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猫ショートショート あと18話
フィッサ

食べそびれた昼ごはん 2

こんな情けない、恥ずかしい、ひもじい思いするなんてね。こんな南部の片田舎で。
ボクはだらしない人間だってことは分かってる。フリーで働きはじめて、決まった時間に食事するって習慣なんかないんだ。我が家の哀れなネコ(今、どうしてるかなあ。上階のおっさん、ちゃんとエサやってくれてるかな?)だって、決まった時間に食べれたことなんかない。哀れなカロータよ。

再び炎天下に放り出されたボクは、泉のある小さな広場に向かってのろのろと歩きだした。少々上り坂だが仕方ない。下って行って塩水を飲まされるよりマシだもの。

おや?またあのネコが!
ボクの10メートル先にちょこんと座ってこっちを見ているのだ。
ボクについておいで、美味しいもの食べさせてくれるところ連れてってあげる。
もう、その手には乗らんぞ!

勢いよく走ってきた自転車がすれ違った。
キーっと、ブレーキの音が沈黙の白昼に響き渡って振り向くと、やせすぎの背の高い女が自転車を降りようとしていた。

「あんた、ミラノから来たB氏のお友達じゃない?」
黒いワンピースに黒いほおかむり(?)の女は地方なまり丸出しのざらざらした声で言った。

真っ黒に日焼けした顔と腕、しわしわの顔に濃い青い目がキラキラしている。
左右の眉毛がくっつきそうだ。

「こんな時刻にうろうろして、あんた日射病にでもなったらどうするのよ」

「いえね・・・あのすだれのかかってる家が飲食店だと思って入って、パスタだけでも・・・って頼んだら、ここは我が家の台所だって断わられたんです。ああ、ボクお腹空いて死にそうなんです。なんでもいいから食べさせてくれるところを教えてください」

女はボクの言葉を最後まで聞いてはいなかった。

いきなりボクの腕ががしっと捕まえられた。力強い逞しい手だった。
彼女は無言のままどんどん歩いていく。
すだれの入り口の前につくと、躊躇なく中へ入って行った。

「あんたたち!」

「あらっ、フィッサったらどうしたのよ」
皿を洗っていた女がひょうきんな声をあげた。

「あんたら、どうしてこうも情がないんだよ。この若者はお腹が空いてんだよ。何か食べさせてあげて。この人はB氏のお友達で昨夜ミラノから着いたばかりなんだから」
方言だが、そのようなことを言ってるのが大体理解できる。

「フィッサ、わしはただ、ここは飲食店ではなく我が家の台所だと言っただけなんじゃよ」
さっきの長老らしい白い髭の老人が言った。

「父さん、わかったわよ。とにかく食べさせてあげて」

そしてフィッサおばさんはボクの顔を覗き込んで言った。

「今、妹がパスタを作ってくれるからね。安心してお食べ。田舎の人間だからよそ者の扱いをしらないんだよ。悪い人間ではないんだけどね。夕食はわたしがおいしいもの作ってあげる」

そしてフィッサおばさんはなにやら彼らと話していたが、完璧な方言なのでさっぱり分からない。
やがて彼女は忙しそうに出て行った。

茹で上がったスパゲッティの大皿を運んできたフィッサさんの妹さんは、さっきのしかめっ面とは違い、ニコニコしている。
「これは我が家でつくったイワシの油漬けじゃ」
一家の長が、たなから大瓶を取り出してきて言う。

ボクはもう、お腹がはちきれるほど食べた。
こんなにスパゲッティがおいしいと思ったことはなかった。

peschici2

腹いっぱいになったところで、今度は質問攻めになると思いきや、そうはならなかった。
別にボクのことを知りたいなどと思わないらしいのだ。
彼らは素朴な田舎の人たち。眠いんだったら居間のソファで休んでいけばいい、などという。


翌日の午後からは、マリアさん(フィッサさんの妹)の旦那さんの漁船に乗っけてもらった。
「あれがB氏の住まいだ」
彼は遠くを指さして言う。絶壁に君臨する屋敷の下は、まっしろなしぶきが石壁を打ち砕くばかりだ。
B氏はこの街のボス的存在なのだろう。

昨日の夜、クローチェフィッサさんが言っていた。
自分の息子をレッチェの大学に行かせられたのも、B氏の力があったからこそと。フィッサさんにはB氏は大恩人なのだ。

3日も経ったけど、B氏はまだ戻って来ない。
ローマの弟さんの急死のあと始末で大変なんだろうとフィッサさんが言う。

そしてボクはB氏に会うことなくして、シチリアのメッシーナへ発つことにした。
メッシーナで車を預け、船でリーパリ島へ。
ミラノで仲良しだった警察官は生まれ故郷で結婚式を挙げようとしている。

フィッサさんは出発の日の朝、パニーノを2つ作ってくれた。(K)

| 猫.cats,gatti 100の足あと | 20:50 │Comments5 | Trackbacks0編集

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コメント

Re: タイトルなし
ほんと!漁村の人って太った人少ないんだよね。きっと魚ばかり食べてるからかな?
イワシなんてコリステロールまで一掃するらしいものね。
今回は2点イラスト入れてみました。しつこいといけないと思って、島のおばさんはカット風に小さく入れたんだけど、ちいとこますぎた(山口弁)。

2009.12.11(Fri) 23:00 | URL | すむらけんじ|編集

Re: タイトルなし
> 私のフィッサおばさんのイメージは太っていたのだなぁ~!でも、南の真っ黒に日焼けした多分漁師の
> 女房だったら..そう、あんな感じよね~~!
> 等と勝手に思ってます。
> 美味しく食べられて、よかったわね!!
> 白黒ねこちゃんの顔もけんじさんも見られて良かった! やっぱりイラストが素敵!

2009.12.11(Fri) 22:52 | URL | すむらけんじ|編集

Re: タイトルなし
先日ペスキチのことゴーグルでのぞいたけど、すごい!れっきとした観光地に。
リーパリには3年前に行きました。なつかしかったなあ。青春は戻らない。k

2009.12.11(Fri) 14:21 | URL | すむらけんじ|編集

私のフィッサおばさんのイメージは太っていたのだなぁ~!でも、南の真っ黒に日焼けした多分漁師の
女房だったら..そう、あんな感じよね~~!
等と勝手に思ってます。
美味しく食べられて、よかったわね!!
白黒ねこちゃんの顔もけんじさんも見られて良かった! やっぱりイラストが素敵!

2009.12.11(Fri) 14:21 | URL | AKI|編集

めでたし、メデタシ~~美味しいパスタにありつけて
良かったわねぇ~~

さぞかしトマト味の濃いサルサで、何時までも舌に
その時の味が残ったことでしょう!!

2009.12.11(Fri) 10:13 | URL | mako|編集

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すむらけんじ

作者: すむらけんじ
ミラノに住む広告イラストレーターです。このブログは今まで飼った猫、今飼っている猫のことを綴ったものです。
作者は左耳は生まれつき難聴にかかり、人口内耳に踏み切るまでの耳の歴史、未来のことなども連載しています。

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