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恐怖の大晦日


クリスマスも終って一段落ついたはずなのに・・・

年越しも近くなると、我が家の女主人はまたまたそわそわしてくる。
「やっぱりアンティパースト(前菜)は3種類はなくてはね。そしてプリモにポルチーノのリゾット、そのあとは・・・ああ、ありふれたものばかりだわ。今年は趣向を変えてみようかしら・・・・」
「ねえ、君、年越しパーティをまた我が家でやるのかい?ロッシの女房が引っ越し祝いに、今年は自分ところでやりたいって言ってたじゃあないか」
「無理よ。あんな小ちゃなアパートでは。今年はカップルが多いから12人くらいになるの。それに加えて、あなたの弟夫妻もローマから来るかも知れないし・・・」
「やれやれ、年越しくらい静かにノンビリと過ごしたいよ。大騒ぎはテレビだけで充分だ」

とにかく、大晦日のパーティーは今年もこの家で。
ボクは憂うつになる。動悸が早くなってくる気がする。
一年中で一ばん嫌いな怖ーい夜が訪れようとしているのだ。

31日は朝から、お手伝いさんも特別出勤して、ごちそうの準備。
すごいよねえ。14人分なんだから。
夜,9時前後から、客達は次々とピンポーン!とチャイムを鳴らして、手みやげを持って現れる。ご婦人達はめかしこんでいるけれど、男性はノーネクタイがほとんど。


                    〜

ああ、それにしても懐かしいクリスマス。

クリスマスの昼の正餐会はよかったなあ。
ミサにあずかった後、家庭の一同が集って・・・スキーに行くために欠席、などという我が侭は許されないで、家族以外の人間といっても、独身を貫き通した叔母さんとか、従兄弟くらいだから、本当に『身内だけ』の集いなのだ。
お腹いっぱいになったら、今度はプレゼントの交換。
猫が見たって下らない物ばっかり。
嬉しそうに開けて喜びと感謝のポーズをしたりされたり。
全員、すごく上手に演技する。毎年だから、演技もだんだん訓練されていくんだよね。
でも、見てて楽しいんだ、これって。
そのあとトンボンというゲームをやったり、みんなそろって広場の『キリストの誕生』のペルセピオ(雛人形)を見に行ったり・・・・ちょっぴり宗教的で悪くないなあ,クリスマスって。
ボクも美味しいものいっぱい食べて(クリスマスにしか出ないさい最高級のムースだって、たっぷりとね。旦那さんはちょっとつっついただけで、ぼくにまわしてくれるんだ)、あとは窓辺で、雪景色を眺めながら、うとうととする・・・

                       *


でも,年越しパーティは様子が変わってくる。
スキーに行ったりディスコに行ったりで、残された夫妻はのんびりとテレビを見ながら過ごすって家庭も多いらしいけど、レジーナさん(ここの女主人)は、まだまだ若いのだ。大勢集って、食べて喋って人生を謳歌する年齢なのだ。
彼女、まだ39才だけど、30過ぎにしかみえないのが自慢。
旦那さんはおっとり型の42才。

数年前までは、大晦日にはレストランに行ってたのだ。
レストランの中は溢れんばかりの客達。人息で気がふれんばかりだったとか。
だから年越しのレストランはご勘弁,ということになったらしい。
「我が家で騒ぎましょうよ。カップルだけで」
物静かなご主人シルビオさんの、無言の抵抗もなんの、パーティを始めたのが3年前からなのだ。

そして,今年も。

男も女もよく食べるなあ。
そしてよく喋ること。そしてよく飲むこと。
「飲酒運転の規制がきびしくなったんだってさ」
「交通取り締まりはどうせエピファニア(1月6日。冬休みの最後の祭日)後だろ。今夜はうんと飲まなきゃあ!」

3種類のアイスクリームとケーキが終った頃には、すでに11時55分をまわっている。
旦那さんはバルコニーに出してあったシャーペーンを取って来て栓を抜く準備をする。
奥さんはテレビのスイッチを入れる。どのチャンネルもばか騒ぎのショーばっかり。
彼らは刻々と迫る新年を待機している。

あと、6秒、あと5秒、4、3、2、1!
シルビオさんが、ポーンと栓を抜いた。タッポ(栓)は勢いよく天井まで飛び,跳ね返って花瓶の中に。
開け放した窓からドードードーンと爆音が。ボクは、一瞬、五感が麻痺し、体がふわりと宙に浮いた。

