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イタリア猫ショートショート<後14話>


california


ロッコ氏トマトの愛情物語

皆さんにロッコ・パパラチーノ氏をご紹介しよう。

ロッコ氏は農園学者。
農園をあちこちまわって、野菜や果物の育ち方を検査し、豊作に導く仕事に就いている。

彼は農園を歩き回って、野菜や果物や、さては花々に話しかける。
「諸君おはよう!」

「あれ、ちょっと顔色がわるいけど、風邪をひいたのかい?」
と、メロンに話しかけたりする。

ロッコ氏曰く、たまには彼らからの言葉も聞こえてくるのだそうな。

まだ、独身。もう30半ばだから、結婚相手がいたって不思議ではない年齢なのだが・・・



そんな彼にちょっとした、生活のリズムが変わってしまいそうな出来事がおこったのである。

トマト畑を歩いていたときのことだ。
真っ赤に熟れた鈴なりのトマトの枝の下に、何やらもぞもぞ動いている。

そーっと覗いてみると、なんと赤い子猫を見つけたのだった。

「お前の頭がもっと赤かったら、きっとトマトと勘違いしただろうよ」

ロッコ氏は家につれて帰って来てミルクを与えた。
体を拭いてやり、フォーンで暖めて居間の隅っこに籠をおいて寝かせてやった。


翌日、早起きのロッコ氏が6時半に目覚ましを聞く前に、彼は眼をさましたのだ。

「ハ、ハ、ハ、ハアクション!!」

なんと子猫が、ヒゲでロッコ氏の鼻の穴のあたりをモゾモゾ。

ビビビビー、そのとき、ぴったり目覚まし時計がなった。


ロッコ氏はポケットの中に子ネコを入れて仕事に出かけた。

彼が出て行こうとすると、トマトはミャオミャオ悲しげな声で訴えるので(彼にはそう聞こえた)、
留守番をさせるわけにはいかなかったのだ。


毎朝、出かける時間に、既にポケットの中で待っているトマト。

夜寝るときはロッコ氏の枕の上で眠る。
それも耳たぶすれすれのところに。
耳がかゆいなと思ってロッコ氏が小指で中をくるくるっとやると、トマトも前足で軽くくるくるする。

食事だって、自分独りで食べたりはしない。しっぽをきれいに巻いて、
ロッコ氏が食べるときに自分も食べ始める。
もちろんテーブルの上で。

ロッコ氏の食べるものは1から100まで何でも食べる。
チョコレートだって、豆のスープだって、リンゴだって、コーヒーだって、何でもかんでも。


「可愛いトマト・・・お前が来てくれて僕の生活は変わった。」
紺碧の空を仰ぎ、ロッコ氏は感謝の言葉をつぶやく。
そしてポケットの中でゴロゴロ喉をならしている子猫を愛撫しながらイチゴ畑を歩く。


トマトとは一生離れられまい。
結婚まで約束していたセレーナ嬢とも手を切った。
いや、セレーナ嬢のほうが去っていったのだった。



ところが・・・
この一心同体の愛すべきロッコ氏とネコに不幸な出来事が起こったのだ。

ロッコ氏は一ヶ月間、アメリカの農園の視察巡りをすることになったのである。
以前送った論文が賞をとったためだった。

ロッコ氏は悩みに悩んだ末、
結局は引き受けることにした。

アメリカの大自然と、桁違いに大きい農園を見ることは彼の憧れだったからだ。
将来はヴェネトの山中に農園を持つ夢もあったから、いろいろ経験もしたかった。

「トマトの面倒は私が見るから安心して行ってきなさい」
近くに住む弟思いの姉さんが激励してくれた。

そして、うし後ろ髪身ひかれる思いで飛び発ったのであった。


「ああ、トマトどうしてるだろう。ジャガイモ見てもイチゴ見てもトマトの頭を思い出すし、トカゲの眼見たって牛の眼見たって、トマトの眼を思い出すんだ」
カリフォルニアのでっかいカルチョーフィの畑の中で、ロッコ氏はため息をついた。

