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perusya


第一話 コーヒーはいかが?


ややっ!

バルコニーのバジリコもパセリもクチナシも、霜を冠ったようにまっ白けなのだ。

何とそれは積もり積もった猫の毛らしい・・・のであった。


上のほうから、ミャーオー。

すぐ上、4階のバルコニーの鉄格子の隙間から、一匹の猫が首を突き出してこっちを見下ろしている。
初めてお目にかかる猫・・・うーむ!犯人はおまえか?


逆光ではっきりとは分からないが、ペルシャ系の毛フカフカの大猫。

多分、淡いグレー?

すごく値の張る猫って感じ。普通の雑種しか飼った経験のないボクは,このびちゃっとへしゃげた顔が苦手だ。
そこへもう一匹、ピンク色のもっと小さなペルシャ猫が割り込んできて、顔をのぞかせる。何とも奇妙な光景だ。

2匹とも物珍らしげにボクを見おろしているのだった。



男がバルコニーに現れたので、ボクは反射的に身を引っ込めた。

またまた猫の毛を冠らされたらたまったもんではない。

男は白っぽい布をぱっぱっと叩いて家の中に入ってしまった。

真下からなので、顔は見えない。

降ってきたのはパン屑だった。
やれやれ、これから先どうなるんだろね。

peru.jpg


そんなことがその週だけで3回もあった。

バジリコ、パセリその他、人間の口に入る物はすべて急遽台所の窓辺に非難。

一度、午後のパッパッパの直後、殴り込み(実はただの抗議だけど)にボクが上がっていったとき、髭づらのぽちゃりした若い男がドアを4分の1だけ開けて顔をのぞかせて、ぼそぼそっと「わかった。わかった、安心したまえ」
そしてドアを閉めてしまった。

そして翌々日また、猫の毛とパン屑、爪楊枝までも、我がバルコニーを覆った。

また抗議に行ったら、例の無精髭の丸顔が二匹のペルシャ猫を両腕にだいてドアを開けた。そして可愛いだろうって言わんばかりにチュチュッと、頭にキスをしながら、分かってる!と言うようにうなずいて、ドアを閉めてしまった。

こいつ失業中?
このおにいちゃん、ちょっとアタマに欠陥が・・・




一階にアトリエを持つ画家のZと、真向かいのBARでアペリティーボとポテトチップをバリバリやりながら、だべっていたときだ。

いきなり彼はあごをしゃくり僕の肘をつっついた。

「おい、あの女だよ」
「何が?」
「猫の毛降らせるお前の上の住人だよ。バルバラっていうんだ」

この無名画家、アパート住人のことなら何でもかんでも知っている。ここに移って来てたったの2年しか経っていないなんて、とても思えない情報魔だ。
「へえー?」と答えて,女の姿を追う。

サングラスの女は進行方向とは逆に止めてある車に乗り込もうとしていた。

ボルドーカラーのランチャ。

女はドアを開けて、乗り込む前になぜかこっちを見た。

ボクを見ているようにもみえた。
やせたいかにも気のきつそうな女だ。
すらっとしていてセンスはまあまあってとこ。白いブラウスと黒のパンタロンが、ボルドーカラーによく合っている。


彼女はすばやく車に乗り込むと、ドアをバタン!と乱暴にしめた。

エンジンをかけると、いきなり逆に走り出したので、向かってくるタクシーとぶつかりそうになったが、強引に急斜めに反対側に行こうとする。

窓があいて、運ちゃんが大声でののしった。

Puttana Eva!!

随分下品な辛辣な言葉だが、運ちゃんの怒りも分かる。

だが、いっこうに無頓着、女の車は遠ざかって行った。

ボクは何とも憂鬱な気分にならざるをえなかった。 



門番のおかみさんが言った。

「あなたがとっても迷惑してるって、バルバラさんに言っときましたよ」
「ご親切にありがとう。彼女なんて言ってました?」

「あたしだって、うるさいオペラで、寝付きが悪いのよ。お互い様でしょ、だって」

何だって?

一度、CD止め忘れて、夜中の3時までマリア・カラスが派手にやっていたことあったけど。
たった一度だけの過ちだった、一度だけの。

「3枚もペルシャ絨毯もってるらしいの。猫の毛が充満すると、弟さんがバルコニーで、ぱっぱっとやって、ネ。分かるでしょ?」

「掃除機くらい持ってるんでしょう?ぱっぱってやらなくたって、シュッシュって」



<バルバラ夫人へ。
猫の毛でとっても迷惑をしています。
もう夏も近づいているのに窓も開けらないのです。
あなたがやめてくれないのなら、警察に訴えます。
それでいいのですか?   K>


ボクは手紙をしたためて、彼女の郵便受けに入れた。
いよいよ戦いは始まったぞぉって感じだ。
これからは敵と敵、エレベーターで一緒になっても、じろりと一瞥するだけで、知らん顔。議論は無用。弁護士を立てて解決してもらいましょう!