そして又、ドドドーン!
つんざくような、脳の奥までショックを与える爆音。目が回る。視界が白くなってくる。
「まあ、きれい!これを見なきゃあ年越し気分がでないわね!」
「ほんとだ!それに年ごとにエスカレートしてくるみたいだ。すっごく大掛かりだ」

サロンの窓をいっぱいに開けて、感嘆の叫びが続き、客の溜め息が漏れる。

ドーン、ドーン

「あ、今度は広場の方からだ」
彼らは、一団となって寝室の方に移動する。そこからテラスに出られるようになっている。
乗り出して、白い息をハーハー。
大人の花火鑑賞なのだ。

ドーンドーン。

「すっげえ!火の粉が家の中まで入って来そうだ」
そして、またどやどやとサロンに移動する。そんなことを繰り返す。
ボクはといえば、うろちょろヨタヨタしていたが、やっと家具の隙間に紛れ込むとうずくまった。
ああ、この地獄はいつまでつづくのだろうか。

ドドーン、ドドーン!

               
                 *

「もう、2時半を回ったわ。ああ,疲れた。明日は寝たいだけ寝てていいのよ」
奥さんは化粧を落しながらしんどそうに呟く。
「そうこなくちゃあ」

先にベッドに横になった旦那さんが、奇声を上げて飛び起きた。
「臭せえっ。メルダ!」
『ほんとだ。強烈だわ。どこからかしら?ねえ、ちょっと起きて見て!」

KYOUFU
               
                
「あっ、ここだっ!!」
「まあ、マックスったらなんて子なの。こんなこと初めてよ」
「花火でショック受けたんだよ。哀れな老マックス・・・」

普通ならちゃんと砂箱のなかで・・・だのに、ボクはベッドと壁の隙間に逃げ込んだときにやっちゃったらしいのだ。
精神分裂を起こした哀れな老ネコ。
肉体と魂は急速に衰えていく。
マックス、お前、もうおしまいだ。

「それにしても、随分立派なのやったなあ。マックスは」
旦那さんが感心している。そして彼は叫んだ。
「これぞ、幸ウンの印!2016年はきっといいことがあるぞ。ブラヴォー、マックス!」
意外なことでお褒めの言葉を頂いた。

「あれっ、こいつテレビの後ろにもやってらあ」
「サイドテーブルの下にもやってたわ」
そうなんだよね。ボクは4日間も『幸ウン』を家中まきちらした。
そして分裂症は正月5日になってやっと回復したのだった。

ふっと、ホシムクドリのおじいさんとの話を思い出した。

『花火こそ、われわれホシムクドリを衰退させる最高の恐怖じゃ』

ミランが勝ったから、インテルが勝ったから・・・・ワールドカップで勝ったから・・・・

歓喜のドドドーンで、心臓マヒで何万というホシムクドリが命を落すそうだ。

旦那さんはボクを抱き上げながら言った。
「マックス安心しろ!もう、大晦日パーティーは禁止だ。田舎に行って静かに年を超そうよな」
「まあ、そんなのって・・・・」不満顔の奥さん。
「可愛そうだよ。マックスが」

やさしい。
そんなこと聞くと、もっともっと長生きしたいなあって気持ちになっちゃうよね。

(K)

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作者の一言/これは5年前に書いたものです。大晦日のドンチャンさわぎは下火になってきているようです。このごろは高級レストランもメニュー均一のところが多くなっています。ロンドンに住んでる日本人の学者は宇宙放送で毎年『紅白歌合戦』を見るのがとっても楽しみと言ってました。
斜体文

| 猫が語る10の物語 | 02:44 │Comments1 | Trackbacks0編集

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コメント

挿し絵
やはり、研二さんの猫顔は、良いですね〜〜 ユーモアに富んだ文と挿し絵に惹かれますw〜 頑張ってネ👻👻‼️

2016.01.12(Tue) 16:24 | URL | Mako|編集

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すむらけんじ

作者: すむらけんじ
ミラノに住む広告イラストレーターです。このブログは今まで飼った猫、今飼っている猫のことを綴ったものです。
作者は左耳は生まれつき難聴にかかり、人口内耳に踏み切るまでの耳の歴史、未来のことなども連載しています。

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