昼ご飯を差し入れしてくれたおばさんが言った。

「分かるわァ、いい方法ないかしら?ねえ、ミスター・ロッコの汗まみれのTシャツでも送ってあげたら?グッドアイデアだと思わない?飼い主の匂いで、トマトはあなたのことをずっと思い焦がれて帰国を待っているわよ」

ロッコ氏がおばさんの頬に感謝のキスの雨を降らせたことは言うまでもない。

「オレはなんて馬鹿なんだ。こんなことも気がつかずに。トマト、ごめんね」

農園巡りで汗びっしゃりのTシャツを油紙に包装を終えると、真夜中の国道を飛ばして、24時間営業の国際急行便SDWへ。

<マチルダ。汗の匂いのTシャツ送ったから、トマトにあたえてくれ。そそてどんな反応をしたか、すぐにメールをくれよね>


待ちに待った姉さんのマチルダからは、翌々日の早朝メールが届いた。

<大成功よ。トマトったら、ちょっとクンクンやってすぐあんたってわかったのね。それからがもう大変。気がふれたみたいに、体をこすりつけたり、首をつっこんでもぐりこんだり。朝、あたしが訪れたらシャツから首を出して寝てるの。おだやかな表情でね。
だから、たまには別のTシャツを送ってきてね。あんたって子供のときから、7人姉弟の中では一番体臭が強かったけど、それが功を奏するなんて>

メールに眼を通しながら、ロッコ氏が感動のあまり何度も眼がしらを押さえた。
毎日汗の匂いのTシャツを送ることに決め、スーパーに走って3ダースのTシャツを購入したのであった。


<あんた。毎日Tシャツが届くけど、ちょっとやり過ぎじゃあない?
トマトったら、毎日門のそばにいて、配達人を待っているの。一度、配達人がずいぶん遅れてきたんだけど、トマトは悲しそうに泣いて待ってたわ。だって毎日届くって思い込んでいるのよ。それはほめたことではないわ>

姉の忠告にも従わず、ロッコ氏は汗臭いTシャツを送りつづけたのだったが・・・



<大変よ。昨日送って来たTシャツに、トマトが変だったの。発狂したようになってね。牙をむき出して、びりびりにさいてしまってね、出て行ったまま朝まで帰って来なかったわ>

ロッコ氏ははっとした。思いあたることがあった。

2日前のあの夜は、メロン菜園の社長の娘に強引にけしかけられて、一夜を共にしたのだった。翌日彼女と手を取り合ってメロン畑を歩いていたら、また・・・その夜、下着を包装してSDWに駆け込んだのだったが・・・
彼女の匂いまで計算に入れてなかった。

トマト、強敵の匂いまでいただいてしまったのだ。


<トマトが落ち着くまで、数日下着送るのやめなさい。何か別の簡単な方法考えて>

「紙にワキガをよくしみ込ませて、手紙のように送る方法もあるのよ。これぞ、本当のラブレターね」
またまた、カルチョーフィ畑のおばさんのアイデア。
早速実行した。

『トマトは僕のもだ。お前に早く会いたい』と一言書いて。

<いいアイデアだわ。トマトったら抱いてねていたわよ。書いた一言もわかったみたい>
と姉からのメールが届いた。

<あたしも開けるのが楽よ。鼻つまんで小包開けるのも大変なのよ>



それを最後にロッコ氏からの匂いの特急便はぴたりと後をたった。

また10日経ったが、特急便はもちろん、ロッコ氏からの音信も止まったのだ。
姉のマチルダは心配だった。何回もメールを打ったり、何らかの問い合わせを試みてはみたが、なしのつぶてだった・・・