考えるだけでうんざりしてしまう。




2日後、バルバラからの返答の紙片を郵便箱に見つけたときは、ちょっと緊張した。

<Caro Kenji
(Caro?親愛なるケンジだって?これまた随分馴れ馴れしいではないか)

ごめんなさいね。
あなたがとっても迷惑しているってこと、よくわかっているの。

いつもお詫びに伺おうと思っていながら、新しい仕事にかまけて、そのままになってしまって・・・

お願いよ、もう少しだけ辛抱していただけないかしら。

猫は弟のものなの。弟にはこの猫たち画大切なの。

私はたびたび掃除機で毛を取っているんだけど,間に合わないのよ。

だけど、もうしばらくして弟にはトスカーナの施設に入ってもらうので、それまで我慢してね。


あなたはグラフィックデザイナーなんですってね。
お仕事頑張ってね。

バルバラ>



人のいいボクは、ついぐらぐらっと来てしまいそう。 

翌日門番のかみさんが言った。
「そんなに悪い人でもなさそうよ、バルバラって人。とっても弟さん思いで」



お近かづきにバルバラをコーヒーにでも呼ぼうかな。

「バルバラさん。コーヒーを一緒にいかがです、我が家のバルコニーで?」(K)


アパートに住むと必ず起こる日常茶飯の出来事を書きました。ボクも苦労したことたびたびです。


ーーーーーーーーーーーーーーーー

第2話 千春さんとニコライ氏のペルシャ猫
赤の広場
                          
 ペルシャ猫を二匹飼っている歌手の千草嬢から帰郷中彼らの面倒を見て欲しいと頼まれた。8月、彼女はスカラ座合唱団員の婚約者と二週間ほど島根に里帰りするとかで,その間、我が家で預かってもらいたいと電話をかけてきたのだ。
 でもその頃のボクは、我が家の猫、パンと弟分のノリ助が手を取り合って家出をしてしまった直後で失意と虚無感が大きく,人様のネコを預かるなんてとてもって心境だった。           
 しかもその頃住んでいた安アパートは五〇平米と小さく、大型のペルシャ猫二匹を預かるなど、想像しただけで身がすくむ思いだ。
 自分が飼っている猫なら、部屋中ピッピーをふりまかれても、吐かれたり植木をひっくり返されたりしても,何とか我慢はできる。これも猫好きの運命だと受け入れて。
 でも、よそ様の猫・・・
ペルシャ猫は毛が長く多くて、脱毛は凄いに決まっている。
 普通の猫だって夏はそうなのだ。しかもうだるような時期に。
 それを言うと、千草嬢、
『預かってくださるならバスルームの中でもいいのよ』
 平然と言い放ったのだ。    
『バスルームの中だって?』
 哀れなネコ達は二週間もバスルームの中に閉じ込められているってことなのだろうか。
 彼女、正気なのかな?
 猫も僕も気が狂ってしまうだろう。
 そしてだ。こっちが用足しにでも入いろうものなら、ハーッ、爪を立てて飛びかかって来るのでは・・・
 ボクは隣の家に駆け込むだろう。
「シニョーラ・マリーザ、トイレ貸してください~ッ!ああ、もう・・・」
「あらまあ、お宅のトイレ故障なの?」
「いえ、今、猫が使用中でしてェ~ッ!」

 僕はガン!として断った。失望する千草嬢。
彼女が気の毒で、結局、ボクは毎日ポンコツでミラノ市内を東から西に横断して、彼女の家まで餌を与えに通うことを申し出たのである。
 八月はヴァカンスで人も車も少ないから、片道四〇分足らずか。幸いミラノは大きくない。
 二匹のペルシャ猫は何とかいう純血種だそうで、その見事な毛並みとオパール色には見とれてしまうが、僕はあのぐしゃっとつぶれた顔が苦手だ。いつも怒ったような顔しているし、どうして鼻があんなに上についてるのだろう。
 猫であれ牛であれ、ボクは整った美男美女型を好むのである。
 専門書には、ペルシャ猫は一般におおらかであまり構われるのを好まないとでているので,ちょっと安心する。(雌の)爪もちゃんと切っとくわ、と彼女は言った。
 [性格はそれぞれ違うの。テオドールはおっとりしているけど、雌のフィクセーニアのほうが何とも気がきついの」
 込み入ったお名前。寄りによって何でこんな名前を?
 実は、ロシアの作曲家ムソルスキーのグランド・オペラ『ボリス・ゴドノフ』の皇太子と王女様の名前なんだそうな。
 イタリア人の旦那は半分ロシアの血が混じっているとかで、ロシアは第二の故郷。名前だってロシア読みに、ニコラをニコライと呼ばせているほどなのだ。そして彼の最も敬愛するオペラが,この『ボリス・ゴドノフ』なのだそう。ボクもスカラ座で見たことがあるけど、長ーいながいオペラだった。物語りもすっごく込み入っていて難解きわりなかった。
 猫ちゃん達のなまえ・・・ピンケルトンとチョチョサンだったら、ボクだって簡単に覚えられるんだけどね。
まきこさん 2

