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ケンタッキー 1
「どうしても食えないなあ、ケンタッキー・フライドチキンだけは」

 Y氏が我が家の食卓でこう言った。あの脂っこさにはうんざりするというのだ。
 あれェ、そんな変わった人もいたのかと、大ファンの僕にはちょっと信じられないくらいだった。

 外国を旅行をしていて、K・Fチキンの看板に巡り会うとほっとする。アメリカやカナダの大自然の中を走り続けて、やがて小さな街が見えてくる。

 そして、必ず・・・森や林や切り立った岩石を背景に、白地に赤のデザイン、にこやかな眼鏡のおじさんの看板を遠くから見つけたときは、砂漠でオアシスを見つけたような気分になる。
だんだん近付いてきて、窓の外いっぱいに広がるおじさんのニコニコ顔は『おお,君たちか、よく来たな』そう呼びかけてくれているようだ。

 さて、ミラノに来てほどない1972年頃、僕はミラノのイタリア人の家族のアパートにいそうろうをしていたが、事務所から戻ってきて一息つくと、ふらりと夕食に出かけるのが日課になっていた。
 近所にはレストランや飲食店などひしめき合っていたが、毎夕のこととて、貧しい懐具合もあったから、『もっと簡単に、安くて旨い物食えないかなあ』などと考えたりする日々が続いていた。

 ところがある日、古くさい電車通りにK・Fチッキンの、赤と白の真新しい看板を見つけたのである。
 ついに!さっそく開店したばかりの店に飛び込み、大きな袋にいっぱい買った。

 熱々の袋を持って公園のベンチに座って、水もコーラもなしに頬張った。
 うまかった。暖かい袋を下宿に持って帰って、ソニーの携帯ラジオから流れてくるオペラに耳を傾けながら、こっそりと食べた。
 将来はどうなることやら見当もつかない、不安定な日々の終わりの、唯一の安らかなひとときでもあった。

 あまり頻繁に行くものだから、赤白のユニホームの店員とすっかり顔なじみになり、閉店間際に行くと、一つ二つおまけをしてくれたりした。
 食べ残した分はそっと引き出しの奥にしまっておいて、夜食につまんだり翌日仕事から戻ってきて食べた。

 これほど僕を嬉しがらさせたケンタッキー・フライドチキンだったが、半年も経たずに閉店してしまったのである。そう言えば開店当時から、驚くほど客は少なかった。 こんな旨いものなのに、なぜミラノの人達につれなくされたのだろうか。

 下宿先の10才の子供の誕生日に食事に連れて行く事にしたとき「ケンタッキー・フライドチキンなんか食べさせないでくださいよ。」と奥さんに冗談めいて釘をさされたことがあった。
 もちろん!今日はもっとましな物をレストランで。
 でもどうして?
 子供が道々説明する。
「マンマはアメリカ人が食べる物なんか、絶対食べないんだ」

 あんな野蛮な国のものなんか食べて、腹でも壊されたらたまったもんではないと言うことらしい。

 なるほど70年代のイタリア人は自分の国の料理こそ世界一だと信じ、アメリカ人なんか料理もろくに知らない田舎者であり、中華料理や日本料理だって蛇や得体の知れないものを食べさせるらしいと、偏見を持つ人達も少なくはなかった。

 80年代になって、マクドナルドやブルガー・キングが店を出し、若者たちから熱狂的な支持を受けた。安くて気取りがなくて、とにかく新しい食べ物・・・そしてちょっぴりアメリカ的に生きている感覚・・・

 あれからまた20年も経っても、ますます彼等は繁盛して行くのに、不思議、K・Fチキンの看板だけはお目にかからないのである。
 今では訪れたほとんどの国々で見つけることが出来るのに、である。
 
 夜、ふらりと家を出て、ほかほかしたのを買ってきて、頬張りながらテレビを見たり本を読む・・・などは、未だに自分にとって懐かしいやってみたいことなのだ。

『ねえ、おじさん、どうしてイタリアで又、店を開けないの?』
 すると、いつもの眼鏡のニコニコ顔が、縦じわを寄せたきびしい顔に変わり、おじさんは答えるのである。

『わしは誇り高き頑固者でな。三十年前のあの愚かなイタリア人を今でも許すことが出来ないんだよ。あのとき、『将来絶対に、イタリアでは開店させないぞ!』と誓ったんだ』

 これは僕の勝手な想像にすぎない。だが、いつの日か笑顔のおじさんを、再びミラノの街角で見れる日を楽しみに待っているのである。(完)

| けんじの自己流イタリアングルメ | 15:05 │Comments1 | Trackbacks0編集

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コメント

「ケンタッキー」のこと、面白いですね!
私も大好きです?美味しいですよねェ?

2009.06.09(Tue) 15:57 | URL | wakko|編集

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すむらけんじ

作者: すむらけんじ
ミラノに住む広告イラストレーターです。このブログは今まで飼った猫、今飼っている猫のことを綴ったものです。
作者は左耳は生まれつき難聴にかかり、人口内耳に踏み切るまでの耳の歴史、未来のことなども連載しています。

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