ロッコ氏から再びメールが入ったのは、一ヶ月上もたってからだ。

<マチルダ、驚かないでくれ。車の大事故にあったんだ。コロラドの山道を走っていたときのこと、ハンドルを滑らせて、崖から真っ逆さまさ。
救急車に運ばれて入院したけど、体中めちゃめちゃになったみたいだ。でも奇跡的に救われた。
杖をついて歩かなければならないが、もう大丈夫。
トマトは元気かい?トマトのことを考えると死ねないと思った>

数日後・・・

<明日、ミラノ行きの飛行機に乗る。
こんな事故のあと、トマトに会うのは嬉しいけど、辛い。
夕方着くけどタクシーを使うから出迎えには及ばないよ。
荷物は今日送り出してしまったから、ショールだダーバッグ一つだ。
家の鍵は昔のように、イチジクの木のくぼみに入れておいてね。
トマトとは独りで会いたいから>


ロッコ氏が懐かしい自宅の前でタクシーを降りたときは、初夏とはいえ、夕闇が迫っていた。


ロッコ氏は、イチジクの木の小さなくぼみから鍵を見つけると、そっとドアの錠に差し込み、ドアをあけた。

奥の居間の薄明かりをバックに、小さな動物が近づいてくるのが見えた。
トマトに違いなかった。

トマトは狂ったようにロッコ氏に顔や尾を押しつけた。

「トマト、よく待っててくれたな」

ロッコ氏は杖を壁に持たせかけると、電灯をつけ、トマトを抱き上げた。

トマトはロッコ氏の顔を見た。

そして鋭い声をあげると、爪をたてロッコ氏に飛びかかった。

そして巧みに腕から飛び降りると、矢のような早さでドアの外へでていった。

ロッコ氏の顔は整形手術のため、全く別人となっていたのだ。


『後談』
後味の悪い結末になってしまったけど・・・
3日後にトマトは戻って来ましたからご安心のほどを。

やっぱり、匂いはロッコ氏のものだからね。
これ以上確かなことはないってこと。

二人は昔のように幸せ。

ロッコ氏はもう農園にでることは無理となったので、コラムを書いたり、出版の準備をしたり・・・
膝の上のトマトを愛撫しながら、好きなオペラのアリアを聴いている。

匂いに生き、愛に生き・・・・(K)

| 猫.cats,gatti 100の足あと | 00:48 │Comments4 | Trackbacks0編集

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コメント

Re: タイトルなし
イタリアはチーズの匂い?僕も匂いには敏感。
以前、若い連中が仕事で来ていたとき、シャワー浴びて来たかこなかったかすぐわかった。
何にもいわなかってけれど・・・
このTシャツと腋臭レターのこと、高名な英国の獣医の本からヒントをえたもの。笑っちゃった。
でもあり得ることなんだなーって。k

2010.01.28(Thu) 14:02 | URL | よしよし|編集

Re: タイトルなし
脇がの強い人って僕も弱い。
でもこのTシャツも脇がレターも、高名な獣医の書いたことをヒントにしたものです。
信じられる?k

2010.01.28(Thu) 13:55 | URL | よしよし|編集

匂い、って国によって違いますね~!
空港に着くと、その国の匂いがプーンとします。
日本の空港はお醤油の匂いだそうですね。

トマトが帰ってきて良かった!
この優しい関係の一人と一匹に幸あれ!

2010.01.28(Thu) 13:28 | URL | AKI|編集

ウファ~~ 夏の乗り物の中で、
ワキガの臭いがしてきたみたい~~

でもそこには、可愛いトマトの姿がチラチラ
してガマンできそうだけど~~

ふたり?のご愛敬物語、幸せそうで何よりですね~~!!

2010.01.27(Wed) 15:52 | URL | mako|編集

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すむらけんじ

作者: すむらけんじ
ミラノに住む広告イラストレーターです。このブログは今まで飼った猫、今飼っている猫のことを綴ったものです。
作者は左耳は生まれつき難聴にかかり、人口内耳に踏み切るまでの耳の歴史、未来のことなども連載しています。

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