 彼らが出発した翌日。
 留守の人様の家にそっーっと入るのはよい気持ではない。ミラノに来て初めての経験だ。

「お邪魔しまーす」

 この匂いは何だろう?猫の匂い?ウンチの匂い?毛が長いからお尻の回りにくっついているのかな?夫妻が出発してまだ一日も立っていないのに、ねとッとした蒸れた匂いが鼻をかすめる。ミラノの真夏は猛烈湿度が高い。  
 猫どもの姿は見えない。まず窓をいっぱいに開け空気を入れ替える。
 ご飯用にお皿が二つ並べてあるので,指示されただけの量を盛りつける。ピンクとグリーンの器。水用の器は共用。
 いつの間にか皇太子と王女様はグランドピアノの上に乗っかって、おこってるのか笑っているのか分からない顔でご飯と僕を代わる代わる眺めている。

 準備ができても動こうとしないので、サロンで本でも眺めているふうをする。さすが、ムソルスキーはじめロシアの作曲家のオペラの楽譜 や写真集、解説書などがいっぱい。夫妻の旅行写真が飾ってある。サン・ピエトロブルゴらしい風景。

『ペルシャ猫の飼い方』という本を見つけたのでパラパラっとページをめくる。

<眼と鼻の距離が短いため、器官が詰まりやすいので、涙をきれいに拭ってあげてください>

やれやれ、大変だね、ペルシアーノを飼うのも。
<とても長いもつれやすい毛なので、毎日朝晩必ずコーミングが必要。鼻が短いので食べるのが下手です。食後は必ず口のまわりを綺麗に拭いてあげること>

 はじめの四、五日間、猫達と情愛を交えるまでには至らなかった。ガツガツ、なりふり構わず喰い終わると、プイっとどっかへ姿を消してしまうのだ。千草嬢は感謝の気持ちを表現する教育はしなかったのかな?

 テオドーロは段々とボクに近づきはじめた。
ボクが訪れると、尻尾をすりつける。可愛い。へしゃげた面もご愛嬌に見えて来るというものだ。
フィ~ィ~・・・フィクセーニアはそうはいかない。そっくりだから、間違えて抱こうとしたら、ハーッときやがった。
 食欲のほうは、雄、テオドーロ以上だ。

 話が前後するけど・・・
 日本への出発の前日、アパートの鍵を届けにきてくれた千草嬢が言った。
「もし出来ればだけど・・・毎日だいたい同じ時間に来ていただけないかしら?」
「あ、そう?何時くらいに?」
「我が家では毎朝,八時かっきりにごはん与えてるの。ニコライがとっても几帳面で、これは彼の仕事なの」
 ちと早いけど,まあいいや。その方が涼しいもんね。

「お宅のネコちゃんは規則正しい生活に慣れてんのか」
「あらっ!それ、とっても大切なことなのよ。ネコにとって規則正しい生活は」

 知らないのォ?あんた、それでよくネコ飼えるわねェって、口調なのだ。
 でも、キミ、トイレに閉じ込める気だってあるんだろ?要するに飼い主の感性と習慣の相違なんだ。
 ボクの猫飼哲学はこうだ!
 ネコはもともと野生の動物。基本的に決まったごはんの時間なんてなかったのだ。
ボクも駆け出しフリーデザイナー。食事の時間なんて決まってない。そのときの都合と気分と胃袋の加減で1~2時間早くなったり遅くなったりは毎度のことだ。忘れてしまうことなどたびたび。ネコ達も右ーィ、習えってこと。

 perusia.jpg
       
 さて、ある日、千草嬢のアパートに午後四時ころ行ったことがある。まる八時間の遅刻だった。朝6時半発の日帰り出張でボローニャまで出かけ、どうしても時間が取れなかったのだ。

 ドアを入るなり、方っぽうは待ってましたとばかり体をすり寄せてきた。
「ボクお腹すいてるよー、ミャオ~ミャオ~」
 悪かったな、勘弁してな。
 だが、フィクセニアのほうはハーッと牙をむき出して、遅メシに抗議するではないか。

 お前ら、たまにはこんなこともあるってことも、経験するんだ。
 ネコは水さえ飲んでいれば3、4日くらいは平気で生きているって、専門書に書いてあったぞ!もともとおまえらは大げさな奴。半日遅れても3日くらい食べてないみたいな悲壮な声で迫ってくる。オレは充分知り尽くしている。ダマされないぞ。
 まあ、明日はいつもの時間に来るから、ハーっなんてするの止めてくれよ、ニャ。(完) 
      

ひとこと その後、千春さん(仮名)ともご無沙汰していたが、最近、ぱったり出会いました。旦那も定年になって、ヴェネト地方で畑を耕して二人でのんびりと田園生活を送っているとか。前のペルシャ猫はとっくに死んでしまい、新しい猫はやはりペルシャ猫。あの、へしゃげた顔が苦手だと言ったら、『そこがいいのよ』と笑っていました。

| 猫が語る10の物語 | 17:24 │Comments0 | Trackbacks0編集

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すむらけんじ

作者: すむらけんじ
ミラノに住む広告イラストレーターです。このブログは今まで飼った猫、今飼っている猫のことを綴ったものです。
作者は左耳は生まれつき難聴にかかり、人口内耳に踏み切るまでの耳の歴史、未来のことなども連載しています。

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