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イタリア猫ショートショート<あと1話>


2ninn

マーチョ先生


「ブラーヴォ、カロータ、お前、とってもブラーヴォだね」
「本当ですか、マーチョ先生?カロータはそんなにブラーヴォなんですか?」

他の猫患者に比べてずっと?
僕はすっかり嬉しくなってしまった。

「いや、そう褒めて猫を安心させるのです」

『マーチョ獣医院』は、我が家の表門を出て、右に20メートル位い行った所にある。
そこへはじめてカロータを連れて行ったのである。




今まではカロータを13年間、グイド氏に任せっ切りだった。
お公家さんのようにおっとりとした風貌のグイド先生は、不似合いなボロ自転車で、昼休みに往診や予防注射に来てくれて、『20ユーロでいいとも』

そしてまた自転車にまたがり、口笛をふきながら去って行った。
不似合いと言ったのは、ベンツの最新型を乗り回しているからである。

ところが、信頼しきっていたグイド先生に、僕は疑問を感じはじめたのである。
あれだけ丸々と肥えていたカロータが、だんだん痩せほそってきた。

「グイド、どうしてこんなに痩せてしまったんだろうか。それに、ゲロゲロ吐き散らすし、食べ物の好き嫌いが多くなって来た。レントゲンかけなくてもいいの?」

「むしろこの年では、これくらいスマートのほうがいいんだよ。太り過ぎだったもの。アメリカ製の缶詰でいいのがあるけど、それを与えてごらん?」

そして、
「ちょっと腸のあたりが堅いけど、しばらく様子を見てみよう」

 快く来てくれるけど、同じ返答ばかり。
「獣医を変えて見たら?あなたの家のすぐ近くに開業したばかりの所が有るみたいだけど、意外といい獣医かもね。」と、親友のB夫人の助言に従った。


「マーチョ先生、往診に来て頂けないでしょうか。この隣のとなりの49番に住んでいるのですが」

「僕はよっぽどの急患でない限り、外診はしないのです」

「そうですか・・・では、ここに連れて来るため何処かで籠を買わなくては。家中探したけど見つからないので」
「籠はお貸ししますよ。明日の朝、9時15分に来れますか?」

 翌朝、カロータは何の抵抗もなく、マーチョ先生が貸してくれた籠の中に入ってくれた。僕らは表通りに出た。カロータはいつもバルコニーの格子の隙間から、賑わう大通りを見下ろしている。
だから始終眺めていた下界に、ついに降りて来たとでもいう心境であろうか。
被せた布の隙間からきょろきょろ覗き見していたが、「ミャーォ」と小さく泣くこと、2,3回。そしてもう医院に着いてしまった。

「体温はノーマルです。でも痩せ過ぎですよ」

 縁なし眼鏡で長身のマーチョ先生は、多分30前。頼りなさそうだ。しかも表情が乏しく冷たい印象を受けるし妙に鼻筋が目立つ。
猫を金属製のテーブルに横たえると、「ブラーヴォ」を繰り返し、体をさすりながら何やら模索している。
胃のあたりに何か詰まっているらしい。

「これは、ウンチがたまっているのかなぁ?」
などと言うので抗議する。

「そんなはずないですよ。毎日必ず黒くて堅いのを出しているのです」

「快便だからと言って、健康に問題がないわけではないですよ」

それもそうだ。
オレだってそうだもの。
カロータの奴、快便にもかかわらず、家中吐き散らす。

いきなりマーチョ先生は、猫の口を大きく開けると、自分の顔をぎりぎりに近づけて、犬のようにクンクンと鼻をならし始めたのである。うへぇ凄い、グイド先生だって一度もこんな事したことなかった。

臭いに敏感な僕には、ネコの口の中を嗅ぐなんて考えることさえなかった。
鼻クンクンの情景に、僕は一瞬にしてマーチョ先生へのプロとしての信頼を高めたのであった。 

先生は点滴を一本、そして、抗生物質とやらの注射を二本もブスリとやった。

「籠は後で返しに来ます。金曜日の市場で買いますから」

「いえ、籠はカロータへプレゼント。どうぞ」
うーん、気に入った、マーチョ先生!

