切っていると、後ろから誰かに声を掛けられたような気がして振り返ったら、太陽を背に、かげろうのようにぼんやりと若者が立っていた。

マリオだった。
20日前、最後に見たときよりも、体重がまたぐんと減ってしまったかのように、ほとんど骨と皮だけに見えた。
「チェックに成功して兵役に行かなくてもよくなったんだ」
彼はいくらか照れたように力なく笑って言った。 

軍医が来るまでは絶食のようなことまでしたそうだ。
ヨガをする友人から指導を受けたのだが、しまいにはベッドから起き上がる力さえなくなり、思考力も無くなってきて、本当に自分は病気になってしまったのだと思い込んでしまったそうである。
ご苦労さん。仕事もそれくらい熱いれて欲しいね。


七月の終わり頃、マリオは友人とインドへ旅立った。
高校生のとき両親と東洋を旅行した際にインドに滞在したとき以来、マリオにはインドは憧れの地になったらしい。

夏休みが終わって九月半ばになっても、彼から連絡がないので不信に思っていると、母親から電話が入った。
息子はあと一ヵ月くらいスリランカに留まる意向で、そのあとインド、ネパールを回って帰国したいという手紙が届いたことを伝えて来た。
ちょっと型からはずれた息子に、母親も手の施しようがないと言う感じだった。

マリオが戻って来たのは、何と11月に入ってからで、ミラノにも冷たい濃い霧が掛かりはじめた頃だった。
以前のように再び僕の所に通うようになったが、ヒッピー風恰好はエスカレートし、近所のおばさん達も『あの子だあれ?』などと聞くので、「アシスタントです。オヤジはボッコーネ大学の教授』などといい、彼女らが驚く顔を見て,ボクは笑っていた。

マリオはあまり仕事に身が入らず、ぼんやりとしてため息ばかりついている。
インド惚けから抜け切れないのかと思っていたら、ある日突然、
「自分はスリランカに住んでいるイタリア娘に恋してしまった」
と、ぽつりと打ち明けた。
まだ両親には内緒だが、いずれ又スリランカに行くことになるだろうとも言った。

ある月曜の朝など、いきなりシチリアから電話を掛けて来て「今週はどうしてもだめなんだ」と特別休暇を願ったりして、こっちはすっかり腹をたててしまったが、ミラノとシチリアでは話しにならない。
どうやら放ろう癖は膨らむばかりのようだったが、そのうちスリランカに恋人を訪ねて発って行くのだったら、それを機会に止めさせればいいと考えた。
ともあれマリオが出て行くのは時間の問題だとも思っていたから、知人やデザイナーの仲間に電話して、新しく見習いの若者を探してもらっていた。

クリスマスも近づいた頃、ボクは仕事でてんてこまいをしていた。
もの忘れのひどくなったマリオに、
「絶対にわすれないで届けるんだよ」と、念をおしていたのに、彼はスケッチを机の上に放ったまま帰ってしまった。
とっさに家に電話をした。
当人はまだ帰ってきておらず、電話に出て来たのは大学教授の父親だった。
「マリオに明日の朝いつもより早く来るように伝えてください。今日必ず代理店に届けるように頼んでいたのに忘れてしまったのです」
そこまで言うと、ボクもカッとなって我を忘れた。
「お宅の息子さんは頼んだことはちっとも!いまだにインドボケが残っているようで・・・・」
だが父親はすぐにそれをさえぎった。
「息子には、明日の朝何時に出勤するように伝えればよいのでしょうか」

「やめてもらうことにしたよ」とマリオに切り出した。
だが、彼はちっとも悪びれた様子もなかった。
出ていって欲しいと言わなければならないのは、出て行けと言われたときと同じようにいい気持ちのしないものであることを、イタリアで両方とも経験した自分であった。

「さてと、オレのあとに誰か適当な友人はいないかな。あ、あいつに電話してみよう」
などと、悪びれずに考え込んでいるマリオを、ボクは不思議な気分で眺めていた。   


それから2年くらい経ってのことだった。
デザイナーの誕生パーティに呼ばれたとき、大勢の客の中から、誰かが僕の前にのっそりと立ちふさがった。
何とマリオだった。

最初ちょっと戸惑ったのは、あのふあふあとしたクルクル捲きの髪を短く切り、鬚も綺麗に剃って全体にふっくらした感じで、数倍ハンサムに見えたからだ。
それをからかうと、恋人が『あんた、その髪どうにかならないの?』
と言うので切ってしまったのだとテレながら言う。

今ではミラノの印刷所でグラフィックの仕事をしていると、ぼそぼそと話してくれた後、恋人を客の中から探し出して来て紹介してくれた。
彼女の腰に腕をまわして立っているマリオが、そのとき随分大人っぽく見えた。あまり立ち入ったことは聞かなかったが、どうやら彼をとりこにしたスリランカの恋人ではなさそうであった。

「猫は?」
「4匹だ。つい拾って帰ってくるので」
若い2人は顔を見合わせて笑った。(おわり)
皆様の拍手(一票)をお待ちしています。励みになりますのでよおしくお願いいたします。
               

| 猫.cats,gatti 100の足あと | 13:31 │Comments4 | Trackbacks0編集

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コメント

Re: タイトルなし
ビートルズ熱はますます上昇していく時代だった(1977年ころ)ので、ヒッピー達は髪の毛ぼーぼーで、汚いかっこうしてたな。
インドは憧れの地だったらしく、イタリアのフォークシンガーなども、悟り?を開くために行ってたようです。
あの頃は日本も今のような世界に誇る?経済大国ではなかったし、ヒッピー風の金のない若者もたくさんいて、あんまり汚いのでポリスに捕まったり...今では考えられないね。k

2009.10.30(Fri) 08:49 | URL | ban|編集

西洋の若者は東洋に神秘を見るのでしょうか?

イラストのマリオの変身..イケメンですね~!
恋人も可愛いわ

猫とマリオのつながりを知りたいで~す
次につながるのかな?
期待してます。

2009.10.26(Mon) 01:20 | URL | AKI|編集

Re: タイトルなし
そうーかー、やっぱりねえ。
自分にも自身がなかったんだけど・・・
恥ずかしいけど、このままにしとこ。
酷評を受けて、はじめて進歩あり。

2009.10.25(Sun) 22:27 | URL | ban|編集

①②話のイラストの雰囲気は気に入りました!!・・・・

主題が分散して、今一我がハートへのときめきが
感じられなかったんですが・・・・・

生意気な事を言ってごめんなさ~いネ。




2009.10.25(Sun) 18:15 | URL | まこ|編集

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すむらけんじ

作者: すむらけんじ
ミラノに住む広告イラストレーターです。このブログは今まで飼った猫、今飼っている猫のことを綴ったものです。
作者は左耳は生まれつき難聴にかかり、人口内耳に踏み切るまでの耳の歴史、未来のことなども連載しています。

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