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イタリア猫ショートショート<あと4話>


M 1

カロータの失敗とM夫人<その1>


あの世へ発ってしまった我がカロータの思い出は尽きない。

ショートショートも100話まであと一息。

今日は我がカロータが一生一代の大失敗をやった時の話をしよう。


カロータは4階から2階のテラスに落っこちてしまったのだ。
早朝、ホシムクドリが台所のバルコニーにやって来て植木を荒らしているのを狙い、足を滑らせてしまった・・・というところではなかろうか。

バルコニーの手すりは大理石が敷いてあるので、夜露のためつるっと滑ってしまう。

カロータにとって良い教訓になったはずだ。
この事件の後、2度とこの手すりに飛び上がることはしなくなったのだから。


『テラスの上で赤い猫が泣いているが、お宅のカロータくんのようですよ』

ほんとだ!カロータは大きな鉢植えの隙間にのめり込んだようになって泣いている。

「カローターァ!」
と叫ぶと、はっとこっちを見上げて一瞬泣き止んだが、見上げたまま、又ギャーッギャーとやり出した。

お腹が空いただけでも大げさに泣き叫ぶ猫のことだ。

この悲劇的な叫びはこの界隈の同情を一身に集めるほどの迫力がある。
 
何しろ我が家から7メートルもあるんだから、足の一本くらい折れているかもしれないが、家から外に出たことのないカロータにしてみれば、傷の痛さより恐怖感の方が先に違いない。

1階下のM婦人のバルコニーからはみ出して張られている洗濯紐を見る。
カロータがこれにに引っかかったのは想像できるし、藁をも掴む思いでしがみつこうとして無理だった・・・

カロータは巨大ネコなのである。

だが、いくらか落下速度が低下したことは考えられる。


とにかく即座助け出さなくてはならない。
テラスの持ち主は新婚のアランジ夫婦である。C夫婦がいてくれれば、ちょっと中に入れてもらって猫を連れて帰ってくることも出来る。だが、

新婚さん、共稼ぎで出かけてしまっているらしく、それは不可能。

建築技師のピーノ君が長いアルミの梯子を抱えて来てくれたので僕が上る。
スポーツマンタイプのピーノ君がが登って行って猫を取っ捕まえてくれないかなぁと一瞬思ったが、カロータは僕の飼い猫なのだ。

そこまでは頼めない。

やはり飼い主が行ったほうが猫だって嬉しかろうとピーノ君も気をきかせている?
ところが長ーい梯子でもチビのボクには、充分とは言えないのだ。
おそるおそる最端まで上って、両腕をテラスにかけてグンと力を入れて体を持ち上げ、それから足をかけてよじ登らなければならない。

小学校の時から僕の一番苦手は体操競技だ。
カロータのためとはいえ、この年でこんなことを?

ピーノ君は梯子をぐらつかないように支えてくれている。

ひまな住人たちが窓から覗いているのを背中に感じる。
だから僕は体操のテストを受けている中学生のように、死にものぐるいである。

そしてやっとのこと3回目の勝負で屋根にやっとこさ這い上がって、アルプスの頂上にでもたどり着いたかのようにすくっと立上った。

窓から覗いていた暇な老人の拍手。

さてそれからカロータが隠れている鉢植えまで走リよって、抱き上げようとしたが、興奮してルカロータの爪がボクの腕に食い込んでくる。

「おい、カロータ、オレだよ、落ち着け!」

恐怖で転倒してしまった猫には、飼い主もへったくれもないらしい。とてもじゃないがこんなカロータを片腕に抱いて、梯子を降りたりできるものではない。

「バスケットか箱が必要ですね」
ピーノ君は叫んだ。

敏捷なピーノ君。
小さな段ボールの箱を抱えて戻って来た。
ぼーんと投げてくれた箱のなかにカロータを詰め込もうとしたが、それがまたひと苦労。いつもは箱でさえあれば、あんなに喜んで入ってしまうのに。
やっとこさ詰め込んで、梯子のところまで行くと、ピーノ君が途中まで登って来て箱を受け取ってくれた。

やれやれ飛んだ災難だった。
猫を飼うなんて大変なことだ。

無事家に戻ったカロータはめっためた興奮気味で、泣いたり唸ったりしていたが、午後からはすっかり平生に戻って玉転がしなどやっていたから、ショックで後遺症が残るというデリケートな猫ではないらしい。でもそれ以降絶対に同じ手すりにのぼらなくなったのは流石だ。

さて、僕は梯子を降りるとき、ふたたび我が家を見上げた。
「あっ、又来てるぞ!」
ホシムクドリがまたやって来て鉢植えを荒らしているのである。

「この野郎!お前のためだ、こんな大騒ぎをさせられたのは!」
思い切り両手をパンっと鳴らしたら、おったまげて逃げて行ってしまった。

我が家のすぐ下、洗濯物の紐を引いたバルコニーへ眼を移す。
あの紐があったからこそ、カロータも無事だったと感謝する。
だが、眼にとまったのは紐だけではない。さっきからずっと煙草をくわえ、飽きもせず無表情にこっちを見下ろしているのは、M未亡人であった。

こんな馬鹿騒ぎを楽しませてやったのに、眼と眼があってもにこりともしない。
ぼくが、「ボンジョールノ!」と挨拶したが、風化した石のよう。

実際彼女は年を取った。旦那が死ぬまではああではなかった。
何が気に喰わんのかいつも不機嫌なばあさんだったが、バイタリティーがあった。
我が家の洗濯機が水漏れして、台所の天井にシミが出来たと抗議しに乗り込んで来たときの、あの剣幕といったらすごかった。

だが、旦那が死んですっかり覇気がなくなった。 


         *


そのM未亡人が・・・である。

ビーっと我が家のベルがなった。そして、
真っ赤に塗リたくった薄い唇をきゅーっと左右に伸ばして、M夫人がこぼれんばかりに微笑んでいたのであった。(つづく)

| 猫.cats,gatti 100の足あと | 22:02 │Comments2 | Trackbacks0編集

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コメント

Re: タイトルなし
うちのカロータ、ぼーっとしてたからね。
天国でも、雲の上、ふわふわと上手に歩けるのか知らん?
足滑らせて、ドスーン!
せっかくいい気持ちで寝ているボクの腹の上に落っこちて来たりしてね。(ミャオけん)

2010.04.13(Tue) 22:40 | URL | すむらけんじ|編集

おデブなカロータ君、怖かっただろうな~~
ま~無事で良かった!!ネコだからって、落下しても
骨折しない~~とは言えないんだから・・・!!
ミャオケンさんも、ご無事で何よりでしたネ(笑)!!

素敵なイラストね!!

2010.04.11(Sun) 13:58 | URL | mako|編集

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すむらけんじ

作者: すむらけんじ
ミラノに住む広告イラストレーターです。このブログは今まで飼った猫、今飼っている猫のことを綴ったものです。
作者は左耳は生まれつき難聴にかかり、人口内耳に踏み切るまでの耳の歴史、未来のことなども連載しています。

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