 週明けからレントゲン、血液検査、そしてエコロジー検査が始まる。

「どうします、少し考えますか?お金もかかることだし」マーチョ先生は言った。

だが、僕はこの際徹底的にやってもらうことにした。カロータの一生にただ一度のことかもしれないのだ。少々金が掛かったって、それが何だと言うのだ。

 結果は・・・レントゲンでは肝臓のところに大きな黒い物を見つけた。そして、血液検査の結果が出た。肝臓の何やらの数字が正常より十倍近く高い。

「癌ではないが、これは致命的な病いですね。約一年前から始まっている。」

「手遅れなんでしょうか。それにもう13歳、年を取っているし」

「いや、近頃は20歳まで生き抜く猫はいっぱいいるんですよ。この病気はかかってしまうと治らないのです。あと6ヶ月の命かも知れない。水をガブガブ飲み出したら危険信号です。とにかく、食欲が完全に無くなったら最期だと諦めるのです」

6ヶ月・・・目の前が白くなるほどがっくりして家に戻った。これほどカロータが哀れで、愛おしく感じたことはなかった。
マーチョ先生は魚はだめ、牛肉もだめだと言った。鳥や七面鳥の胸の肉、チーズのリコッタなどが良いと言う。
栄養剤も必要だ。毎日鳥のささみを蒸し焼きにして細かく刻み、アメリカ製の缶詰のパテと混合したカロータ用食事は、今までの『餌』に比べると、超豪華版である。
食欲が無くなるまで、続けてやろうと決心する。

 そして四ヶ月近く経った。カロータの寿命も後2ヶ月限り?
いや、かなり回復に向かっているようだ。心無しかふっくらとして来てた。
カロータはいつも腹を空かせている。腹が減って我慢出来なくなると、後ろ足で立って、前足で僕の体にしっかりと寄りかかる仕草を又始めた。
「うーむ、この調子だと、まだ、1,2年は大丈夫かもしれんぞ」

         *


あれから4年。

「マーチョ先生、うちのネコ、まだ生きていますよ。先生は6ヶ月の命って言ったけど」

「そんなことぼく、言ったっけなあ」

「言いましたよ。忘れたんですか?」
老いてぼろぼろになったカロータはドロンとして目つきでボクとマーチョ先生をみている。




「あと、1,2ヶ月の命です。残念ながら今度は確実です」

そして4ヵ月後・・・・

カロータは逝ってしまった。(K)

| 猫.cats,gatti 100の足あと | 01:56 │Comments4 | Trackbacks0編集

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コメント

Re: タイトルなし
あんまりいい飼い主ではなかったことは確か!
あんたは猫に冷たい!などとも言われたし。
後悔の念も時々顔をだします。
もう遅いけど。k

2010.04.24(Sat) 03:44 | URL | ミャオけん|編集

ミャオけんさんの愛しい伴侶を、出きるだけの手をかけて
見送ってあげられて良かったわね。

心底、ミャオけんさんを信じて、一心に甘える最後の
愛猫カロータは、人間様のように口応えもせず、ご主人
を愛し続けた存在、こういう出会いを人間界で得るには
至難のわざ~~でやんす・・・・

2010.04.23(Fri) 15:31 | URL | mako|編集

g 君

ご愛読感謝。きみの影の声援はとても励みになった。
ミャオけん

2010.04.22(Thu) 12:37 | URL | ミャオけん|編集

いよいよ、あと1話となりましたね。そうか!この100話のショートショートは、今は亡きカロータへのレクイエムだったのですね。拍手!拍手!拍手!g

2010.04.22(Thu) 12:32 | URL | g|編集

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すむらけんじ

作者: すむらけんじ
ミラノに住む広告イラストレーターです。このブログは今まで飼った猫、今飼っている猫のことを綴ったものです。
作者は左耳は生まれつき難聴にかかり、人口内耳に踏み切るまでの耳の歴史、未来のことなども連載しています。

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